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第17話 大賢者は魔法を勉強する

 ばぁばから魔法のことが聞けるというのは、この世界の人からすれば贅沢すぎることなんだと思う。


「さっき魔法は自分の魔力を使うということを話したね。そもそも魔力というものは大小あれどこの世界の人族なら皆もっているもので、それを活かせるか否かは訓練次第でどうにかなるんだ。だから、使えないと嘆くことは必要のない労力なんだよ」

 俺も訓練すれば使えるようになる、『鍵』が外れる、ということか。


 ばぁばからは主に魔法の基礎について教えてもらった。忘れるといけないので、バッグに入れていた社畜予定帳とボールペンを取り出してメモした。マーリンさんの異空間で忘れずに入れておいたことが効を奏した。もちろん、二人がボールペンに食いついたのは言うまでもない。特にアニーにはまだこの世界に来た経緯を伝えていないからなおさらだ。マーリンさんからもらったと適当に流した。


 魔法の発動には手段がいくつか存在し、最も多く用いられているのが『詠唱発動』だという。発動者が魔力を魔法として具現化するために、より確実に現出させたいからと利用するらしいが、ばぁばはこの方法を勧めないとはっきり言い切った。


 他には「魔法陣発動」があり、これは魔法の発動が極度に苦手とする者に向いているという(正式名称は魔法円陣式発動というみたいだけど割愛)。例えば火の玉を打ち出すという魔法なら、どんな魔法をどの程度の魔力を使いどのぐらいの威力にするのか、そしてどこへ向かって打ち出すのか、などという情報を円陣に記すことで、魔力を流し込むだけで発動するというものらしい。どうやらこうした魔法陣を売っている店がいくつかあるらしく、実はアニーも持っていた。といっても、アニーは生活用として所持していただけで、対魔物においては精霊魔法で十二分とのこと。

 また魔法陣の便利なところは、時限式発動できたり、半永久発動が可能になるよう組み込むことも可能になるようだ。あの路地裏の魔道具と一緒にあった魔法陣ももしかしたらその特性を利用したものだったかもしれない。

 ただし、この発動は常に円陣式を描いた紙を持ち歩くか描かなければならず、特に描いて発動したい時、流動的な局面にかかると不利に働く。そうはいっても理解が進めば路地裏のことがあっても解読可能になるから覚えておいて損はないみたい。


 そして、もうひとつの発動方法が『無詠唱発動』。ばぁば曰く、必ずこの方法で魔法が使えるようにならないと話にならないという。大魔法士がいうのだから間違いない。この方法は早い話、どんな魔法を出したいか思った瞬間に発動させるものだ。発動までの『詠唱』や『円陣式』といったプロセスを省くことで、流動的な局面の対応力が格段に向上するという。また、わざわざ『詠唱』して手の内を知られなくて済む利点もあるみたい。

 でもそれって、対魔物じゃなくて人語のわかる対人戦を想定しているみたいだ。そう話したら、世の中いい人だけじゃなく命を狙われる可能性もあるんだからねと二人に諭された。なるほど、勉強になります。


 そして魔法の属性も確認した。火・水・風・土といった四大属性があり、俺のように回復や結界魔法については支援魔法として位置づけられているよう。

 俺に支援魔法のスキルがあることにアニーが感心していたが、支援魔法を使える人は実はそれほど多くなく、支援魔法使いを探している冒険者パーティーが数多くあるという。まずはそれをものにしたほうがいいと、ばぁばも大きくうなずいて勧めた。薬を作るときにも使うから、確かにそうしたほうがいいだろう。

 あれ、もしかして、ばぁばがポーションを作っているのは回復魔法が使える人が少ないからなのか?そう問うと、「お見込みのとおり」と首肯して言った。

 ちなみに四大属性魔法は用途が様々なため、徐々に覚えていけばいいと言われた。お金ができたら魔法屋(というのか?)に行って円陣式を購入して勉強してみると言ったら、それでいいとばぁばにお墨付きをもらった。もちろん、実際に行使するときはばぁばに見てもらった方がいいだろう。

