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第110話 試合終了

 

 アニー達は息をするのも忘れるほど二人の魔法の打ち合いに見入っていた。

 マウロがジンイチローよりも早くに風の精霊魔法で真空刃を放つと、ジンイチローは魔力循環させた足で駆け、避けると同時にモヤから雷をマウロへ放った。

 マウロも来ることを予測し身を伏せて避けると、すぐさま先のとがった土槍をジンイチローの真下から突きださせた。

 ジンイチローは避けてバランスを崩して転がるも、宙に浮かび上がらせた炎弾と氷弾を矢継ぎ早に打ち出した。

 マウロは必死に駆け、立ち上がったジンイチローに土槍と岩弾を放った。

 ジンイチローも駆けるマウロの目の前に土塁を立てると、マウロが速度そのまま思いっきりぶつかった。


 ジンイチローはそれを見逃さず、すぐさまマウロに駆け寄り青龍刀を振りかざした。


 マウロはジンイチローと同じく土塁を目の前に作ってすぐに間合いを開けると、一番最初に放った紅蓮の炎をジンイチローに浴びせかけた。

 ジンイチローは魔力を展開し、地獄の炎を防ぐ。

 ただし熱は若干伝わるのか、その額にはじんわりと汗がにじみ出た。



 攻勢に出るマウロであったが、内心焦っていた。



 決め手に欠ける自身の魔法と、粘り強く立ち向かうジンイチローのひたむきさに、圧されることのなかったこれまでの戦いがなんと楽だったのかと思い知らされたのだ。



『いい加減に倒れろ!』

『・・・っ』


 ジンイチローはマウロからかつてない精霊魔力の流れを感じた。

 マウロが全力で何かを撃ちこもうとしているのだ。

 魔力のコーティングだけでは太刀打ちできないと判断したジンイチローは、すぐにマウロと同じく精霊魔力を集めようと、腕のモヤを消してからその腕を前に突き出した。

 しかし強大な魔法を打ち合えば、張られている結界の崩壊も免れない――――と、ジンイチローは思った。


 マウロは脂汗を流しながら精霊魔力を集め続け、やがて顕現したのは白く熱く輝く光球だった。


 ――――太陽だ


 ジンイチローはそう感じた。と同時に自身だけでなく、周囲への影響もよぎった。何か対処しなければ闘技場すら崩壊しかねる精霊魔法ではないか、と。


 オルドもジンイチローと同じくそれをひしと感じた。

 しかし、動けない。

 迫る決着の行く末に立ち会いたい気持ちが前に出たのか、「やめろ」といえば終わるこの試合に水を差したくないという想いがあることも事実。

 だがそれでも危険だった。止めるなら今・・・しかし・・・

「お父さん!危ない!はやく止めないと!」

 アニーの言葉にハッとしたオルドは、その右手に力を込めた。


『止めるでない、オルドよ』


「っ!!」

 オルドは咄嗟に二階席を見た。不意に頭の中に響いたそれはまさしく長老司の声だ。

 長老司がオルドを睨んでいる。


『焦るな。大賢者は何かを企んでおる』


「・・・」

 力を込めた右腕を直し、嘆息した。

「アニー、様子を見ろとの長老司のお達しだ」

「そんな・・・あれじゃジンイチローが・・・」

「ジンイチロー君だけではない。我々とて危険だ。マウロ君もタガが外れたようだが、気力の限界が来ている。アレを放てば倒れるやもしれん」

「ほんっと、バカなんだから・・・」


 ぐんぐん大きくなる光球は、やがて観客たちの肌を熱くさせた。

 魔道具による防御魔法の限界を悟ったようで、ジンイチローがしきりに周囲を気にし始めた。


『マウロ!その魔法は危険だ!』

『・・・お・・・怖気づいたのか!これ・・・で・・・ぐ・・・グおおおおおお!』


 光球がさらに大きさと輝きを増した。

 観客たちから悲鳴が木霊した。

 長老議会の面々も焦燥をにじませて長老司と何かを話している。

 長老司はゆっくりと首を振った。

 オルドはその様子を見て、覚悟を決めたのだった。


 しかしオルドは見た。ジンイチローが片腕を伸ばして何かを呟いている・・・。

 精霊魔法の波動ではない。

(魔力による魔法発動か―――)


