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第111話 長老議会へ出頭

 

 笑顔はつらつに学院へ向かったレナさんを見送った後、俺は家の外で一人魔法の練習と素振りに打ち込んだ。


 今日の練習はアニーが付き添っていた。


「あんなすごい魔法使えるのに、どうして空間魔法はできないのかしら」


 そう呟くアニーに内心『それは俺が聞きたい』と腹を立てたが、本当にできないのだからそれを口には出来ない。


 物は試しにと昨日の試合で発動した魔法をやってみた。


 ・・・・・できた。


「おおお・・・」


 アニーが感嘆の声を上げるので、魔法を現れた魔法陣にぶち込んでもらった。

 昨日と同じような現象が起こり、魔法陣は消えた。


「還元されたという魔法の魔力はどこへ行くのでしょうか」


 いつの間にか俺の後ろに立っていたモアさんがメモ帳を片手に顔をしかめていた。




 尖角塔に出頭するため、俺とアニーとモアさん、それとオルドさんも付き添ってくれることになり、4人で向かうこととなった。

 いくつか魔法陣による転移を繰り返すと、開けた広場や市場、人通りの多い街並みに辿り着いた。


「王都よりも小ぢんまりしているだろうけど、ここがこの国の一番の街だよ」


 大森林の中にあることを考えれば十分に大きな街だと思えた。雰囲気はミニンスク市に似ている気がする。


「そんなことないですよ。人もいっぱいで活気がありますね」

「ん~、この空気久しぶりね~」


 アニーは久々の街並みに目を細めて懐かしんでいたが、そんな中俺はあるものに目を奪われた。


「オルドさん、あれは・・・」


 俺が指差したその方向には、遠くであってもその巨大さがうかがえるほどの『大樹』があった。

 これってもしかして、俗に言う・・・。


「もしかして『世界樹』ですか」

「よく知っているね。ははは、大賢者なら当たり前か。そう、あれは『世界樹ミストレル』だ。でも私はあの大樹に行ったことはない」

「え?」

「あの大樹の麓に行けるのは『ハイエルフ』様だけなんだ」

「ふ~ん・・・」

「まぁ、あと行けるとしたら精霊王様かな・・・。とは言っても精霊王様がこの地に顕現したのはもう何百年も昔らしいけどね。んん?何千年??とにかく遠い昔さ」

「ハイエルフ・・・」

「・・・どうかしたのかい?」

「・・・いえ。ちょっとそのあたりを議会の皆さんに伺えればと思いまして・・・」

「・・・」

 オルドさんは何も言わずに小さくうなずくと、尖角塔へと案内してくれた。


 尖角塔へはこの街に入ってからは徒歩で行かねばならないようで、街並みを観光がてら歩くことになった。

 昨日のマウロとの試合を観戦した人がいて、あちこちから声を掛けられた。

 異種族であっても精霊魔法を使えるという点が気に入られたのではないか、とオルドさんは我がことのように鼻高々だった。

 その途上、握手を求められたりかわいいといわれて抱擁されたりで、アニーへのフォローが大変だったけれど・・・。

 斯くいうアニーも、容姿の端麗さからか街中の男性の目を奪っていた。アニーは恥ずかしがっていたけど、このあたりは人間の街とさほど変わらないんだなと苦笑した。



 ―――そして尖角塔に到着。


 この塔は小高い山の切り立った崖の淵に出来ている塔で3つの鋭く細い屋根のある、それこそ『尖角』だとすぐにわかる建物だ。

 尖角塔の入り口には魔法陣が敷かれていて、玄関になる戸はない。

 オルドさんが手をかざすと発光し、みんなで魔法陣に乗ると一瞬で応接室のようなところに運ばれてしまった。

 驚いたことに、到着して3秒と経たずに応接室のドアがノックされ、お茶を持った給仕のような女性がテーブルにセットを置いて「少々お待ちください」と言って去っていったことだ。


