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第161話 いざカーヴィス奴隷店へ

モア視点です。

 

 はてさて、困ったものです。手がかりが掴めないのにこの広い都市を動き回るというのは難儀なことこの上ありません。


 私の予想では、ベネデッタ様とメルウェル様は中央区、ジンイチロー様はムルノ様のもとへと足を運ばれ、アニー様は踊り子劇場を、ウィックル様はこの北区を中心に回られるでしょう。そうなれば私は・・・。



 ということでやって参りました。


「ごめんください」

「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか」

「申し訳ございません。お聞きしたいことがありましてお邪魔いたしました」

「はぁ、どういったことでしょう。お答えできることであれば・・・」


 ここは南区の宿の一つです。受付の女性がこの店を聞き取り対象に選んだ理由は・・・まあ後程にいたしましょう。


「アナガンで宿に馬車で乗り付ける方はいらっしゃいますか?」

「あ、そんなことですか」

「まさか宿泊客について教えろと尋ねても教えてはくださらないでしょう」

「そりゃあそうです」

「で、どうなのですか。馬車はーーー」

「ああ、そうそう、馬車でしたよね。普通はこんな宿場に馬車で来る人はいません。北区であれば別ですが」

「幌馬車も?」

「そうですね」

「ここ数日間で幌馬車から荷物を降ろすのを見たことは?」

「ん~・・・少なくとも私は見てません」

「では東区の市場から食材を仕入れるときはどのように?」

「荷車ですよ。わざわざ馬車なんか使いませんね」

「やはり馬車は目立ちますか」

「そうですねえ。どこぞのご貴族様が乗り付ければ何事かと話題にはなりますよ。ましてやここは南区ですからね」


 私が聞き取りのためにこの宿を選んだ理由は、大通りに面していて、かつ南区の宿通り全体を見通せる角建ちであること。そしてもう1つはこの女性が話し好きに見えたことです。表の掃き掃除をしていた姿を見てピンと来ました。