 そのときだった。

 闘技場に展開していた防御魔法が、突然消失した。

 観客の悲鳴がさらに増した。



『くたばれぇええ!』



 マウロは光球をジンイチローへ放り投げるとそのまま倒れ、苦しそうな顔でジンイチローを見た途端に意識を失った。

 弾けば観客席へ、受け止めても体の欠損では済まない強いエネルギー体は、吸い込まれるようにジンイチローへと向かっていった。


 観客たちが目を細めたその瞬間―――――――



『生まれし魔法よ、蒼穹へ還れ! 『魔力還元(リダクション)』 』



 オルドの瞳に赤く映された幾重にも展開された大きな魔法陣は、巨大な光球と接触した途端に青く輝き、光球は魔法陣の中心に向かって渦を巻きながら吸い込まれていく。

 吸い込まれると同時に魔法陣に描かれた文字や様々な象形が共に魔法陣の中心部へと吸い込まれ、消えていく。


 そして光球のすべてを吸い込んだ魔法陣は、音もなく霧散した。



 闘技場に、静寂が訪れた。



「ふふふ・・・・ふはははははっ!見せてくれるわっ、大賢者よっ!」


 怒鳴るように大声を放った長老司はジンイチローを見た。


「よいものを見せてもらった!」


 ジンイチローは小さくため息をついたが、すぐに周囲を見渡した。

 すると、うずくまる女性を見つけた彼はその傍に駆け寄ると、女性の体が突然光り輝く金色の繭で包まれた。

 やがて光が消えると、顔を手で探るように触った女性が途端に嬉しそうにジンイチローと握手をした。

 そしてジンイチローは片腕を天に掲げ―――――


『エリア・フル・ケア』


 闘技場にいる全ての者が光りの恩恵を受け、ある者は赤く腫れた皮膚が戻り、ある者は焼けた髪の毛が戻ったのだ。


「ジンイチローらしいわね・・・」

 アニーのつぶやきが父のオルドに聞こえたようで、アニーを見たオルドは小さくうなずいた。



 ・・・

 ・・

 ・




「ジンイチロー君の最後のアレはなんだったのかね」

「あれですか・・・。とにかく必死だったんでよく覚えていないんですが、精霊魔力だろうが魔力だろうが、それを使って出た魔法は媒体にしたエネルギーに戻せるんじゃないかと咄嗟に思いついんです」

「咄嗟に思いつきますかね、それ。たとえ出来ても発動なんかできないわよ・・・」

「いや、それにしても美しい魔法陣だったよ。魔力還元リダクション


 観客は勝敗結果の発表を心待ちにしているのか、帰る気配がまだまだ見当たらない。

 そんなこんなでオルドとアニーと話していたら、マウロが両隣に若い男女を付き添わせて俺の目の前にやって来た。


「オルド、結果は・・・わかっているな?」

「うん、心配するな」


 オルドさんはマウロの隣にいた男性と微笑み合い、闘技場の中央へと歩いた。


「それでは勝負の結果を伝える!両者共に奮闘し素晴らしい試合を見せてくれた!しかしながら勝負終盤にジンイチローは精霊魔法でない魔法を展開した!」


 マウロはそれを聞いてニンマリと俺を見たが、俺は横目に見てすぐにオルドさんへ戻した。


「しかし!マウロは精霊魔法を放ったのちに倒れ、ジンイチローの魔法はその後に発動した!よってジンイチローは勝敗が決まった後に魔法展開したと判断した!」


 観客席から徐々に拍手が起こりはじめた。


「よってこの勝負、勝者をジンイチローとする!」


 観客席にいた皆がスタンディングオーベーションで祝福してくれた。オルドさんが手招きするので小走りに中央へ駆け、オルドさんの隣に立つと、拍手と掛け声がさらに増した。


『マウロに勝つなんてすごいぞ!』

『人族もやるな!』

『私と結婚してえェエエエエエ!』


 聞かないことにする掛け声もある中、ふとマウロに目が移ると、男性に肩を抱かれながら悔しそうに俺を見つめていた。



 ・・・

 ・・

 ・



「認めない!魔法を使ったジンイチローが勝つなんておかしいじゃないか!」


 観客のいなくなった闘技場にマウロの声が響いた。


「オルド、説明してやってくれないか?」

「うむ」

 やれやれといった顔で肩をすくめるこの男性は、薄ら気付いてはいたがマウロのお父さんで、名をレガンさんという。ミレネーさんと談笑する女性はお母さんでニナさんという名だ。

