合同訓練 4
現在、訓練場の両端には高等部Aクラスと中等部Aクラスが対峙して試合開始の合図を待っていた。
高等部の方はそこまで緊張する事なく未だにルミナいじりをやっていたが中等部は日向を除いた全員がガチガチに緊張していた。
「みんな、私が指示するからそこまで緊張しなくていいよ。みんなでがんばろー!」
日向はそんな空気を何とかしようと励ましているがイマイチ効果がなかった。
ちなみに審判は楓である。ミルとアルは邪魔にならない様に上の観覧席で見学だ。
「お互い準備出来たな。始めるぞーっとその前に、緊張し過ぎだぞ中等部。さっきの威勢はどこにいった?」
楓は中等部のAクラスに発破をかける。するとゼインを筆頭に何人かの額に青筋が浮かび上がり気合を入れ始める。
『分かり易いですね』
言ってもまだ子供だからな。扱い易くて助かる。
楓は自分もまだまだ中坊だが。と心の中で付け加えてやる気になった中等部の方、というより日向に視線をやり問題なさそうなので試合を開始する。
「じゃあ、開始!」
楓はそう言って空に向かって花火のような魔法を放ち試合開始の合図にした。
が、その花火に全員の視線が向かった為すぐには試合が始まらずお互いの指揮官が指示を出す迄数秒の時間が必要となった。
「とりあえず支援魔法をかけるね」
日向は模擬戦が始まってすぐに四十人全員に一気に支援魔法をかける。
いきなり地面にピンク色の魔法陣が広範囲に現れて中等部の生徒たちは驚いていたが自分たちの変化に気づいてだいぶテンションが上がっているようだった。
「ヒナタ!それはずるいんじゃない?」
ルミナは大きな声で日向に向かって冗談交じりにそう言った。
今では日向とルミナも家族なので遠慮なしに小言を言える仲になっていた。
「ハンデだよー!これ位は許して、ほい!」
日向は笑いながらワザとおどけて見せていきなり水属性の魔法を放った。だいたい威力は中級魔法くらいだ。
日向は魔法の名前を言っていないのでいくら創造魔法と言えども威力が少し落ちる。
「くっ!」
唯一ルミナだけが日向の不意打ちに気が付く事が出来たのでそのまま魔法を一刀両断する。
魔法を斬る時だけ超身体強化を使ったのだがそれが分かったのは楓達『無限の伝説』のクランメンバーだけだった。
当然、中等部の担任も気付いていない。
「すげぇー」
「ヒナタさんすごいです!」
中等部の生徒達は日向の魔法に驚き皆尊敬の眼差しを向けている。
一部の男子はそれ以上だったが日向はそれに気付いていない。というか興味がなかった。
「もう!ヒナタったら!みんな敵はヒナタだけよ!今の私一人じゃ近接戦闘でもヒナタに勝てない。だからみんなで押し切るわよ!」
ルミナは自軍の仲間にそう言って一番最初に駆け出していく。
「俺達も行くぞ!」
「えぇ、ヒナタ先生にも一泡吹かせてやりましょう!」
それにつられて他の生徒もルミナのサポート役、別機動部隊にマークを指揮官として動き出した。
モニカやニース、ダントもクラス対抗戦での経験を生かして上手く立ち回っている。
「よし、私達も迎え撃とう。ルミナは多分私じゃないと対処出来ない。後マーク君達も要チェックだよ。
支援魔法はかけたけど過信し過ぎちゃダメだよ。確実に2対1、3対1の状況を作って各個撃破していこう!」
「「「おー!」」」
日向はルミナ達を迎え撃つ為に全員に指示を出す。
日向はルミナ、マーク達実力者を片付けないと中等部の生徒達だけでは一瞬で戦線を崩される為一番最初に戦場へと駆け出していく。
楓は今空を飛んで上空から日向達の様子を伺っていて楓目線で今の状況を説明するとルミナチームはルミナを筆頭に少数が日向の単独撃破を狙い正面で複数対一の状況を作り出している。そしてそこに邪魔が入らない様にマークが指揮官の部隊とモニカ、ニース、ダントを筆頭とした部隊が左右から残党処理をする感じとなっている。
一方で日向チームは日向が単独でルミナ率いる少数精鋭部隊と対峙して残りは日向の指示通り各個撃破を目指して三人一組の即席パーティーが作られていた。
それを半分に割って日向の邪魔はさせまいと両端からやってくるルミナチームの相手に向かって駆け出していく。
今回は楓が武器を用意しており様々な種類の武器がある為皆色んな武器で戦いを繰り広げる事となった。
「せりゃあ!」
「なんの!」
先に戦闘が始まったのはマークの部隊とゼインが率いる部隊だった。
日向はルミナとの戦闘であまり余裕がない為、手が出せなかった。
別にこれが戦争となれば日向は魔法で一瞬で全てを焼き払ったり自然災害をバンバン起こすが模擬戦なのでそこ迄出来ない。
これがマークを相手にするのなら全てを見ながら相手が出来ただろうがルミナなのでそこ迄近接戦闘では余裕がない。
日向はルミナが楓によって強くなっていることをすでに知っているため今までとは違うということをしっかり気をつけながらもうすぐやってくる戦いに備える。
ちなみに武器はルミナが剣で日向が杖だ。日向は近接戦闘になる事が分かっていたが剣よりも杖を使って魔法を織り交ぜた方が良いと判断し自分の身長と同じ位の杖を用意した。
あまり大きな魔法を使うと味方にも魔法が当たってしまう為今回、一番しんどいのは間違いなく日向だろう。
「ヒナタ、悪いけど勝たせてもらうわね」
「いやだよーだ。ルミナこそそんなに人を連れて来て卑怯だよ!」
「この人数でも貴方に近接戦闘ですら勝てるか分からないのよ?これ位のハンデは許してほしいわ。でも、すぐに私もみんなの役に立てる様に頑張るわ」
「それは楽しみだね」
ルミナは日向に、そして楓達にそう宣言する。
まぁ、ルミナに関しては誰も心配はしていない。元々が努力家なのをみんな分かっているし力に溺れるとも思えない。
なので、このルミナの宣言には日向は嬉しそうにそういうだけだった。
「じゃあ始めよっか」
「えぇ、みんな頑張りましょう!」
日向の合図が戦闘の始まりとなりお互いが更に距離を詰めていく。
これから遂に大将同士の戦いが始まる。
あれ、これ趣旨が違くないか?
『中等部に全く焦点が行ってませんね…』
今更、日向を大将にした事が失敗だと気が付いた楓であったがまさに今から熱い戦いが始まっていくのだった。