「このあたりの宿はどういう方が泊まるのですか?」

「色々な方が利用されます。奴隷の売買をする人、東区市場へ商品を卸しに来た人、西区で遊びたい人・・・色々です」

「なるほど。では逆に絶対に来ない人はどんな方ですか」

「絶対とはいえませんけど・・・ほぼ来ないといえば、やっぱりどこかの貴族だったりお金持ちだったりしますね」

「そういう人が集団で南区の一画に集まれば噂になりますか?」

「なりますよお。思いっきり目立ちますね」


 目立ちたがり屋ならまだしも、目立ちたくない者があえて奇をてらうことはしないでしょう。


 個人的な意見としては、南区での売買やり取りの路線は消えました。


「ありがとうございました。大変参考になりました」

「いえいえとんでもない。またご贔屓にどうぞ」



 そして私は東区へ足を向けました。


 閑静な南区とは違い、多くの人々で賑わう東区は『人を隠す』にはもってこいの場所と言えます。


 私は南区と同じ要領で人を探しましたら・・・いました。話し好きそうなおばさまが。


「そこのお姉さま、少々お伺いしたいことがあるのですが」

「・・・んっ!?あたしかい!?」

「ええ、お姉さまにお話があるのですが」

「やだよおっもうっ!!お姉さまだなんて!!ほらっ!これでも食べな!!」

「なんとおいしそう・・・はむむぐむぐむぐ・・・さすがお姉さまのおすすめだけはあります。大変美味ですね」

「クランっていう果物さ!わざわざノーザンから仕入れてるからね!さて、あんたは何を聞きたいんだい?」


 掴みは上々でございますね。ふふふ。


「大したことではありません。この東区へ仕入れたものを運ぶ時は馬車を使うのですか」

「そりゃああんた、アナガンの外から運ぶ時は馬車を使うさ。門から入ってそのまま東区に来るよ」

「馬車が来るのは日常茶飯事だと?」

「そうさ。じゃなきゃ荷物をどうやって運ぶんだい」

「そうですね」


 なるほど、これは匂いますね。


「馬車を置くような場所もあるのですか」

「ああ、ここからもう少し離れたところに馬車置き場があるんだ。そこに停めるようになってるよ」

「ほお・・・。ちなみに、この東区で人が10人ほど集まれるような・・・集会場のようなものはありますか」

「あるよ。寄合所はいくつもあって、それくらいの人数が入るところは一つしかない」

「なるほど・・・そこは借りることができますか」

「できるよ。とはいってもこのアナガンで商売をしている人間しか借りられないようにはなってるけどね」

「商売をしている人だけ・・・ほほお・・・」

「あんたも変な事聞くもんだね。商売でもはじめようってのかい」

「そうですね。私の主人に頼まれて下調べ・・・といったところでしょうか」

「あんたみたいな綺麗どころが看板娘ならすぐに人気が出そうだね。ウチと同じ果物屋は勘弁してくれよ」

「ふふふ、大丈夫です。お姉さまの仕事を奪いはしませんよ」

「もう、お姉さまだなんて・・・」


 頬を紅くそめて満更でもなさそうです。


「最後になりますが、その集会場を借りるには誰に言えばいいのですか」

「元締めに言えば借りられるさ。ちなみに元締めは毎年交代するようになっててね、今年は『カーヴィス奴隷店』の店長をしているカーヴィスさんだ。借りたい時はカーヴィスさんに言えばいいんだ」

「カーヴィス奴隷店・・・どのようなお店なのでしょうか」

「そりゃああんた、カーヴィス奴隷店といえばこのアナガン一番の奴隷店さ。追随を許さない売れ行きだからね、奴隷を売りたいやつも買いたいやつもみんなあの店を最初に尋ねると言われてるよ」

「ほお・・・」

「このあたりの店もカーヴィス奴隷店の系列店も多いんだ」


 カーヴィス・・・中々の豪商とみられます。お会いしてご尊顔を拝みたいところですね。


「ありがとうございます。それではこれでしつれ――――おっといけません。お姉さまのお店で買い物もしないとは。これとこれとこれください」

「お、見る目がいいね。じゃあこれもサービスしてやるよ」

「ありがとうございます。お姉さまも商売上手ですね」

「いい褒め言葉をもらえてあたしも嬉しいよ。また来てね」

「はい。ありがとうございます」



 さて、私は中央区へとやって参りました。東区の果物屋のお姉さまから聞いた情報から『カーヴィス奴隷店』の名を聞き、折角ですので訪ねてみることといたしました。


 無駄に高級そうな扉を開けると、無駄に高級そうな内装が目に入りました。


「いらっしゃいませ。カーヴィス奴隷店にようこそお越しくださいました」


 おおっと、これはいきなりパンチ力のある女性が登場です。シャツで身を固めてはおりますが、溢れでる双丘の迫力だけは隠せません。短いスカートから伸びる脚が白く輝いているようで、思わず見とれてしまうほどです。おまけにその美貌たるや、見る者を引きつける魔性すら感じさせます。


「お客様は奴隷のご購入をご希望でいらっしゃいますか」

「いえ、店長にお聞きしたいことがございまして。東区の集会場のことでお訪ねした次第でございます」

「承知いたしました。どうぞこちらへ」


 ロビーのソファに案内され座って待つと、心休まる香りを放つ香茶を給仕されました。女性がしゃがんだ時に見えるデルタゾーンは、目を逸らすことなど許されない魅惑の魔界です。


「お待たせいたしました。東区の集会場の件ですかな」

「お初目にかかります。モアと申します」

「わたしは店長のカーヴィスと申します。それにしても斯様にお綺麗な方がアナガンにいたとは・・・私の目は節穴でしたな」

「カーヴィス様の慧眼に収まらぬほどの醜女でございますよ」

「ご謙遜をおっしゃらず。どうですか、もしよろしければ今夜夕食でもご一緒にいかがですか」

「わたくしの『主人』の許可をいただければ」

「おお、これはまた失礼を。主様に先を越されてしまっては手も足もでませんな」


 どうやら私が奴隷であると思い込んでいるようですが、それはそれでやりやすいので放置することにしました。


「ご主人様は直接伺いたいとのご希望でしたが多忙のため、私が参りました。ご無礼をお許しください」

「いえいえなんの。多忙はお互い様ですからな。さて、東区の件とのことで・・・」

「ええ、こちらに来れば集会場のことが聞けるとのお話をいただいたものですから」

「どこの集会場のことですか?」

「場所がよくわからないのですが、10人ほど集まれるところをお借りしたいのです」

「そうしますと・・・『イーリチ』ですな」

「『イーリチ』・・・とは?」

「集会場にはそれぞれ呼び名を付けてあるのです。とはいってもこの呼び名、まったく意味をなさない呼び名でしてね。下手に人の名前のような呼び名を付けると混乱するのですよ」

