マッチ売りと回避しがたい物語
がんばって書きました。誤字はないとは思いますが、見つけた場合はコメントにてお知らせください。
いつものようにマッチを売り歩く。
「ねぇマッチを買って、誰か、お願い…」
そして、ふと思った。
あれ?こんな状況を知っている気がする…
そう、確か…
「マッチ売りの少女」
大晦日の日におばあちゃんの元に行くことができた少女の話。
あれって確か、最後は死んでたよね…
…
なんで知っているんだろう。
どこかで読んだことがあったと思うんだけど、思い出せない。
でも、もし私が「マッチ売りの少女」だったら、大晦日の日に死んでしまうということになる。
…え?
ちょっとまって!
大晦日って、明日じゃない!
やばいって!
どうしよう…
どうにかして“しんでしまう運命”を変えないと!
私、まだ死にたくない!
…
でも、どうしよう。
お父さんは怖いから逆らえないし、みんなはマッチを買ってくれないし…
警察みたいな組織ってないかしら。
助けてくれそうだけど…
……
「…さん、そこのお嬢さん、マッチをくださいな。」
え?
考えていたら、声をかけられた。
「あ、はい!ありがとうございます。」
この人って、確か自警団の人だった気がする…
自警団?
あ!
「あの、いくついりますか?」
「ああ、それじゃあ3個もらおうかな。」
自警団って、警察みたいな組織だったよね。
「ありがとうございます。…あの、また買ってくれますか?」
「ふふ、いいよ。また明日もここにいるかな?」
「は、はい!」
明日もこの場所にいないといけないけど、これで最悪の未来は回避できたかもしれない。
でも、もしお兄さんが来てくれなかったらどうしよう…
もうすこし、人に声をかけたほうがいいかも!
「すみません、マッチはいりませんか?あの、マッチは…」
…やっぱり無理だった。
買ってくれる人はいない。
そうだ!
一度家に帰ろうかな。
マッチも売れたわけだし、パンをくれるかもしれない。
叱られることもないはずだ。
何も食べてないから、おなかすいたなぁ。
「…お父さん?ねぇ、おうちに入れて?」
…
……
………
…やっぱりだめかな。
……ガチャッ
「…なんだ?マッチは売れたのか?」
「…ええっと、すこしだけ。」
「だせ。」
お金を渡した。
でも、2個分だ。
1個分はもしもの時のために取っておくことにした。
世の中何が起こるか分からないからね。
「…2個分か。この程度で帰ってくるとはな。まぁいい。」
パンを渡された。
とても固い。
しかも小さい。
「これを食ったらまた売りに行け。いいな、今度はこの程度で帰ってくるなよ。」
そういって閉め出された。
…どうしよう。
パン、固いなぁ。
おいしいご飯が食べたい。
でも、とりあえずマッチを売らないと…
あれ?
そういえば、私が「マッチ売りの少女」だと決まったわけじゃないじゃない!
似ているってだけで、まだそうとは決まった訳じゃない。
……
でも、結局はこの状況が続けば同じことだよね。
もし明日死ななくても、いつかは凍えて死んでしまう。
その前に何とかしないといけないな。
でも結局買ってくれる人はいず、夜になった。
…
寒い、とても寒いよ。
雪が降ってきた。
誰も助けてはくれない。
芯まで凍ってしまいそうだ。
でも、耐えないと…
………
何とか夜を乗り切って、大晦日になった。
みんなせわしなく動いていて、誰も立ち止まらない。
私の声なんて、聞こえていないかのようだ。
いろいろなところで呼びかる。
でも、やっぱり買ってくれない。
マッチを買う必要はないからかな。
あのお兄さんもやっぱり来てくれていない。
このまま凍えて死んでしまうのではないか、そんな思いが過ぎる。
寒くて、寒くて、誰も助けてくれなくて。
近くにあった家と家の間で、マッチを一本擦った。
きれいな暖炉が見える。
とても温かそうだ。
近付こうとしたら、消えてしまった。
ああ。
もう一本。
おいしそうな七面鳥が見える。
食べたいな。
手を伸ばしたら、やっぱり消えてしまった。
だから、もう一本擦ろうとしたんだけど…
「ねぇお嬢さん。そんなところで何をしているのかな?」
!
