第3話:GWと作戦会議
「ん……?この映画前も見たな……」
4月29日木曜日。世に言うゴールデンウィークの入り口。白鷺学園は土曜日も午前だけ学校があるため明日明後日は登校日となっている。2日の日曜日から4連休がゴールデンウィークの本番だ。
そんなゴールデンウィークの入り口。特に予定はない俺は部屋で映画のDVDをレンタルして見ていた。
「んー、次はなにを見ようか」
借りてきた袋からDVDを見繕っているとスマートフォンのバイブレーションが鳴る。
「忍か。はいはい、もしもし。どうした」
『おーい!渉、今から慧と遊びに行っても良いか?』
一人暮らしということもあり忍と慧はよく俺の部屋へと遊びに来る事がある。今日もそうだろう。
「構わないがいまお菓子の買い置きがない、途中のスーパーで何か買ってきてくれると助かるんだが……」
『おっけーおっけー!それじゃあ行くわ』
忍からの電話を受けてから10数分。
ピンポーン
「お疲れさん。お茶出すから座っててくれ、今日はなにするんだ?」
俺はキッチンで3人分の麦茶を注ぎながら声をかけるが心なしか慧の表情が暗いような気がする。
「いや、今日は遊びに来たってのは建前で。ちょっと渉に相談したい事があるんだわ」
忍が慧の背中をバンバンと叩きながら言う。
「相談事だ?まぁ、立場上よく相談事を持ちかけられる事はあるけど」
学生警察というのは学校の平和を守るのが仕事であるため生徒からよく相談事を持ちかけられる。解決できるかどうかは別だが緒くらいはなればと思い対応する。
「それがな……結構真面目な内容なんだ。ほら慧、お前が渉に相談したいって言ったんだろ」
「そ、そうだよね……うん。あのね渉!僕はとても真面目なんだ!」
珍しく慧が大きな声を出す。相談の内容が読めないがとにかく真面目な事はわかる。
「慧……それじゃあわからないって。いやな、こいつ久米さんの事が好きらしいんだわ」
「ちょっと忍!僕が自分から言おうと思ったのに!」
「お前がよくわからないこと言い続けるから代わりに言ってやったんだろ!」
急に言い争いを始める慧と忍。相談って恋愛相談だったのか。
「なるほど、だいたいわかった」
俺は立ち上がる。
「ちょうど近所に久米さんと仲の良い女子が居るから呼んでこよう」
「えっ!?それって成宮さんだよね!?ダメダメ!絶対にダメ!」
「何で……」
「恥ずかしいじゃないか……」
実に慧らしい理由だ、だがしかし。
「恋愛相談なんて持ちかけられても俺にはさっぱり……」
「だよなぁー!」
忍に大声で笑われる、それはそれで癪に触るが事実なので仕方がない。
「最近よく一緒にいるところを見かけると思ったらそういう事だったのか。せっかくゴールデンウィークが近いんだ、どっか誘ったらどうだ?」
学校にいると慧がよく久米さんと話をしているのを見かける。気になったのか成宮さんが何の話をしているのかと聞くと本について色々話しているらしいと言われたと言っていた。
「相手は2年女子トップクラスの久米さんだよ……?僕なんかじゃとても……」
「容姿も成績もトップクラス、隠れファンも多くて時折プレゼントをもらう事もあるとか。もちろん交際の申し込みをする男子も居るがことごとく断っている。確かに少しハードルは高いよなぁ」
3人で腕を組んで考え込む。白鷺学園にきて最初の友人の恋だ、成就させてやりたいという気持ちはとても強い。
「そういえば私物に変な液体がかけられた、なんてこともあったって本人から聞いた事があるね……」
「変な液体?なんだそれ」
「うぅん、本人にもよくわからなかったらしい。気持ち悪いからってすぐに捨てて新しいものを買ったとは言ってたけど……」
「あー……それってもしかしてアレじゃね……?」
「アレ…って何さ」
「ほら、男特有の……」
「忍そこまでだそこから先は言うな。お菓子が不味くなる……」