「給仕の鑑ですね」


 モアさんの一言に「そこかよっ!」とツッコミをいれたくなったが尤もでもある・・・。



 オルドさんから座って待とうと言われお茶を飲んで待っていると、やがてドアをノックする音が聞こえた。

 入室してきたのは見知った顔だった。


「カナビアさん!?」

「ふふふ、お久しぶりね。ジンイチローさん」


 カナビアさんは一席だけ空いていたイスに腰掛けると、俺の方に体を向けた。


「びっくりした?」

「それはもう・・・。なんでここにいるんですか?」

「もちろん、この塔で働いているからよ」

「へぇ~・・・偉い人なんですか」

「う~ん・・・文官みたいなものよ。とはいってもその文官の長だけどね」

「・・・十分偉い人ですよ」

「私は全然そう思ってないんだけど、周りはそう見ちゃうのよね。だからこの歳になるまでつがいの人が見つからないの」

「・・・そうですか」


 なんとも言えない凝り固まった空気になった。

 オルドさんは聞かないフリ。

 モアさんは一生懸命メモしてる。

 アニーは・・・じぃっとカナビアさんを見つめている・・・。


「カナビアさんはここにいていいんですか?お仕事大丈夫ですか?」

「大丈夫。ジンイチローさんが来るのわかってたから、仕事は全部押し付けてきちゃった♪」

「おいおい・・・」


 てへっ♪と舌を出してかわいこぶってもそれはいただけない。


「でも・・・長老議会へ面通しする前に人なりを確認するのは私の役割だから・・・これも大切な仕事なのよ!しかもアニーの帰還と『大賢者』の来訪でしょ?超重要案件じゃない?しかもその大賢者は『精霊王のおともだち』っていう加護付き!精霊魔法もお手の物!もう前代未聞過ぎて楽しくなっちゃってぇ~!うふふふふ!!」


 手を頬に当ててご満悦のカナビアさん。俺が精霊魔法を使えることをいつ知ったんだろうか。試合の時にはいなかったはずだけど・・・。

 すると、カナビアさんの笑顔が途端に真面目になった。


「とはいっても・・・あなたたちがこの国に来た理由は、きっとこの国の禍になる未来が視えるから・・・といっても過言ではなさそうね」


 先ほどまでの温和な瞳と真逆の、探るような鋭い目つきになった。


「そうとも・・・いえますけどね。とはいっても、別に俺達は禍を持ってきたわけじゃなくて、フィロデニアで起きた事件がこの国にも関係するんじゃないかと思っているだけですけどね」

「・・・」


 そんな鋭い目つきをしながらも、カナビアさんは端の切れた長いスカートをひらひらさせては脚を組み替える。

 奥がチラチラ見えてしまうだけに、目のやり場に困って思わず視線を逸らしてしまった。


「ふ~ん、ふふふ・・・なんだか食べがいのある―――――」

「ちょっと待ったぁあああ!!」


 アニーがカナビアさんの目の前に滑り込んだ。


「カナビアさぁ~ん?うちのジンイチローになにしてくれてんですかぁ?」

「あら!『うちのジンイチロー』だなんて!アニーちゃんはもうこの子と同衾しちゃったの?」

「なぁっ!!ちょっ・・・そ・・・そんなこと!!」

「まだ誓い合った仲じゃなければ私がどうこうしようと構わないでしょ」

「だめです!」

「でもジンイチローさん、チラッとスカートの中見たわよ」

「なんですって・・・」

 アニーがかつてないほどに鋭く俺を睨みつけた。

「わざと見たわけじゃないよ!だってこれみよがしにヒラヒラさせるんだもん!」

「そうはいっても見なければいいでしょ!」

「男はヒラヒラしたものに目がいっちゃうんだよ!ねぇオルドさん!」


 助けてくれ!オルドさん!


 と思ったらいつの間にか部屋の奥にある書棚の本を立ち読みしている!!

 絶対逃げたな!!


