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第125話 アルアンダーナの回復

 

「レナ!いくらなんでもそれはだめよ!」


 居間に響くアニーの声・・・。

 オルドさんもミレネーさんも顔をしかめたままレナを見つめていた。

「どうして!?お姉ちゃんだってそうしたんでしょ!?」

「――――ジンイチローね。私のこと話したのは」

 アニーが細くした目を俺に突き刺した。

「ごめん。レナさんがどうしてもっていうから」

「はぁ・・・。いずれバレただろうからそれはいいとして・・・。レナ、私が魔物と戦って恐怖を克服できたのは()()()()()()()()よ。あなたはそんな訓練も積んでいないのにどうやって魔物と戦うの?」

「・・・」

 ぎりっ、と歯ぎしりの音がレナさんから聞こえてきた。

「私だって・・・怖いよ・・・でも、でも・・・この怖いの無くしちゃうにはアイツラをギッタンギッタンのギッチョンギッチョンにしないと治まんないの!!」

「「「「「・・・・・・・」」」」」

 腕組みしていたオルドさんがその腕を下ろし、レナさんを真剣なまなざしで見つめた。

「レナ、気持ちはわかった。でもそれは並大抵のことじゃない。確かにアニーはそうすることで克服できたかもしれないが、アニーの言う通り、この方法は戦える者にしか許されないものなんだ。レナは学院で精霊魔法を勉強していると思うが、あの現場でそれを使おうと思ったか?」

「・・・」

 レナさんは静かに首を横に振った。

「責めているわけじゃないし気にすることはない。レナができないとしてもそれは至極当然のことだ。だからこそ、あの現場でファンニエールがしたことはとても大きい。わかるね?」

「うん・・・」

「この先魔物を見れば体が固まってしまい、眩暈も起こすだろう。恐怖を感じた瞬間のことがついさっきの出来事のように思いだし、歩くこともできなくなる。レナはそれでも戦って克服したいと思うのかい?」

 レナさんは一度うつむいて足元を見つめるもすぐに顔を起こした。真一文字に固めた口からは、とても「やっぱりやめた」と言う雰囲気など微塵も感じさせないものだった。

 大きくうなずいたレナさんはその口を開けた。

「わたし、やりたい」

 オルドさんも大きくうなずいた。

「わかった。では許可しよう」

 それを聞いたアニーはすぐに席から立ち上がった。

「お父さん!レナにはまだ無理―――」

「ただし、条件がある」

 オルドさんはレナさんを見つめたままアニーの言葉と被せるように話した。

「まずその1、危ないと感じたらまず逃げること。決して恥ずかしいことじゃない。その2、必ず誰かと行動を共にし、勝手な行動はとらないこと。その3、ジンイチロー君が帯同すること。その4、ジンイチロー君が出立する前日までの間とすること。この4つをしっかり守れるか?」

 レナさんはオルドさんの言葉を反芻させているのか、目を閉じてしばらく黙考していた。

 そしてその目が開かれると、薄らと笑みを浮かべた。

「やれる。守れる」

「そうか」

 いや、何気に俺が約束事に組み込まれてるんですけど・・・。

 そもそも俺がそんなのは嫌だと言えばその約束ごとは成り立たないわけだが、オルドさんはそんな俺の考えを汲み取ってか、ふっと笑みを浮かべて小さくうなずいた。

「ジンイチロー君、言いたいことはわかるぞ」

「ですよね・・・だって俺が付くからといって安全ではないわけだし・・・」

「もちろんだ。レナ、ジンイチロー君にレナからパートナーになるよう依頼をしなさい。ジンイチロー君が了承すればレナのパートナーとして共に戦うことになる。私が何を言いたいかわかるか?」

「・・・?」

「魔物と戦うということは、仲間を信頼し協力し合って成せるものだ。例えそれがレナであっても、責任を持って仲間を守ることを第一とするんだ。レナのお守りを皆でしていたら、レナが動けなくなったときに誰かが犠牲になるおそれもある。しかしはっきりいってそれは本末転倒だ。大勢の人を守るために訓練を続けてきている者達が、魔物と出会いたい者を守る――――。これでは犠牲になった者も浮かばれないだろう。そうならないよう、レナも誰かを守ることを大義として行動しなさい。魔物に襲われた娘にかける言葉ではないだろうが、死地に飛び込むということはそれだけ相当の覚悟が必要なんだ」

 レナさんはオルドさんの話にじっと耳を傾けて聞いていた。

 そしておもむろに俺に向くと、頭を下げた。

「よろしくお願いします、()()()()()()()()