「なるほど」

「いつごろお借りになりたいのですか」

「ご主人様の話では、明日と明後日にお借りしたいとのことです」

「ええと・・・・・うーん、いけませんねえ。すでに先約がありました。他の集会場もちょうど押さえられてますね・・・」

「そうですか・・・」

「もしよろしければ会場を空けますか?」

「そんなことができるのですか」

「使用予定人数を見れば融通は利くかと」


 ちらっとカーヴィス様のご覧になっている予定表を見ると、なぜか、他の日はガラ空きなのに明日と明後日だけみんな予定が入っているのです。


「・・・いえ、ご主人様はご迷惑になることだけは避ける性格でして、此度の件もお話すれば諦めるものと思います。事情をお話しておきます」

「そうですか。それは残念ですね」


 私は店内を軽く見渡し、奥に伸びる廊下を見つめます。あの奥に奴隷がいるということでしょうか。


「もう一つ主人より仰せつかった用事があるのですが」

「どういったご用件で?」

「この店の奴隷を見ておくようにとのご命令を受けております」

「おお、それはどうもありがとうございます。早速見学しますか」

「お願いします」

「ではご案内いたします」


 奥に続くドアを開けると、個室に入れると思われるドアがいくつも並んでいます。


「牢屋を想定していましたので驚きました」

「ウチは他と違ってこんな感じです。もちろん売り上げ上位店はこのように個室対応していますがね」

「この窓から覗けるんですね」

「ええ、お眼鏡にかなう者がいればよろしいのですが」


 窓から覗くと、これまた絶世の美女が座っていました。


「彼女はノーザン帝国で謀反を起こした家の令嬢です。残念ですがすでに売却済みとなっております」


 次々と窓を覗き込んでは説明を受けては頷きを繰り返します。最後の部屋まで来て覗き込んだ時、妙な違和感を覚えました。


「この女性は・・・」

「この女性はスヴェンヌ奴隷店から買ったんです。珍しい黒髪と見たことも触ったこともない服を着ていたものですから、きっと高く売れると思いましてスヴェンヌと交渉したんですよ」

「奴隷店から奴隷を買うこともあるんですね」

「よくある話ですよ」


 女性は見るからに元気がなく、ただ俯いて座っているだけです。他の奴隷は買ってほしいがために笑顔を振りまいていたのですが、この女性だけは違います。


「いやしかし、買ったはいいものの、一つ難点がございましてね」

「難点?」

「ええ、まったくこちらの言葉がわからないみたいなんです。教養は高そうなんですけどね」

「そうですか・・・。ちなみに彼女の名前は?」

「アヤノ・タカイケというらしいですね。それだけはわかりました」


 どこかの家の令嬢というわけではなさそうですが、店主の言う通り教養はありそうです。しかし、あの黒髪は・・・まさか・・・。


「この女性を買うとしたらおいくらですか」

「あの調子ですからねえ・・・。本来なら金貨200枚といいたいところですが、このままだと売れ残ってしまいそうなんで・・・金貨80枚まで下げますよ」

「破格ですね」

「とんだ誤算でした。勉強代と思っての値下げです」

「わかりました。主人には伝えますので」

「まさか買ってくださるので!?」

「まだわかりません。主人の意向を確認してからとなります」

「ぜひお願いします。なんならもう一人もつけてその金額でお売りいたします!」

「太っ腹ですね。それも伝えておきますよ」

「ありがとうございます!」



 帰り道の道中では聞いたことを整理しながら宿へと向かいました。何か可能性があるとしたら東区なのでしょうが・・・。何か引っかかるものがありますね。それにあの黒髪の女性・・・アヤノ・タカイケといいましたか。聞いたこともない姓はジンイチロー様のそれにも通じるところがあります。やはりジンイチロー様に聞いてみないことには始まりませんね・・・。



いつもありがとうございます。

風邪でダウンしてしまいまして遅くなりました。

次回もよろしくお願いします。

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