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第106話 父母との再会

 

「アニーちゃん、ちょっといいかしら」

「はい?」

「あのね、ごにょごにょ・・・」


 長老司さんがガナキさんと話しているとき、カナビアさんはアニーに寄って耳打ちしていた。

「なっ・・・それって・・・!」

「ねぇ?アニーちゃん、聞きたくない?」

「それはまぁ・・・聞きたいですけど・・・」

「うふふ♪じゃあ、コ・レ、ちょうだい?」

 カナビアさんは親指と人差し指の先を重ねて『丸く』形作った。どこの世界でも『金』を意味するのは同じジェスチャーなんだなと感心。

「・・・何枚ですか?」

「キラキラ10枚でどう?」

「げっ!そんなに!?」

「あら~ん。だってそれだけの価値があるとは思わないの?」

「・・・ううぅ」

「じゃあいいわよ、別に」

「・・・」

 『商談』を持ち掛けられ苦虫をつぶすアニーの顔と、にこやか笑顔のカナビアさんがとても対照的だ。



「ではジンイチロー殿()、長老議会は明後日に陽が頂点に達するときに行うので出頭してもらいたい。街に入ればわかるが、議会は丘の上にある『尖角塔』で行うことになっている。異種族がこの国に入るのは長い長い昔のことだから、顔合わせくらいはする必要があると思う」

「わかりました」

 出頭というのはずいぶんと物騒に聞こえるが、聴聞会と思うようにしよう。


 長老司さんが石のアーチをくぐるのを見たあとアニーに振り向くと、アニーがカナビアさんに金貨を渡していた。

「まいど~~♪情報はまた明日キチンと伝えますからね」

「うう・・・また稼がなきゃ・・・」

 カナビアさんのなかなかエグい商売ぶりを見せてもらった・・・。



 カナビアさんも石のアーチの奥に消えたところで、俺たちも入ることになった。

 ガナキさんとも手を振って別れ石のアーチをくぐり歩いていくと、やがて石畳もなくなりうっそうとした森に入り込み、石畳の道がなくなったと思ったら、土がむき出しの小道になった。

 そしてその中をしばらく歩くと、やがて木々が行く手をふさぐように生え広がり、小道すらなくなってしまった。

 しかし、そこには青く輝く魔法陣のようなものがある。

「あれは転移魔法陣よ」

「あれが?ふぅん・・・」

「付いてきて」

 先を歩くアニーの後ろを俺とモアさんが付いていく。

「えっと・・・あった。これこれ」

 アニーはバッグから出した木片を俺達に見せてくれた。

「それは?」

「これは私の家に直接転移するための・・・切符みたいなものよ」

「へぇ~・・・」

「これを魔法陣の前にかざすと・・・」


 アニーが木片を魔法陣にかざすと、魔法陣はたちまち赤く輝きだした。

「つながった。じゃあ手をつないでいくわよ」

 3人で手を繋ぎながら魔法陣に入り込んだ。


 目の前に赤い光の滝が落ちてきたと思ったその刹那、目の前の景色が一変していた。


 うっそうとしていた森がなくなり、目の前にはしっかりとした造りに見える木造の屋敷があった。


「ここが・・・アニーの家?」

「うん・・・そう・・・。私、帰ってきたんだな・・・」


 しばらく家を眺めているのはいいのだが、一向にアニーが歩き出さないので、一歩進んでからアニーに

 振り向いた。

「どうしたの?行こうよ」

「うん・・・なんか恥ずかしくって・・・」



 玄関はすぐ目の前。

 アニーがこんこんとドアをノックした。


 開けられたドアには、アニーにそっくりで、もう少しだけ彼女を大人にしたような目の醒めるような美人が立っていた。

「ただいま」

「アニー!アニーじゃない!」

「うん・・・」

「おかえり!」

 女性はアニーをぎゅっと抱きしめると、アニーも女性の背中に手を回して抱きしめた。

「お母さん、ただいま」

「毎日心配してたのよ・・・よかった・・・」

 アニーがお母さんから体を離すと、俺達を見た。

「紹介するわね。こちらはジンイチローとお付きのモア」

「はじめまして、ジンイチローと申します」

「はじめまして。ジンイチロー様に仕えるモアと申します」

「よろしく、二人とも―――――え?この人、まさか――――」


 お母さんは俺を見るなり怪訝そうに顔色を歪めた。

 仕方がない。異種族の俺が突然来ればこうもなるだろう。


「アニーの恋人ね!!」


 そっちかーーい! 異種族とかその辺いいのかよ!