「・・・わかった。よろしくねレナさん」

 今日一番の大きなため息がアニーから漏れた。



 翌日―――――


 朝食を食べ終わると同時にファンニエールが来訪し、急かされながら準備をして出発した。

『出発』といっても転移魔法陣があるから彼の家に到着したのは家を出て10分足らずだった。


 早速家に上がらせてもらいファンニエールの兄、アルアンダーナさんの部屋を訪ねた。


「兄貴!」

「部屋を入るときは一言声をかけてほしいな」

「そんなことより!連れてきたんだよ、大賢者を!」

「もう?」

 俺はファンニエールの後ろからひょっこり顔を出した。

「こんにちは。ジンイチローです」

「あなたが・・・。どうぞお入りください」

 ファンニエールに続いて部屋に入る。ベッドに座って出迎えてくれたアルアンダーナさんを見ると、体の欠損がわかった。魔物に喰いちぎられたのは左腕と右足のようだ。

 しかしびっくりしたのは欠損した体よりもそのイケメンぶりだ。

 肩まで伸ばした銀髪と、どこか哀愁を漂わせるような憂いのある瞳と高い鼻、ほっそりとはしているが、欠損があっても鍛えているとわかる引き締まった肉体・・・。こんな人がフィロデニア王都に現れたら、その場にいる女性の心を掻っ攫ってしまうかもしれない。

「はは、お恥ずかしい。このような姿を見せてしまって・・・」

「何を言いますか。事情はお聞きしています。本当に辛い戦いでしたね」

「えぇ。今では心の整理がついていますが、あのとき自分の体を見たときは本当に死にたくなりましたよ」

「兄貴!もう大丈夫だよ!」

「ファン・・・やると決めたら一直線なことは昔から変わらないな・・・。ジンイチローさん、ファンが大変失礼なことをいろいろと・・・」

「いえいえ、兄思いの素直になれないファンニエール君からのたってのお願いですから」

「ふぁっ!?お、お前何言ってんだよ!?」

「ファン!ジンイチローさんに向かってお前とはなんだ!」

「はい・・・」

「ははは、いんですよ。ではアルアンダーナさん、早速始めちゃいましょうか」

「えぇ・・・。失礼を承知でいいますが、本当に欠損が戻るのでしょうか」

「はい」

「欠損してから何年か経ちますが、今の私の体格にあわせて回復するのですか?それとも欠損前の状態で回復するのですか?」

「・・・」

 言われてみればその通り。今まで回復させた人はけがや欠損してから日が浅い人たちばかりだったから、彼の疑問は当然であって、同時に俺の疑問にもなった。

 今度彼のような人を回復させるときにはあらかじめ確認したほうがよさそうだ。

「アルアンダーナさんとしては、今の体に合わせた回復をお望みなんですね」

「はい。おこがましいようですが・・・」

「いえ、むしろそうおっしゃっていただいて助かりました。私も勉強になります」


 フル・ケアにイメージを追加させればうまくいくと思う。エリア・フル・ケアもそんなイメージで作りあげたものだから。

 名前を付けるとしたらバランス・フル・ケアといったところだろうか。


「あ、ジンイチローさん。ちょっと待ってください。ズボンを脱ぎますので」

「え!?あぁ・・・なるほど、はい」


 突然の行動にお泥いてしまったけれど、ズボンを見て納得した。

 アルアンダーナさんのズボンは片方の脚の付け根部分を切り取って閉じていた。このまま回復させるとどうなるか確かにわからない。誰も気づかないようなことに目が届くアルアンダーナさんをファンニエールが慕い、尊敬する気持ちが理解できる。


「おまたせしました」

「はい」

 片脚だけでも見ればわかるほどの鍛えられた筋肉を観察し、アルアンダーナさんの四肢が復活するイメージを強くした。

「いきます」

 俺は広げた両手をアルアンダーナさんに向けた。

「『バランス・フル・ケア』」

 いつものフル・ケアとは違ってほんのりと虹色も混じらせた金の光が、アルアンダーナさんの全身を繭状の形になって包み込んだ。

 やがて光が解かれていくと、徐々に彼の姿が明らかになった。

 真っ先に声を上げたのはファンニエールだった。

「兄貴!すごい!元に戻ってる!」

 アルアンダーナさんは光が解かれると、自分の両手をまじまじと見つめ、そしておもむろに立ち上がった。

「これは・・・本当に・・・本当に・・・」

 そして俺に目を向けたと思ったら、突然跪いてしまった。

「兄貴!大丈夫か!?」

「アルアンダーナさん!」

 跪いてしまった彼に寄り、どこか想定していない魔法の欠陥があったのかと彼の身辺を見回してみた。

「違うんだ・・・違う・・・」

 まさか・・・俺の回復魔法の方向性がアルアンダーナさんの思っていたものと違っていたのだろうか。とんでもないことをしてしまったと思い、背中に冷たいものが流れた。

「違うんだ・・・これは・・・本当に・・・本当に感謝します。感謝します!」

 アルアンダーナさんの目の前にいた俺の両手が、彼の大きな手で包み込まれた。

「あまりに凄すぎて、跪くことでしか感謝の意を表しきれないんだ!」

 ぐっと近寄る顔は紅潮し、憂いを帯びていた瞳はいつの間にか光を宿していた。


 ていうか、近くで見るとさらにイケメンだ!