 他にも属性があるようだけど説明は省かれた。後々勉強することになるから今はいいか。


 さて、実際にどのように魔力を使うのか、これが一番聞きたいところだった。

「ははっ、そんなの訳ないさ」

 とばぁばは笑いながら説明を始めてくれた。


 この世界の人間には必ず体内に魔力溜りのようなものが存在し、その溜りから魔力を引き出すことから始まるという。

 俺に必要な訓練は、まずここからだとばぁばに言われた。

 魔力溜りの場所は人それぞれだというが、大抵の人はへその下のあたりに存在するという。

 それって、『丹田』じゃないか?ムキウサ達と対峙した時、意識して深呼吸し、気持ちを落ち着けてから戦ったような・・・。

 ばぁばに戦った当時のことや意識して深呼吸したことなどを話してみた。

 アニーが何か言いたそうだったけど、ばぁばが話し始めたので口をつぐんだ。

「ジンイチロー、それは魔力を引き出した成果かもしれないね。しかも、魔力を身体機能強化に使ったんじゃないか?一部の戦士や剣士にしか伝わっていないとされている方法なんだよ。よく出来たもんだ」

 そ、そんなものか?あのムキウサ達がそれほど強くなかったから倒せたようなものなんだけど。

「魔力を身体機能強化のために使うやり方は、はっきり言ってその感覚自体よくわからん。こればっかりは使用者にしかわからないんだ。きっとこれは得手不得手だけの問題じゃなく、使用者の特性もあるんだろうねぇ。いずれにしろ、魔力の引き出し方は出来ているとみて間違いない」


 それならあとは・・・。


「うん、あとは魔法を現出させる練習だ。だが回復魔法といった支援魔法は、実は非常に難しくてね。私もどう教えていいのか悩むところなんだよ」

 ここまできてそれですか!メモを取る俺の手が止まってしまう。

「この支援魔法については『詠唱発動』や『円陣式』を利用した方が楽かもしれんが・・・。ジンイチロー、そもそも『回復』とはなんだね?」

 回復か・・・。

 言われてみれば、どう説明していいのか・・・。

「まぁ簡単な話、体力が落ちたら回復させればいい。魔力が少なくなれば回復させてやればいい。毒に犯されたなら治せばいい。全部、『回復』なんだ。つまりだね、相手の状態に対して的確な『回復』を施してやればいいんだが、これが中々『言うが安し』でね。最初はうまく出来ないんだよ」

 ばぁばが言うんだから、会得するには時間がかかりそう。俺はもっと簡単にできるんじゃないかって考えていた。

 ・・・そう、子どもの頃に親にしてもらった「痛いの痛いの飛んでけ!」だ。


 元の世界で聞いたことがある。「手当て」というものは本来、自身の中にある気を使って回復を早めるものだと。

 つまり、それに魔力をプラスしてやれば回復魔法が使えるんじゃないかと。

 または、魔力をシャワーのように対象に当てがって、ポーションを浴びせているイメージでやってみたらどうだろうか・・・。


 どうですか?俺の考え方は?


「・・・・・」

 ばぁばは黙ったまま俺を見つめる。首肯もしてくれない。

 ちょっと考えが浅かったか・・・。

「ジンイチロー、まずはそれで試行錯誤を繰り返して練習してみるといい。自分なりの方法を見つけてみるんだ。行き詰った時に私に聞きなさい」

 ばぁばは否定しなかった。やり方があっているかどうかは分からないけど、気にせずやってみよう。


 それにしても、自分自身に失笑してしまいそうになる。ばぁばと会って、昨日の俺と今日の俺がまるで別人のように感じるほど変わってきたように思う。スキルに『鍵』がかかっていてよかったと昨日は思っていたのに、今日は『鍵』を解除しようとする方法を見つけようと頑張る俺がいる。