「お母さん!いきなりなんてこと――――」

「あなた!来て!アニーがどこの馬の骨ともわからない男を連れて帰ってきたわよ!」


 言い方!お母さん言い方!


 そして奥の方から『なんだと!』という声とともにドタドタと駆ける音が近づいてきた。

 現れた男性も、アニーのお兄さんとも言えるほど若い人だった。


「アニー!無事だったか!おかえり!」

「お父さん。ただいま」

「そ・・・そしてそいつがどこの馬の骨ともわからん男だな!」

 えぇ、そうです。特にエルフから見ればごもっともだと思います。

「はじめまして。ジンイチ――――」


 頭を下げて挨拶しようとしたその時、お父さんの方から光る何かが見えた。


 ほぼ無意識に魔力循環できたのは自分でも褒めたい。

 僅かに顔を逸らすと、元いたところに短剣が伸びていた。


「お父さん!!何してるの!!」

 アニーが本気で怒っている。

 だが俺は怒りよりも避けることができた方がびっくりで、ちょっとしてやったりな気分。

「すごいわ・・・、お父さんの剣を避けるだなんて・・・」

「うむ、一突きだけで実力はわかった」

 お父さんとお母さんはうんうんとうなずいて感心のご様子だが、アニーへのフォローをお願いしたい一心だ。


「お父さん!!!!」


 アニーの怒声に、お父さんは体を硬直させて剣を落としてしまった・・・。


 ・・・

 ・・

 ・


「ははは、許してくれ。一度ああいうことをやってみたかったんだ」

「あはは、お気持ちお察しします」

「お父さん、本当に危なかったのよ!?ジンイチローじゃなきゃ今頃どうなっていたか・・・」


 お父さんはケラケラと笑った。

 円卓のある居間へ通された俺達は、淹れてもらったお茶をいただきながら談笑会と相成った。

 お茶といっても飲み覚えのある香り―――ばぁばのハーブティーと似ていた。


「お父さんも人を見る目はあるつもりだ。ジンイチロー君ならきっと躱すだろうと確信した」

「んもう・・・」

 すると、お父さんは笑顔一転、真剣な面持ちで俺を見た。

「ジンイチロー君、あらためて自己紹介する。私はアニーの父でオルドラド・カリアニ・ヴォルノアという。気軽にオルドと呼んでくれ」

「はい、よろしくお願いします」

「私はアニーの母でミレネエレストリア・カリアニ・ヴォルノアといいます。長い名前だからみんな私をミレネーと呼んでいるわ」

「よろしくお願いします」


 オルドさんはお茶の入ったカップを取ると、アニーに向いた。


「アニー。しばらく見ない間にたくましくなったな。人間の世界で何があったか話してくれないか」

 ミレネーさんもうなずいた。

「そうね。私も聞きたい」

 すると、アニーは少し困ったような顔をして俺を見た。

「いいのかしら・・・全部話しても・・・」


 アニーの気持ちはわかる。

 この短い間だけでも色々なことがあった。楽しいことだけじゃなく、辛いこともあった。

 辛いことまで話すと、オルドさんやミレネーさんはどう思うのだろうか。

 すると、オルドさんは目元を笑わせた。

「アニー。色々なことを経験したようだが、お父さんもお母さんも覚悟はしている。どんなことがあったか、出来る限り話してほしい」


 オルドさんがそういうと、小さく嘆息したアニーは口を開いた。


 俺と出会う前のこと、俺やばぁば、イリアとの出会い、伯爵邸での戦い、穀倉地帯の防衛などなど、アニーの口から語られる出来事は、オルドさんやミレネーさんの瞳を輝かせるには十分なものだった。