 この後アルアンダーナさんが自分の姿を母親に見せると涙を流して彼に身を寄せ、抱き合って喜びを分かち合っていた。母親はすぐに出かけている父親のところへ行き呼び寄せると、一瞬驚いた顔を見せるも、母親同様抱き合って喜んだ。その光景の傍らでは必ずといっていいほどファンニエールが泣いていた。

 そしてアルアンダーナさんの回復はすぐに『ヴォルノア』一族に伝えられたのだが、族長にあたるおじいさんが『酒宴じゃあ!!』と大張り切り。爺さんが酒飲みたかっただけなんじゃと思ったのだが、その族長おじいさんが費用をもつことで一家も了承。一家の敷地で一夜の宴が催されることになった。



「このお肉はなかなかイケます」

「それはポルポゲ鳥っていう迷い魔物の肉を煮込んだものだよ」

 口いっぱいに肉を頬張るモアさんにミレネーさんが応え、オルドさんも割って入った。

「迷い魔物といっても、この前の学院のような魔物の類ではなくとてもおとなしい魔物なんだよ。最近は飼育して市場に卸している者もいるらしい」

「うん、モアさんの言う通りおいしいね」

「お母さんの作ってくれたポルポゲ鳥の煮込みも食べたいなぁ」

 俺が頬張る横でアニーが宙を見ながらつぶやいた。

「それじゃあ、アニーが出発する前には作るわね」

「へへっ、やった♪」

 辺りが夕闇に染まり、掲げられた松明の炎が増やされると参加者の顔がはっきりと浮かび上がった。

 その中でも今日の主役アルアンダーナさんは際立って光っていた。

 長身で年頃のイケメンで気遣いもできて戦闘も問題なし・・・。オルドさんによると、復帰のための訓練を少し積めばすぐにでも周辺警備の職が与えられると明言していた。

「ジンイチロー君のおかげで彼も新しい人生を歩めるな」

 オルドさんの言葉に、ポルポゲ鳥の肉を飲み込んでから応えた。

「ファンニエールがきっかけを作ったからですよ。彼が何もしなければ何もないままだったと思います」

「そうだな。ああやって笑顔で話せるようになってよかったよ。もしかしたらアルよりもファンの変化が一番大きいかもしれん」

 すると、オルドさんの横に突然現れた人がその言葉に続いた。

「私もそう思いますよ」

 アルアンダーナさんだった。グラスを片手に満面の笑みだ。アルアンダーナさんは空いている片方の手を俺に差し伸べたので、俺は彼の手を取り握手した。

「オルドおじさんのいうとおり、私なんかよりもファンが昔のように接してくれるようになったことのほうが嬉しいです。でも、そのきっかけを作ってくれたのはジンイチローさんだ」

「いや、そんな・・・」

「アニー、良い人を見つけたね」

 ちらっとアニーを窺うと、まんざらでもない様子でワイングラスを傾けていた。

「ところで・・・」

 アルアンダーナさんが視線を移した先にいたのは、モアさんだった。

 モアさんはポルポゲ鳥の煮込みが大層気に入ったのか、ずっとそれを食べている。

「あなたのお名前は?」

「モアももうふぃまふ」

 肉!肉飲み込め!

「もしよろしければ私とお話ししませんか?」

「「「「 えぇっ!? 」」」」

 モアさんは大して驚きもせずに口の中の肉を咀嚼しながら、俺をちらりと窺った。

「・・・モアさんの好きにしていいんじゃない?」

 そういうと、モアさんは肉を飲み込んでからアルアンダーナさんを見た。

「ジンイチロー様の許可も下りましたので情報交換をいたしましょう。()()()()()()()のようですので短い間でなら」

「ありがとう」


 そしてアルアンダーナさんはモアさんをエスコートし、少し離れたところにあったベンチに腰掛けた。

 アルアンダーナさんの楽しそうな様子がうかがえた。


「肉を口いっぱい頬張る女の子をナンパするなんて、アルってなかなかよね・・・」


 アニーのつぶやきに思わず苦笑いしてしまった。



いつもありがとうございます。

GWは遠方へ出かけるため更新が途絶えてしまいます。

次回更新予定は5/9にしたいと思います。

よろしくお願いします。


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