ただもしそれが本当だったとしたら。
「下手したら俺が動かないといけない案件だよなこれって……」
「続くようなら、じゃね?」
「大丈夫かな久米さん……」
慧の恋愛を成就させるにはどうすればいいか、そんな事を3人で考えても一向に案が浮かばない。そうこうしているうちに日が落ち、忍はバイトがあるからと帰り慧もこれ以上長居すると悪いからと帰って行った。
「へぇー……菱川君が縁の事をねぇ」
その日の夜、俺は部屋で成宮さんに昼間あった事を話してみた。無論他言無用でだ。
そもそも、なぜ成宮さんが俺の部屋にいるかというとだが……
「悪いな成宮さん、夕飯ご馳走になっちゃって」
「いいのいいの!パパが急なお仕事で帰ってこれなくなっただけだから。食材余らせちゃうのもったいなくて、今までは困ってたんだけどね。それに七条君の食生活も少し気になったし……?」
成宮さんが少し機嫌の悪そうな視線を向けてくる。
俺が夕飯をカップ麺で済ませようとしているところにインターホンを鳴らしたのが成宮さんだった。以前スーパーでカップ麺を買い込んでいる姿やお弁当を買っている姿を目撃され食生活についてかなり問い詰められた事がある。
「だいたい、今まではどうしてたの?」
「学生警察専門学校は完全寮制だったから食堂があった。こっちに越してくる前は今と同じような生活だったかな……楽でいいし」
「まったく、呆れた……」
「そういえば、いつも成宮さんが家事をしてる印象を受けるがお袋さんはどうしたんだ?」
俺のその質問に成宮さんの表情が少し暗くなったような気がした。地雷を踏んだかもしれない。
「ママは、私が小さい頃に交通事故で……ね……でも寂しくはないんだよ!?パパも優しいし友達もいっぱいだから!」
気丈に振舞っているようにも取れるが、間違いなく本心から出た言葉だろう。暗くなった表情は一転して明るくなった。
「そういう七条君は?ご両親はどんな人なの?」
「ん?俺か、どんな人って言われてもなぁ……わからないんだ」
「えっ、ご、ごめんそんなつもりじゃ……!」
「あ、違う違う。生きては居るんだ、ただ忙しいみたいで顔を見た事がない。面倒を見てくれてたのはおじさん……えぇと、学生警察課の課長の親父さんでね、俺が学生警察する事になったのもおじさんの影響が強いんだ」
「そ、そうなんだ……寂しくなかった?」
「うーん、途中で居なくなられたわけじゃなくて最初から居ないようなものだったし、寂しいってのはないかな。今でも毎月親から目を疑うような金額が生活費として俺の口座に振り込まれてるし……なんの仕事してるんだって逆に少し怖くなるくらいだ」
「ふふっ、そっかそっか。さてと……菱川君と縁の事だっけ?」
「そうそう、ゴールデンウィークなんだからどこか誘えって言っても恥ずかしいの一点張りで聞こうともしないんだよ。まぁ、俺も恋愛に詳しいわけじゃないからなんとも言えないんだけどな」
「それを言ったら私もだよ……」
「ん?そうなのか?成宮さんモテそうだけど」
「全然!縁はよく男子に告白されてるらしいけど私は全くだよ」
なるほど、本人は気づいてないってパターンだなこれは……
「何かいい方法が有れば良いんだけどね……」
「昼間も3人で何か無いかと頭を使っていたんだけどね……」
「うーん……あっ!じゃあこういうのはどうかな?」
成宮さんの提案を聞いてみる。
「なるほど、それは上手いな!わかった、こっちで慧に声をかけてみよう」
「じゃあ私は縁に!」
かくして菱川慧恋愛成就大作戦その1が実行されようとしていた。
今回は少し長くなりそうだったので2話分に分けた感じにしてみました。その結果1話2話と比べてやや短くなりました。全部入れようとしたらかなり長くなってしまったと思います。そんなわけでゴールデンウィーク中のお話は次回も続きます。