 しかし、最後に話したゴブリンの集落での出来事だけは二人とも顔をしかめてしまった。ミレネーさんに至っては、アニーがゴブリンにされたことを聞いたとき、口に手を当てて涙を流しながら聞いていた。



「そうか・・・それは辛かったろう・・・」

「アニーが・・・そんな目にあっていたなんて・・・う・・・ふううぅぅ・・・」

 暗い雰囲気が漂う中、アニーは笑顔を崩さなかった。

「でももう大丈夫よ。話したとおり、そのときはジンイチローが助けにきてくれたから。ジンイチローがいなかったら、私はもっとひどい目にあっていたのよ」


 すると、突然オルドさんとミレネーさんが立ち上がり、俺の座っているところへ歩み寄ると、二人して俺を抱擁した。


「ジンイチロー君、娘の危機を救ってくれて感謝する!ありがとう!」

「ジンイチローさん、アニーを助けてくれてありがとう。本当に・・・本当に良かった・・・」

「いえ・・・あの時俺がもっと強ければあんなことには・・・。俺の方こそ謝らないといけないと思っています」


 身を離したオルドさんはじっと俺を見つめた。


「・・・アニーがジンイチロー君をここへ連れてきた理由がわかる。例え異種族であってもジンイチロー君を信頼しているのだな」

「私もわかるわ。それに・・・そういうことでしょ?アニー」

 ミレネーさんが目配せすると、アニーは途端に俯いてしまった。

 ミレネーさんが含んだように笑うと、目元の涙の残滓を拭い取り、元いたところへ戻って腰掛けた。

 オルドさんも戻ると、軽く息ついてからアニーに向いた。


「それにしても、フィロデニアの王女と友人になるとは・・・。普通では考えられんな」

「何度も言うようだけど、それもジンイチローがいたおかげよ。私一人では決して繋がらなかったご縁ね」

「何故ジンイチロー君は斯様な関係を作ることができるのか・・・」

 不思議そうに俺を見つめるオルドさんに、アニーはさらりと言ってのけた。

「それは、ジンイチローが『大賢者』だからよ」


 オルドさんとミレネーさんが驚愕の眼差しを俺に刺してきた。


「そんなばかな・・・。『大賢者』といえば、マーリンという人間が唯一辿り着いたものだろう!?」

 俺は首を横に振った。

「いえ、彼女はもう『大賢者』ではありません。私が彼女から『大賢者』を譲られているので・・・」


「「 譲られた!? 」」


「えぇ、そういうことでいいと思います。不本意ではありますが」


 オルドさんもミレネーさんも共に首を傾げていた。

 信じられないのも無理はない。『大賢者』なんて職業は譲るものではないと俺も思う。


「まぁとにかく、ジンイチローがいたおかげで今の私がいるし、イリアともお近づきになれたってこと」

「そうか・・・。ミレネー、アニーの出国を応援して正解だっただろ?」

 ミレネーさんはため息をつくも笑顔でうなずいた。

「そうね。私は大反対だったけどね。成長したアニーを見られて結果的には正解だったわ」

「お母さん・・・」

「それに・・・ムフフ」

「な、なによ・・・」

()()については反対しないわ。安心して」


 アニーは再び俯いてしまった。それを見てミレネーさんは幸せそうに微笑んだ。


「そうだ、ジンイチロー君はこの地にどれほど滞在するんだ?」

 オルドさんの問いに、そういえば、と呟き黙考。考えてもいなかった。

「・・・そうですね・・・。特に決めてもいませんでしたし・・・」

「なるほど。ジンイチロー君はそう言っているが、アニーはどうする?もう出国せずにこのままいるのか?」


 オルドさんの言葉を聞いて、アニーはすぐに首を横に振った。


「私はジンイチローと一緒に魔王国に行くつもりよ」

「魔王国に?どういう風の吹き回しだ?」

「外の世界はきな臭い事件があって・・・それに・・・」



 アニーが続けようとしたその時、玄関のドアが盛大に開いた。