 さて・・・ここまで色々聞いてわかったことは、結局自分でなんとかするしかないということ。

 もちろん、ばぁばが直ぐにでも魔法を使えるように施してくれるとは思っていなかったけど。

「すぐ使えなくても気になさんな。元々使わない生活をしてきたんだからね」

 ばぁばが微笑む。

 そしてアニーも続けて俺を見つめる。

「ジンイチロー、ごめんなさい。まさかここまで魔法が使えないとは知らずに・・・。精霊のことも、私・・・自分のことばかり・・・」

「いいよ、アニー。それに精霊を理解したいって気持ちは確かだし、俺が決めたことだから」

「それならいいんだけど・・・」

 もし気にしているようなら、俺の回復魔法の被験者として協力してもらおうかな。

 冗談半分で言ったら、

「えぇ、もちろん協力する」

 と、今日イチの笑顔をもらった。油断してるときのそれ、反則ですからね。

「ふふふ、何やら楽しくなってきたねぇ。おや、悪いね。私ばっかりお茶を飲んじゃってスッカラカンだよ。今用意してくるよ」

 ばぁばが立ち上がり、キッチンへ向かった。



 俺とアニーは特に言葉を交わさず、しばらく窓から見える景色をボーッと眺めていた。

 どれくらい無言の刻があっただろうか・・・。

 不意にアニーが呟いた。

「あなたが精霊に好かれる理由、なんとなくだけどわかる気がする」

 うーん、いまいちよくわからない。でも強いていえば・・・

「それはよくわからないけど、こうして何も考えずにボーッと景色を眺めて過ごす時間、俺は好きだよ」

 途端にアニーの表情が固まった。かと思ったら、さっきみたいな笑顔になった。いや、それ以上かも・・・。笑みを含んだまま、カップに残ったお茶を口にしていた。

「どうしたの?」

「・・・なんでもないわ。気にしないで」



 ドンドンドンーーー



 玄関を大きく叩く音が響いた。

「おやおや、今日はお客さんが多いねぇ。ジンイチロー、悪いけどお迎えしてもらっていいかい?」

「はい、行きます」

 キッチンからの声に応えて、玄関へ赴く。


 ドアを開けたら、向こうの景色が隠れるほどの巨体がそこにいた。


「さがしたぞ、大賢者」


 ・・・ギルドマスター!なぜここにっ!


「ふふふ、大賢者がここへ来たと調べがついたのだ」

 くそっ、なんてしつこい・・・。中央ギルドの一件をまだ根に持っているのか。

「大賢者に一言言わないと気が済まなくてな・・・」

 ギルドマスターはおもむろに拳をもちあげた。

 や、やる気か!?


 ーーーわたしのジンイチローさんにィィ


 ん?なんか聞こえたような・・・


「何をするぅゥゥゥウウウウウ!!!!」


 ブウウゥゥゥゥゥン!と低く風を切る音とともに、何かとてつもなく大きなものがギルドマスターの巨体をぐにゃりと曲げた!


 刹那、彼の巨体が視界から消えた。

 目の前には、何かとてつもなく大きなものを振りぬいた女性がそのままの格好で止まっている・・・。


 突然の出来事すぎて思考が飛んでいる俺・・・。

 それでも一歩二歩と無意識に踏み出したのは、好奇心ゆえだろう。恐る恐る彼が飛んでいったと思われる方に顔を向けると、10mほど向こうにある落ち葉の山の中に頭から突っ込んでいるのが見えた。

 ちなみに、お尻はこっちを向いていて、ピクピク痙攣しているようだ。


 多分、生きてるよな・・・。


「ジンイチローさん、無事でよかった・・・」

 声のする方を見たら・・・えっ、ミーアさん!?

 そのどでかいハンマーみたいなもの・・・ということは、それを振りぬいたのは・・・

「ギルドマスターにコロされちゃうかと思って必死に追いかけたのです!」

 いやいやいや!追いかけたのはいいけど、顔の何倍もありそうな重たいハンマーを、ミーアさんが軽々しく・・・。

 すると、ハンマーに向けられた俺の視線に気づいたのか、ミーアさんはそれをポイっと投げた。

 あっ、くるくる回って・・・そっちはギルドマスターの尻が・・・


「ぐえぇっ」


 ジャストミート!

 お尻から低くくぐもった悲鳴が聞こえたような気がした。

 ミーアさんといえば、えへ♪と舌を出して茶目っ気たっぷり。

「私はか弱いからあんな重たいもの持てないのですよ?ね?ジンイチローさんは見てないのですよ?」


「空気読めよ」と言わんばかりに、目が笑っていないんです。口元だけ浮かべる笑みが妙に怖いんです・・・。

 それにしても、ミーアさん。あなた一体何者ですか・・・?



お読みいただきありがとうございます。


※ 7/23 文章修正・追記しました

※ 8/8 「魔方陣」→「魔法陣」へ修正しました


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