クラス対抗戦 4
楓は今、Aクラス限定で滅茶苦茶視線を集めている。
というのもさっきの威圧が相当効いたみたいだ。だがそのおかげで今は誰も大会の空気に飲まれていない。
『マスターの空気になら飲まれてますが…』
「落ち着いたか?」
楓は生徒達全員の震えが止まった所を確認して全員の前に立つ。
日向達は後ろの方で楓を見守っている。唯一三人だけはそこ迄驚かないで済んだ。日向とミルもあの位なら耐えられる様になってきたのだ。
「まず第一に、情けないぞお前ら」
楓の第一声はそれだった。若干の怒りを威圧に乗せてまたAクラス限定で放つ。
「他のクラスを見てみろ。有象無象はともかくリーダー格は誰も臆していない。なのに何だ?このクラスのリーダーはルミナだけか?」
楓は生徒達全員に語りかける。今、Aクラスの生徒達は誰一人として楓の言葉を聞き流す様な生徒はいない。
「違うだろ、このクラスはエリートなんだろ?他のクラスの有象無象とは違う。誇りを持て。この様子じゃあ勝てる試合も勝てなくなるぞ?それは出場するメンバーだけではない。応援する全員に言える事だ。いいか、もう一度だけ言うぞ?自分達に誇りを持て!」
楓は今迄にない位先生とした風格を纏わせ生徒達一人一人の目を見て全員に語りかける。
今、この時を経てAクラスは進化した。全員が一つの殻を破ったと言えるだろう。
もう、誰一人として先程みたいに緊張に支配された様子はない。
そしてここからは選手交代だ。楓が後ろに下がり代表してルミナが前に立つ。なかなか様になっているのが面白い。
「そうよ、私達の目標は何?優勝でしょ?こんな所で怖気付いていられない。幸い、教職員枠ではカエデ先生が優勝してきてくれるらしいから私達も負けない様に頑張りましょう」
ルミナがそう言い終わるとクラス全体から大きな拍手が送られていた。
楓が優勝云々の所では全員が苦笑いをしながら頷いていたのでこちらの優勝は疑っていないのだろう。
なんせ、一度全員がコテンパンにやられているのだから。
そんなこんなでAクラスの空気がだいぶ良くなり出場する選手たちの調子も戻ってきたところで開会式が行われる。
開会式といってもそこまで堅いものではなく全員がその場で立ち学院長の言葉を聞いているだけだった。
その時に、誰一人として微動たにしなかったのは楓も日向も素直に凄いなと感じた。
何せ日本にいた時のこう言う偉い人の話といえば隣の奴らとちょっかいを掛け合ったり声を落としておしゃべり会が開催されたりと結構五月蝿かったからだ。
楓に至っては立ったまま寝ていた時もあった位だ。
そんな異世界ギャップに驚きつつ学院長の話も終了していよいよ競技開催宣言がなされる。
ちなみにみんなは気付いていないだろうが宮廷魔術師長は学院長と共に貴賓席で生徒達の戦い振りを見ていた。
気付いているのは楓達だけであるが…
今回のクラス対抗戦の対戦順だが一番初めは何とAクラス対Dクラスだった。その次がB、CでA、Cと総当たりになっていく。
ちなみにあのムートのいるBクラスとの戦いは一番最後になっていた。
「よし、ルミナ達いくぞ」
そろそろ始まる筈なので楓はルミナ達五人を引き連れて戦う所迄連れて行く。
ちなみに1試合ずつ順に行って行くので全クラスに戦っているところが見られるようになっている。まぁ、ど真ん中にあんなにデカデカと競技場が一つしか無いので必然ではあるが…
どうせだったら同時進行でやればいいのにな。
『流石に休憩時間を取らないと生徒達のスタミナも持たないでしょう』
あ、それは抜けていた。どうせ後は見世物に近い理由だろう。出場していない生徒達からしたら強い生徒達を大いに参考にする事が出来るからな。
「よし、じゃあ最初はモニカ行ってこい。負けたら承知しない」
「分かりましたよー!見てて下さいね!」
モニカは元気にそう言って試合開始位置迄走っていく。
一応大将等と決めてはいるが誰が何番目に出てもいい事になっているので最初にモニカを行かせる。
場外判定はこの線から出たら認められるのだが直径100メートルあるので殆ど場外にされる心配はない。
純粋な剣での勝負になるだろう。ちなみに今モニカが持っている剣は自分で作った剣だ。というかAクラスは五人共あの時に作った剣なのだが…
下手に新しいのを買うよりもだいぶ馴染んだやつの方がいいのとそもそもあれを超える剣がそうそう見つからなかったりする。
相手の選手はだいぶ緊張した面持ちでモニカと対峙する。この時点で楓はモニカの勝利を確信した。
「それでは、始め!」
審判が開始の合図を出したと同時にモニカは全力の一振りを相手にプレゼントしていた。相手の生徒は緊張していた事もあって反応が鈍りそのままモニカの全力の一振りを頂戴して試合が終了した。
何ともあっけない…だが、その分モニカと相手の選手の実力差がよくわかる試合となってしまった。
相手の選手には気の毒だが流石にその程度ではAクラスの誰にも勝つ事は不可能だ。
相手の選手もいきなりの事で反応が出来なかったのかあれ?みたいな顔をしている。
「勝ちましたよー!カエデ先生!」
モニカは戻って来るなり早々楓に労いの言葉を求めた。
こう言う所は16歳になっても全く変わらないのだろう。ルミナではこう素直にはいかない。
ルミナは羨ましそうに見ていたがそれに気付いたのは応援席で見ていた日向とミル位だった。二人の観察眼は日に日に進化している気がする…
「おめでとう、モニカ。最初に出て行ったのは偉かったぞ。とりあえず一勝目だ」
楓はそう言ってモニカを労う。他の四人もモニカが一勝したことによってだいぶ士気が上がって来ている。
向こうのクラスはだいぶ焦っているようだが…
そして、2試合目のマーク、3試合目のルミナ共に相手に一矢も報わせず叩き潰していた。
完封勝ちだ。流石に相手が可哀想になってくるレベルだった。少し気合を入れて教え過ぎだったかもしれない。
他のクラスも今のを見てだいぶAクラスに闘志をたぎらせているようだし…
「おめでとう、でも少しやり過ぎたな」
やり過ぎたおかげで完全にAクラスが浮いている。
楓は五人の前でそう言って苦笑いをするのであった。戦った三人は笑って誤魔化し残りの二人も自分が出ていたらと想像してこちらも笑って誤魔化していたのだった。




