バルバトスからの指名依頼
勇者達との攻城戦があった日からちょうど1週間が経った。
あの後、勇者達はすぐに王都から出ていきシュトガルの迷宮に再挑戦するそうだ。
残念な事に拠点は王都にするそうだ。何でも日向達にボロボロにやられたのが相当悔しかったらしく今回はしっかりとトラップを解除出来る人を雇って行くらしい。
そして、楓達はクランランクが一つ上がりFランクからEランクへと昇格していた。
この1週間、ガンガン依頼を回していたから冒険者ランクも一つ上がってBランクへと昇格していた。
次のAランクに上がるにはまた試験があるらしいのとBからAに必要な成績は半端ないらしい。
そして今日の予定とは…
「また、王城からの呼び出しか…」
普通、一介の冒険者がポンポン王城に行っていいものではない。楓はミルと婚約している為、別に問題はないのだが楓自身バルバトスの口車に乗せられそうであまりいい気はしないみたいだ。
「はい、でも今回は私だけじゃなくて旦那様と私、ヒナタとアルの四人が呼ばれているので個人で面倒臭い事にはならないと思いますが…」
ミルはそう言っているがどこか不安そうだった。
面倒臭い事を押し付けられるのは確定なんだな…
「まぁ、楓くんがいたらなんとかしてくれるでしょう」
「だね、基本的にカエデに任せておけばなんとかなるよ」
「お前ら…」
信頼してくれるのは嬉しいが…なんだか釈然としないな。
『良いじゃないですか。マスターに任しておけばなんとかなるのは確かですし…』
まぁ、なんとかするけどさ。
「じゃ、とりあえず準備が出来たら行ってみるか」
「りょーかい!」
「分かりました」
「楽しみだね」
三人共賛成してくれたのでそれなりの服を着て会議室で待っている。
エリスが紅茶を入れてくれたからそれを飲んで待っている。
いつも何か集合があれば一番準備が早いのは楓で、待っている間は紅茶を飲むのが日常化している為エリスもすぐに紅茶を用意してくれた。
それからしばらくしてからアルが来て、日向とミルが一緒に入ってくる。
準備が出来たので歩いて王城迄行く。いつもは馬車が迎えに来てくれるが今日は自分達で王城に行く。
たまには買い食いをしながら王城に行くのも悪くないだろう。
「お、美味しいです!」
ミルはお姫様だったので買い食いなんてお付きの人に許してもらえなかったらしいが今は誰も注意する人がいない為ミルも思う存分買い食いを楽しむ事が出来た。
「たまにはこんなのもいいな」
「だねー、たまに出店の味が恋しくなるよねー」
日向も楓と同じ意見のようだ。王都の出店は他の都市の出店よりも賑やかで活気がある為見ているだけでも楽しい。
「あー、このまま帰りてぇー」
楓は心の底からそう思うのであった。
「『無限の伝説』です。今回は国王様に呼ばれて来ました」
楓は門兵にそう伝えると軽く質問されて中に入れてもらえた。
事前に話が通っていたのだろう。誰も騒ぎ立てる事はなかった。
中に入ると何人か先週指導してあげた騎士団や宮廷魔術師と会って皆一様に楓達に向かってお辞儀をしていた。
その光景に楓達の事を知らないメイドや兵士達が驚いていた。
「ここでお待ち下さい」
そう言って連れて来られた場所は最初ミルを助けた時に呼ばれた部屋だった。
なんだか懐かしいな。
「なんだか懐かしいですね」
ミルも同じ事を考えていたみたいだ。
「そうだな、不謹慎だがあの時ミルと出会えて良かったと思ってるよ」
「私もです」
ミルはにこやかに微笑む。かあいい。
『マスター、日向さんが拗ねてますよ』
「日向も妻に出来て良かったと思うよ」
「ほんと!ありがとう!」
ふぅ、ギリギリセーフだった。やっぱり両方に気を使うのは大変だ。まぁ、嬉しい苦労だから全然いいんだけど。
それからしばらく四人で雑談を楽しんでいるとバルバトスが部屋に入って来た。
「やぁ、カエデ。この前はお疲れ様」
「こちらこそ、審判の方ありがとうございました」
バルバトスが入って来た事によって今声を出しているのはクランマスターである楓とバルバトスだけだ。それ以外の三人は静かに見守っている。
「それで、今日はどうしました?」
楓は恐る恐る本題に入って行く。
「あぁ、それが…ね。実は王立学院の冒険家の先生が怪我をしてしばらく入院しているんだ」
「それで?」
楓は大体先が読めたが一応最後まで聞く。
「良ければ君達に代わりをやって欲しいなと」
「無理です」
そんな面倒な事なんで引き受けにゃいかんのだ。
「あー、せっかく審判やってあげたのになー。しかもあの後勇者が迷宮に行く様に上手く立ち回ってあげたのになー。疲れたなー」
「うぐっ」
それを言われては何も言い返せない…
「やってくれるね?」
バルバトスの笑顔が怖い。断れないなぁ。
「わ、わかりました。引き受けさせていただきます」
楓は渋々バルバトスの要求を引き受ける。
「ドンマイ、カエデ」
アルはこうなる事を予想していたかの様な笑顔で楓に言う。
まぁ、俺もこの話が出てきた瞬間断れない事は分かってたけどさ。
「まぁまぁ、これは正式に王家からの指名依頼にさせてもらうからランクアップも近づくだろう」
「ありがとうございます」
それがせめてもの救いだな。
楓はそうやって無理やりモチベーションを上げて行くのであった。