「うふふ!ホントからかい甲斐のある坊やね!ほれ!」

 カナビアさんは組んでいる足をひょいと上げて、アニーのスカートの端を持ち上げた。

 魅惑の白い輝きが・・・

「ぎゃああああ!」

「うふ!ヒラヒラ~!」

「や、やめてください!」

「あら、ジンイチローさんは嬉しそうだけど?」

 スカートを押さえながら俺に向くアニーの顔が真っ赤に染まっている。そういう俺もカナビアさんに返す言葉もみつからず、ただアニーを見つめるだけだった・・・。

「アニーちゃんが見せないんなら、アタシが見せちゃおっかなぁ。ほれ」

 あ、ヒラヒラ・・・

「ちょ・・・待って!なら私のを見なさい!」

「え!?」

「・・・」

 アニーは俺の正面に立ち、スカートの端をゆっくり捲って・・・

 あ、見えちゃう・・・



「失礼します。カナビア様はいらっしゃ――――」



 ノックもしないで入ってきた女性が固まった。

 アニーがスカートの端を上げたまま固まり、その正面に座る俺も固まった。


「し、失礼しましたぁ!!」


 勢いよくドアが閉まると同時に、カナビアさんがすぅっと立ち上がった。

「じゃ、私はこれで・・・」

 静かに部屋を出たカナビアさんの背中を見送ると、アニーがプルプル震えだした。

「ジンイチローぉ・・・!!」

「あ、アニー・・・?」


 サラサラとペンを走らせるモアさんの呟きが不意に聞こえた。

「ジンイチロー様がますますド変態に、と・・・」

 そしてオルドさんの鳴き声も重なった。

「あんなに純粋なアニーが・・・男にパンツを見せるだなんて・・・うぅ・・・」




 激昂したアニーが俺をボコボコにしている最中、突然部屋の壁が光り輝いた。

 皆がその輝きに目を奪われていると、しんと静まり返った部屋にしわがれた声が響いた。


『大賢者はいるかね』


 この声は長老司だ。

「はい、ここにいます」

『待たせたな。扉を作ったからそこから入るがいい』

「わかりました」


 さっきまでの賑やかな雰囲気から一変、皆が口を一文字に固く結び、おもむろに扉の前に集まった。

 観音開きの扉にオルドさんが手を掛けて引くと、そこには楕円のテーブルが奥に伸び長老議会の面々がこちらを見て座っていた。そしてそのテーブルの一番奥に長老司が腰掛けている。広い会議室のようだが全体的に暗く、テーブルのところだけ明かりが灯されていた。

 長老司の後ろには玉座のようなものがあって、そこがひときわ明るく照らされていた。


「座られよ」


 長老司の声に俺たち4人は、長老司と遠く相対するように設置されていたイスに座った。

 長老議会と聞いていたが座っている人達は意外と若い。勿論老年の人も見受けられるが壮年層が多い印象だ。中には若い女性もいる。


「大賢者ジンイチロー殿とその付きであるモア殿よ」

「「 はい 」」

 俺とモアさんが立つ。

「ようこそエルフイストリアの地へ。あらためて自己紹介だ。わたしはこのエルフイストリアの長老議会を束ねる長老司、フォルクマール・クラウゼン・ナルセンだ。皆はクラウゼン長老司と呼ぶが好きに呼んでくれ」

「私はジンイチロー・ミタと申します。入国の許可をいただきありがとうございます」

「ジンイチロー様のメイド、モアと申します。よろしくお願いします」

「うむ。それでは・・・オルドとアニーよ」

「「 はっ 」」

 オルドさんとアニーが起立し、俺とモアさんは着席した。

「オルドよ、案内ご苦労。それとアニーよ、よくぞ帰ってきた。無事に帰還したことを嬉しく思うぞ」

「「ありがとうございます」」

「うん、それでは楽にしてくれ」

 オルドさんとアニーは着席した。

「さて・・・今日の議題は他でもない、何百年ぶりかにこの地に来た人間、ジンイチロー殿に関することだ。とはいえ皆もなんとなくどういう議題になるかは察しが付くだろうが・・・。そうだな、ジンイチロー殿の話を聞いた後で判断するとしようか。ジンイチロー殿、貴殿がこの地にやってきた理由をまずは話してもらえるだろうか」

「はい・・・」

 俺はアニーを見ると、アニーも俺を見て小さくうなずいた。



 俺はこの世界にやってきて間もなく遭遇したフィロデニア王都で起きた事件と、そこで露見した巨大な転移魔法のこと、転移魔法を具現化した魔道具に使われた『魔人石』と、ハピロン伯爵邸で起きた事件、灰色ローブを纏った男について話した。

 もちろん、俺の出自については伏せた。



 話し終わった後、議会の面々は隣にいる者同士で意見を交わしはじめたが、長老がそれを遮った。

「静まるのだ!!・・・・・なるほど、だからアニーは大賢者の入国を促したのだな」

 アニーが大きくうなずいた。

「はい。フィロデニア王都の街にある転移魔法陣は古くこの地のハイエルフが創造したと記憶しています。そしてその転移魔法陣が王都の上空で魔物の大群を転移させた・・・だから不思議に思ったのです。なぜハイエルフ様だけが使える転移魔法陣を灰色ローブの男達が使えたのかと。本当はすぐにでもこの地に戻ろうかと思ったのですが・・・」

「いや、よいのだアニー。その判断で間違いない。・・・・・さて皆の者、これで議題は確定だな」

 面々がそれぞれうなずいた。

「本日の議題は、ハイエルフであるシュテフィ・オックス様の『処分』について考察する」



「「「「 えっ!? 」」」」



 俺達4人は目を丸くさせた。特にアニーとオルドさんはなおさらだ。

「あの、発言をお許しください」

 オルドさんが手を挙げた。長老司がうなずいた。

「許可する」

「ありがとうございます。その・・・処分とはいったい・・・」

「・・・この長老議会しか知りえぬことだ。以後の話は4人とも口外してはならん」

「「「「 はい 」」」」



 クラウゼン長老司は顎をに手を当てながらゆっくりと説明してくれた。






いつもありがとうございます。

次回予定は2/26です。

よろしくお願いします。


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