『誰が来たっていうの!?』


 玄関から聞こえてきた幼さの残る上ずった声色は大きな足音とともに近づいて、居間のドアを開けるのも間もなかった。


「誰!?―-――――お姉ちゃん!?」

「レナ・・・レナ!」

「お姉ちゃん!」

 駆け寄った女の子は座っているアニーに飛びついた。

「お姉ちゃんおかえり!」

「ただいま。久しぶりね」

 アニーは飛びついた女の子の頭をふんわりと撫でた。

『お姉ちゃん』ということは・・・。

「ジンイチロー、妹のレナよ。レナエレストリア」

「よろしく。レナさん」


 俺が挨拶すると、口を開けたまま俺をじっと見つめてきた。

 やがて納得したのか、何度もうなずいて笑顔を投げてきた。


「よろしく!ジンイチローさん!お姉ちゃんの婚約者ね!」

「「 え? 」」

「だってお姉ちゃん、ここに帰ってくるときは絶対男をつかばぶぐうううぶぶぶぐぐぐごぶぶぶ」

「レナちゃーん?久々の対面に緊張しているのかしらぁ?」

「むー!む!むー!」


 アニーさん!鼻を抑えるのは勘弁してあげて!

 にこやかな笑顔で窒息しかける妹を見るアニー、それは恐怖という言葉でしか表現できない。


「レナ、それにしてもよく私が帰ってきたってわかったわね」

 ようやく解放されたレナさんは呼吸を整えたあと、勝手にオルドさんのお茶を一飲みしてから口を開いた。

「そんなの簡単よ。精霊が教えてくれたの」

「あぁ、そっか・・・」

「でも精霊はお姉ちゃんよりもジンイチローさんに興味があるみたいね」

「・・・」


 アニーが湿った視線を俺に送ってきた。


「言わないようにしていたけど・・・どうしてかジンイチローに集まるのよね・・・」

「え?俺?」

「そんだけワラワラしてても気付かないものかしら」

「・・・」


 エルフの国に入ってからというものの、白くてフワフワしたのが視界に消えては入りを繰り返していたのだが、これってもしかして・・・。


「白くてフワフワしたのがいっぱい見えるんだけど・・・」

「「「「 ・・・ 」」」」

 一家四人が同じ顔で固まっている・・・。

「ジンイチロー、それ、精霊よ・・・」

「そうなのか・・・あ、だからエルフの国に入った途端にいっぱい視れるようになっ――――」

「すごい!!ジンイチローにも精霊が視えるのね!!やった!!」

 アニーが勢いよく俺に飛びついてきた。嬉しさのあまり抱きしめる力が強くて、密着しすぎて、胸が・・・。

「お姉ちゃん、やる~」

「あらあら、この子ったら」

「み、ミレネー!こういう時は『ばかもん』と怒る場面か!?」


 抱擁は解かれたものの、今度は瞳を輝かせた顔が近づいてそのままキスされてしまった!


「お、お姉ちゃん!?」

「あらあら、この子ったら」

「巣立ちというのはこういうことを言うのだな」


 人前でキスするなんて俺にとっては前代未聞!!

 離してくれないアニーの肩を叩くも微動だにしない。



 と、その時だった―――


 玄関のドアが再び勢いよく開いた音がして、ドタドタと乱暴に走る音が近づいてきた。

 と思ったら、今のドアがこれもまた勢いよく開けられた。


 ドアに立っていたのは若いエルフの男性だった。


「アニー!!帰ってきたというのは本当か!!婚約者の登場だぁ!!」


 え?婚約者・・・?


「さぁアニー、僕とキスを―――――って・・・えええええええっっ!!!!!」



 あぁ、またなんか面倒臭い奴が登場してきた・・・。




いつもありがとうございます。

投稿が一日遅れてしまいました。申し訳ございません。

次回予定は2/6となります。次回は一度だけ王都に戻ります。

よろしくお願いします。


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