吸血鬼さん。その1
あの日からあの銀髪のお客さんは、必ず毎日決まった時間にやって来る。
午前1時に…
ウィーン…
「いらっしゃいませ!」
「ども、こんばんわ…」
今日もまた、午前1時にやって来た。来たときにはこんな風に挨拶するのがお決まりになっている。決まっていつもトマトジュースやほうれん草入りの野菜ジュースを買って帰るこの人を私は「吸血鬼さん」と呼んでいる。
「あっ!吸血鬼さん!」
「きっ、吸血鬼さんって…」
「あっ!失礼しました!」
「いやぁ、別にもう慣れましたから構いませんよ。」
「えへへっ♪また今日もトマトジュースですか?」
「はい。お願いします。」
「ダイエットでもしてるんですか?」
「別に、ただ健康のためですよ。私貧血なんですよ。」
「貧血とトマトジュースって関係あるんですか?」
「気分…です、かねぇ?赤い物飲んでると落ち着いてる気がするんですよ。まぁ野菜ジュース何かも飲んでますけどね。本当は苦手なんですけど…まぁあんなもの飲まされるよりましですけどね。」
「ん?あんなものって?」
「あっ…えっ、と実家で出される特別な飲み物のことです。私の実家ではそれも健康の為に子供の頃から飲まされるんですよ。それが本当に嫌いで、大人になってからでも飲めって送られてくるんですけど、それが嫌だから変わりにトマトジュースとかを飲んでるんですよ。そうすれば親にうるさく言われないんでね。」
「なんか、変わってますね。」
「あははっ…まぁ確かにね。親族の中だけの風習だし、この国じゃ珍しいですよね。」
「えっ!吸血鬼さんって海外のご出身だったんですか!?」
「はい、ルーマニアってわかりますか?」
「益々吸血鬼っぽいですね…」
「まったく、偶然ってのはすごいものですよね。」
「でも吸血鬼さんは日本語上手ですよね?」
「私ハーフなんですよ。父がルーマニア出身で母が日本人なので、生まれがルーマニアで育ちが日本なんですよ。…っていうか、そろそろ吸血鬼さんじゃなくて名前で呼んでくれませんか?」
「だって教えてくれないじゃないですか。」
「マリウスです」
「名前は外国人っぽいですね、苗字は日本人っぽいですか?それとも外国人っぽいですか?」
「言わなきゃダメですか?」
何故か心底嫌そうな顔をしている。
「当たり前です。」
「…どうしてもですか?」
「なんでそんなに渋るんですか?」
「う~…わかりましたよ。絶対笑わないでくださいよ……明塚です…」
「えっ?」
「明塚です!」
「ぷっふふ…」
「ちょっと!笑わないでくださいって言いましたよね!」
「だっ、だって…くくっ、明塚…ふっ…マリウスって…ふふっ…芸人みたい(笑)」
「も~こうなるからやなんですよ~」
「あははっ♪」
「あははっじゃあないですよ!」
マリウスさんのおかげで楽しい日々を過ごした私…この時はまだ気がつかなかった。この人と出会わなければ死んでいたかも知れないことを…