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三脚の将貴  作者: 柳瀬
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拠点《エルラフ》

「あー、眠い。なあ、もう結構来たんじゃね?」

「一応言っとくぜ主。一番辛いの無休で飛び続けてる俺だからな?」

「私もだよ桐。君が私まで乗ると潰れるとか言うから、こうして自力で飛んでるんだからね」

「「ごめんなさい」」

確かに俺の隣を歩くような仕草で空を駆ける鳴海は浮いている。

普段は隠していた白い耳と九つの尾を見せびらかすように風に任せるまま揺らし、羽織の袂を引き寄せるように合わせ直す。

今日は満月の綺麗な夜だ。

俺の(桐に)ウルフカットにされた黒髪がひんやりとした夜風にたなびいて、うなじが寒い。

思わず身震いをして肩を縮こめると、ため息をついた鳴海が「蔵凪、羽織を」と袖に話しかけて、そこから「はい」という声とともににゅっと伸びた腕から紅の羽織を受け取った。そのままばさりと音を立てて伸ばし、俺の背にかけてくれる。

「お、サンキュー鳴海。蔵凪もな」

前紐を結んで固定したら、手は再び桐の硬い鱗にのばした。

「もう直ぐ着くぜ、主、鳴海。やっとエルラフに戻ってこれた」

「あ、本当だな。もうそこまで見えてんじゃん」

「気を抜けば落ちるよ主」

「心配ご無用だぜ、俺が主を落とすと思うのか?」

「…そういや、いくら主が暴れても君が主を落としたことはなかったね」

「ねえ俺への信用は?」

いつも通りの意味のない会話をしながらも、俺たちの目は空を飛ぶ大きな船を捉えている。

飛び舟、エルラフ。俺たちの拠点だ。

エルラフはラルフ率いる俺の舟の技術員が製作した飛び舟で、魔法も加わってるから見た目に反して中身がめちゃくちゃ大きい。

見た目的にはあれだよ、某魔法使いの動く城をイメージするのが早いと思う。それか某海賊王に俺はなる!な海賊の船。だいたいあんな感じだから(アバウト)

俺が桐の背から飛び降りたのを確認して、桐はばさりと翼を幾度か羽ばたかせて着地すると、ヒトガタになった。

鳴海もたんと音を立てて空気を蹴ると、俺の隣に足をつけた。

見張り役のカズキとユウキの双子が駆け寄ってきて、しがみつくように俺に抱きつく。

「主様、鳴海、桐、お帰りなさい!」

「俺たち寂しかったんですよ〜?」

「ただいまエルラフの癒し要員達!!俺は今すごく癒された!疲れも吹っ飛んだ!」

「君俺の背に乗ってただろうに、よく言う」

「全くだ。……とはいえ、お疲れ様。今回の仕事は、少し骨が折れたねえ」

やれやれとでもいうように両手をあげる鳴海の衣装は、ところどころ血が付着していて鉄臭い。

そういう俺や、桐も赤にまみれているのだが。

俺の頬についている血をペロリとなめとったカズキが、お風呂湧いてるので、先にそちらへどうぞと声をかけてくれた。

確かに血で濡れているから衣服が重いし、べったりと肌にくっついて気持ち悪い。

ご好意に甘えて食事より風呂を優先した俺たちは真っ先に大浴場に向かい、湯を浴びた。

艶やかに黒い前髪をオールバックにするように撫で付けた桐が、その蘇芳の瞳で横目に俺を見る。

「しっかし、今日は本当に疲れたなぁ」

「まあ、海賊団一個潰したわけだしね」

「おう、今回もお疲れさん、お前ら。いやー、流石にはじめ資料受け取った時は、まさか《三脚》が直々に動かねばならんほどの敵だとは思わなかったんだけどな」

三脚。『サイレントキラーのジルバル』『マルフ海の主レオン』『エルラフ城主シオン』の3人をまとめてそう呼ぶ。三脚はこの王国の切り札だ。たいていの問題が起きても、俺たちに直々に動けという命令は来ない。今回は本当に特殊だった。俺も動いたしジルバルも動いた、まあそれなりの大事だったのだ。

俺たち三脚は、各々何かを条件にこの王国の政府に貢献してはいるが、無条件に手を貸してやっているのではない。いわば同盟を組んだ状態だ。…まあ、我ながら一国を相手に同盟組む空賊もどうなんだと思うが。

「主はよく『暇だから』とかの軽い理由で暇つぶし程度に動いてやっているが、ジルバルが動いたのは珍しい」

「彼、政府大嫌いだものね」

「協力してやってる条件に『俺の死ぬ時が政府長官が死ぬ時になるのなら』ってある時点でもうよく窺えるよねぇ」

「お疲れ、船長、桐、鳴海。shineも大分大きな海賊だったし、ジルバルとはもとより敵対していたそうじゃないか。だから手を貸したんじゃねぇの?」

桶とタオルを持って椅子を寄せてきたラルフが、まだ甘い考えを述べる。

「いや、ジルバルが動いたのは、アサシン集団が1組も動いてなかったからだろう」

「ジルバルはアサシンでありながら、アサシンが嫌いだからね。皮肉のネタにでもするつもりで受けた依頼だったのだと思うよ」

「いやいやいや、流石にそんな気まぐれじゃ動かねぇだろ、ジルバルだってさ」

「それがその気まぐれで動いちまうんだよ、彼奴は」

規則掟だらけのつまらない環境に縛られて育った彼は、実家である暗殺家を滅ぼして以来、自分の思うままに生きている。彼の舟では、彼が赤といえば黒いものだって赤となる。俺のクルー達に一番警戒されているのが彼奴だ。何しろ何をしでかすか測れないものだから。

「…そういや、shineどうだった?骨のあるのはいたのか?」

ひくりと頬を引きつらせたラルフが、話題の方向を変える。

「骨どころか竜骨ある奴がいたよ、ざっと10人くらい」

「はあ!?あっ、え?ちょ、うっわ気付かなかったその傷えっぐ!!」

驚きに跳ねたラルフの方へ体を向ければ、俺たち3人の体にそれぞれ残る抉られたような傷や鋭い爪のような痕を見て、ラルフが顔を青くした。俺たちは基本的に背中の傷は恥だと考えるから、背は全く傷がなく、腹にひどく痕がある。

しまった、非戦闘員のラルフには、ちょっとキツかったかもしれない。

「痛くねぇのそれ…お湯とかボディソープしみんだろ?」

「うん、いてぇよ普通に。けどまあ、風呂入った後のが、桐の怪我の手当てしやすいしな」

「は?どういうことだ?」

「火傷もどきがあるんだよ。特殊な魔法使ってるから剥がさなきゃならんくて、お湯で皮膚をふやかした方がその部分の皮膚剥がしやすい」

「えぐいこと言うな!!!」

真っ青を通り越して白くなった顔を俯けたラルフに朗らかに笑って、鳴海が薬湯船に浸かる。俺や桐もそれに続いた。怪我人と一般の奴らじゃあ、流石に風呂分けなきゃいけないからな。

「怪我してるお前らとは風呂被ったことなかったけど…なんなの?俺も怪我したらそんなえぐいことされんの?」

「するかよ。俺たちはエルラフの主力だからな、怪我はなるべく早く完治させなきゃならん。だからさ。痛いけど」

「荒療治にも程があるが、これが一番治りが早いのだよ。だからこんな手段を取っている。痛いけれど」

「俺たちは強制として、他は望む望まないでちゃんと方法変えてるからな?まあ俺たちは痛いけど」

「わかったわかったよもう言わなくていいよ俺まで痛くなってきた」

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