驚いて見上げると、あのお兄さんがいた。
「…お兄さん」
「お嬢さん、マッチを買いに来たんだけど…」
そういえば、そんな約束をしていた気がする。
「いくついりますか?」
「…全部で何個ある?」
えっと…
1,2,3,4…
「全部で14個です。」
「それじゃあ全部貰おうかな。」
え?
「全部、ですか?」
「うん、全部。」
「あ、りがとう、ございます?」
籠の中身が空になった。
とても軽い。
「?お嬢さん、よくみたら真っ青じゃないか!このままでは風邪をひいてしまう。早く家に帰って暖まりなさい。」
お兄さんは心配してくれていた。
おうち?
…でも、入れてくれるかわからない。
お父さんは私が嫌いだから。
暖炉の前に座らせてくれるとは思えない。
死んでしまっても何も思わないと思うから。
「おうち、入れるかな?」
「え?」
「お父さん、おうちにいれてくれるかなぁ?」
不安になって、つぶやいてしまった。
そしたら、お兄さんが
「もしかして、家に帰れないの?それなら、詰め所に来る?暖炉はあるから…」
私なんかが行ってもいいのかな?
邪魔じゃないだろうか。
でも…
「お願い、します。連れて行って?」
お兄さんと一緒なら。
暖かいところなら…
「うん、いいよ。迷子のお嬢さんを保護しました。なんてね。」
お兄さんに連れられて、建物の中に入った。
中には顔の怖い人や、お兄さんみたいに優しそうな人がいた。
面白い顔の人や、女の人もいた。
「おい、その女の子はなんだ?」
「ああ、保護したんだよ。とりあえず、あったかくしてあげないと。」
こんなにたくさんの人が、私を見てくれている。
私を気にしてくれている。
女の人が言った。
「じゃあ、服も汚れているし、温かいものに着替えたほうがいいよね。あたいが担当するよ。」
「ああ、お願いな。」
え?
「それじゃあお嬢さん、あたいについてきな。」
混乱していると、歩きだしてしまった。
「…はい。」
とりあえずついていくことにした。
…
ここは温かい。
空気が、外なんかと比べ物にならないほどに。
きれいな洋服に着替え、もこもこの毛布にくるまれて、温かい暖炉の前に連れて行かれた。
心の底から暖かくなって、気付いたら泣いていた。
自警団の人たちは驚いていたけれど、慰めてくれた。
私の事情も聞かず、ただただ慰めてくれた。
ひとしきり泣いた後、ご飯を用意してくれた。
おいしくて、温かくて、また涙があふてそうになった。
布団も用意してくれて、昨日までの夜とは大違いだった。
最高の年明けになった。
次の日目が覚めると、朝ご飯が用意してあって。
お父さんの所に帰らなくてはならないというのが、とても嫌だった。
でも、お兄さんたちが付いてきてくれてうれしかった。
お父さんは虐待をしていたということで捕まってしまったけれど、もう関係なかった。
むしろつかえがとれたような、そんな気分だった。
お兄さんたちは困ったことがあったらいつでも来ていいと言ってくれてた。
だから、今度はお礼をしに行こうかな、と考えたり。
私はお兄さん達のおかげで「マッチ売りの少女」としての運命をたどらなかった。
特にお兄さんには、とても感謝している。
私のようにつらい思いをしていたとしても、最後にはお兄さんのように救ってくれる人がいてくれると私は信じたいと思う。
つらいことや悲しいことがあった後には、幸せなこともあるってことを知ったから。
それから、ずっと幸せに暮らしました。とは言い難いかもしれないけれど、私はとても幸せになることができました。