「私が話した勝敗を決する条件の中に『倒れた場合』とあったはずだが、覚えているかい?」

「もちろんです。でもそれは気力がなくなって倒れただけで―――」

「それとて倒れたものと同義だ。では君は、魔物と戦っている時に気力がなくなって倒れても『勝った』ことになると思うかね?誰かと戦っている時に倒れて、それで相手は見逃してくれるのかね?」

「ぁ・・・・うぅ・・・」

「気力がなくなるほどの戦い方をしたのは自身の責任だ。そして気力がなくなって倒れた時、とどめをさすのは相手次第だ。自身が戦えなくなったその時点で、勝敗の行方・・・いや、生死そのものが相手に委ねられてしまう。わかるかね?」

「・・・はい」

「そして君は気力疲れを起こして倒れた。生死はジンイチロー君に委ねられたことになる。この時点で勝者はジンイチロー君だ。彼が魔法を使ったのは君が意識を失ったあとだから、勝敗が決した時点での魔法展開は条件に当てはまらない。むしろ彼は、君の暴走気味の精霊魔法から観客を守ったんだ。結界が壊れていたことに気付いていたかね?」

「それは・・・その・・・いいえ・・・」

「知っての通りこの闘技場は闘技会用の施設ではない。言ってみれば練習場だ。あちらの闘技場はマウロ君の放ったような魔法でもびくともしないが、ここのは違う。相手を見て戦うのもいいが、気配や環境の変化などに気付かぬようでは、君の希望する周辺域警戒任務には就かせられない」

「・・・反省します」

「それと・・・君には弱点がありすぎるし、相手に対する対応が読み取れてしまう。青年の部では優勝できたかもしれんが、その上のクラスの闘技会に出れば一回戦で敗退してしまうぞ。精霊魔法で押し切るのは若さゆえかもしれんが、間合いに詰められた時の対応をしっかりしないといつか身を滅ぼす。ジンイチロー君が君の間合いに入った時の剣劇を覚えているだろ?あれはまさに死線を潜ってきた人間のなせる所作だ。良いところもあるが、吸収すべきところは吸収して奮闘してもらいたい」

「・・・はい、わかりました」

「それとジンイチロー君」

「はい」

「まさか上位の回復魔法を使えるとは思いもよらなかった。マウロの放った精霊魔法で火傷をした者がいたが、還元魔法のおかげもあって惨事にならずに済んだ。礼を言うよ」

「いえ、礼には及びません。咄嗟にできたものですから」

「このような事になるとは思いもしなかったから、次回行う時には闘技会本戦で使用する闘技場を用意するよ」


 次回・・・?


「あの、次回って・・・?」

「ふむ、それはマウロ君に聞いた方が早いと思うね」


 するとマウロは俺の目の前までズカズカと歩き、俺に向かって指をさした。


「今日のところは勘弁してやる!だが僕はアニーをあきらめない!また決闘を申し込む!これは断れないからなっ!」


 そう言うとマウロは闘技場の出口に向かって駆けてしまった。

 一方的に啖呵をきられ、約束させられてしまった・・・。

 それを見送ったのち大きくため息をついたのは、彼のお父さんであるレガンさんだった。


「すまない、オルド。俺から言っても耳を貸さないんだ」

「いいさ。それだけ自分に自信があるということだ。将来が楽しみじゃないか」

「確かに『火力』は半端ないんだけどな。いかんせんあの性格だからなぁ・・・。それでもオルドに言ってもらってよかったよ。それに・・・ジンイチロー君、今日は息子に付き合ってくれてありがとう」

「こちらこそ。良い経験をさせていただきました」

「それとアニー」

「はい」

「いい人を見つけたね。ジンイチロー君ならオルドも安心だよ」


 レガンさんの言葉に、アニーがはにかんだように笑った。

 レガンさんもアニーの笑顔を見てうなずいた。


「さて、ニナ。行こうか」

「ええ。またね、ミレネー」

「ふふ、またね」


 レガンさんとニナさんも闘技場をあとにした。

 残されたのはアニー一家と俺だけだ。

 すると、途端にオルドさんが顔をしかめた。


「はぁ・・・ミレネー、どうしようか・・・」

「えぇ、そうね・・・」

「どうしたの?二人とも」

「そうだよ~、どうしたの~?」

 アニーとレナさんが心配そうに両親を見つめた。

「いや、その・・・今回の試合のために闘技場を借りたんだがね、もし施設の備品に試合による損壊があった場合は、申込者が賠償しなくちゃいけなくてね・・・」

「それでさっき管理者さんから見積書が渡されちゃったのよぉ・・・」


 アニーが苦虫を潰した顔でミレネーさんの持っていた紙を奪い取った。


「げっ!!!何この金額ぅっ!!」

「お姉ちゃん、いくら?」

「・・・金貨380枚・・・」

「「「「 ・・・・・・・ 」」」」

「ミレネー!!どうしたらいいんだっ!!」

「あなたぁっ!一家崩壊よぉ!!」

「うえ~ん!!お姉ちゃ~ん!!」


 呆然と立ち尽くすアニー。

 よよよ、と泣き崩れる一家。


 ・・・仕方ない。施設を壊してしまった責任の一端は俺にもある。精霊魔法の所作をマウロを通じてのんびり観察しようと思った俺が招いたことでもある。さっさと峰打ちして気絶させればよかっただけだったのだ。


「あの~・・・そのお金、俺が払いますよ」

「「「「 えっ!? 」」」」


 俺は魔法袋の中から、小分けにした金貨袋を取出し、アニーに渡した。


「ちょうど小袋に100枚ずつ入ってますから」

「「「「 ・・・・・・ 」」」」

「あの・・・どうし」

「「「「 ありがとうっ!!! 」」」


 一家は抱擁しあい、涙を流しています・・・。


「ジンイチロー君!恩に着る!」

「ううう・・・借金奴隷にならなくてよかったわ・・・」

「ジンイチローさん・・・」


 アニーまでもが涙を流し、俺を見つめて小さくうなずいた。


「ごめんね、ジンイチロー。うちの家族の為に・・・」

「いいんだよ。使い道のないお金だったから」


 するとオルドさんとミレネーさんが俺の前に立ち、夫婦で見合ってうなずき合ったあと、二人とも俺の肩に手を置いた。

「今ミレネーと確認した。アニーをよろしく頼む!!いや、決してお金がありそうだからとかそんなんじゃないからね!」

「オルドのいうとおり、お金とかそんなんじゃないからね!アニーのことを思ってよ!」

「は、はぁ・・・こちらこそ・・・」


 オルドさんは大きくうなずくも、肩に置いた手を離してくれない。


「さて、ジンイチロー君。まだ頼みがある」

「・・・何でしょう」

「近い将来、レナのこともアニーと共に娶ってくれっ!!」

「「 はぁ!? 」」

 俺とアニーがじとっとした目で夫婦を見つめた。

「これだけの逸材だ。変な男に嫁がせるよりもよほど稼げ・・・いや、絶対に安心だ!決してお金がありそうだからとかそんなんじゃないからね!」


 するとレナさんが俺の隣にやってきた。


「あの・・・お姉ちゃんのこと一番でいいですから・・・だから最初は「お兄ちゃん」から始めていいですか・・・?」


 なんということか・・・それはグッとくる言葉・・・しかも上目遣いっ・・・

 と思ったらアニーのジト目が俺に移った。


「ジンイチロー・・・」

「はっ・・・」

「今絶対に『いいかも』って思ったでしょ」

「・・・」

 すると、レナさんが俺の腕に抱きついてきた。

「お兄ちゃんっ!こういうのって、『姉妹ど」

「「 それは言っちゃダメ!! 」」


 俺とアニーの叫びが闘技場にこだました・・・。






いつもありがとうございます。

次回予定は2/22です。

よろしくお願いします。


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