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学園天国と学生警察  作者: ゴルドシュトレームング
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第1話:春風と新生活

少年法が廃止されてから十数年、国は学生警察制度というものを立案した。学生警察を望む者は義務教育の小学校中学校とは別に専門の学校へと通う。警察学校で行われる課程を修了、その後高等学校へ警察として配属される。学内で発生した問題は学生警察が取り締まり必要であれば学外の警察へと引き渡す。例えるとするならば風紀委員会の上位互換のようなものである。


「ふぅ、ざっとこんなもんだろう。どうせ1年しか居ないんだ、荷解きも程々にしておいて良いだろう」

新しい出会いの季節、4月の頭。俺、七条渉(しちじょう わたる)はこの春から1年間学生警察として私立白鷺(はくろ)学園へと転入する事となりアパートの一室、1Kの部屋にて一仕事を終えた。学生警察は基本的に公立高校に配属されるが、時折私立から国へと要望がかかり俺のように新年度から編入するという事もあるらしい。

「一通り終わったし、街を色々歩き回ってみるか。海も近いみたいだしな」

白鷺学園のある白峰市は良い言い方をすればのどか、悪い言い方をすれば田舎だ。海が近く夏になればとても賑わうらしい。

「おぉ、これは確かに良い景色だな。来た時には引っ越しの作業が忙しくてちゃんと眺める事が出来なかった」

アパートを出て見渡すと遠くに海が見えた、明日からこの海を眺めながら登校する事を考えると今から少し楽しみに感じる。

「おや、見ない顔だけれど……君が新しく引っ越してきた人かな?」

「え……?」

後ろから声をかけられた、そちらを向くと中年の人が良さそうな男性がそこには立っていた。

「あぁ、ごめんよ。私は成宮、このアパートの301に娘と暮らしているんだ。君は?」

「えっと、七条渉と申します。自分は303なので同じ階の部屋に住んでいます」

「303……あぁ、ワンルームの空き部屋がやっと埋まったのか」

俺が引っ越してきたアパートは3階建てになっている。各階には3つ部屋がある、うち2つは家族での生活を想定してか3DKの構造、残りの一室が俺の住む部屋のような1Kとなっている。

「見たところ学生さんのようだけれど、一人暮らしかい?」

「はい。明日から白鷺学園に通う事になりました。ここからだと歩いてもそう遠くはありませんし、景色も良いので良いところに引っ越してこれました」

「ははは、ここは非常に良い眺めだからね。毎朝気持ちよく出かけられるよ。ふむ、白鷺学園か……私の娘も白鷺学園に通っていてね。今2年生なんだが、君は?」

「自分も2年生です、転入という形になっています」

「そうだったのか、もしかしたら娘と同じクラスになる可能性もあるのかな。とにかく、困った事があれば頼ってくれて構わない、一人暮らしは何かと心細いだろう?」

成宮さんは優しそうな笑みを浮かべる。優しそうな人が近所で良かった、心からそう思う。


翌日、新年度の始業式がある朝に俺は校長に呼ばれ職員室に連れられていた。

「今年度から1年間学生警察として我が校に配属された七条渉君だ。学生警察とはいえ他の生徒とは変わらずに接してあげてほしい」

「1年間ですがよろしくお願いします」

校長からの軽い紹介のあと挨拶をする。職員室は公立高校とそれほど大きな違いはなかった。

「クラスは……2-Bだね、水谷先生よろしくお願いします」

校長は1人の先生の前に俺を連れて行った。

「2-B担任の水谷楓(みずたに かえで)です、担当教科は数学、よろしくお願いしますね?」

大人しそうな若い女性の先生。この先生が授業をしているところを想像すると少し頭が痛くなるような気がした。

「始業式の間はここに待機してもらって、最初のSHRで皆さんに紹介しますね」

先生はそう言うと他の先生と共に始業式に向かっていった。

その後始業式を終えた水谷先生に連れられて2-Bの教室に向かう。その道中で先生に話しかけられた。

「えぇと、七条君は学生警察ですよね?学生警察の専門学校ってどんなことをしていたんですか?」

「基本的なことは義務教育の内容と大きくは変わりません。ただ高校にあるような定期テストが行われたり、総合なんて呼ばれる授業は全て学生警察に必要な知識を得るための授業になっていたり。体育の授業も柔道や剣道などの武術、体術、また数人を相手にした制圧術等の訓練でした。学生警察は基本的に各学校に1人ですから、数人を相手にすることも想定されているそうです」

「そうなの…それだと遊ぶ時間なんかもなかったんじゃないかしら……」

「そんな事はありません、普通にみんなと遊んだりゲームしたりと自由な時間もありましたよ?適度な自由が適度な秩序をもたらす、なんていうのは恩師の口癖でした」

「ふふっ、良い言葉ですね。っと……ここね、私が声かけたら入ってきて……って七条君!」

先生が説明しているのに気付くのが遅れ何も考えずに教室のドアを開けてしまった。

「あっ……」

無数の目が一斉にこちらを向く。学生警察という事もあり好奇の目で見られる事は今までよくあった。だがこれはそういったものとは違う、単なる好奇心からくる目の輝きだった。こういう物は逆に反応しづらい。

「え、えぇと。こちらは今年度から転入してきた七条渉君、みんなよろしくね?ほら、七条君自己紹介して」

先生に促される。俺は黒板に自身の名前を書き込む。

「七条渉、学生警察としてこの学校に配属される事になりました。1年間よろしくお願いします。」

軽く自己紹介する、学生警察という言葉に反応したのか教室が少しざわつく。

「じゃあ、七条君はあの空いている席に座ってね」

先生に指定された席に着くと右隣に座っていた男子生徒が声をかけてきた。

「僕は菱川慧(ひしがわ けい)、よろしくね七条君」

髪型を特に整えもせず、長すぎでもなく短すぎでもない。例えるならば特徴がないことが特徴といわんばかりの印象を受けた。

「渉で構わない。よろしく」

「そっか、なら僕の事も慧でいいよ」

「おう、よろしくな慧」

「うん!」

俺が慧と話していると前に座っていた女子生徒がこちらに振り返ってきた。

「はじめまして、えっと、君が昨日パパが言ってた人だよね……?」

長い髪をポニーテールにした女の子、長い、とにかく長い、腰くらいまであるんじゃなかろうかというくらい長い。

「ん?パパ……?」

「そっ、私は成宮遥(なりみや はるか)。同じアパートの301住んでるの。よろしくね?」

そう自己紹介した彼女は確かによく見れば昨日話した成宮さんと似ていた。似ていたが、どことなく女の子らしく可愛らしい印象を受ける。

「確か娘さんがいると言っていたっけか……まさか同じクラスになるなんて。よろしく、成宮さん」

「うんっ、昨日パパが言ってたと思うけど何か困ったことがあったら言ってね?」

成宮さんは笑みを浮かべると机と向き合った。

そうこうしているうちにSHRが終わる。始業式の日は授業はなくもう一度HRを行って今日の授業は終わるそうだ。休み時間に入り、スマートフォンを取り出して上司、学生警察課の課長への報告をしようとした矢先だった。

「やっほう、学生警察の渉君」

成宮さんの席に1人の男子生徒が俺のほうを向きながら座った。

「俺は神崎忍(かんざき しのぶ)、よろしくな!忍でいいぜ!」

髪を少し長くし後ろで纏めている、イケメンだな、うん。イケメン。つり目だが決してキツくない印象だ。

「お、おう。よろしく……?」

「おうっ!なに、昨日こっちに越してきたって楓ちゃんに聞いてな!何かあったら遠慮なく俺に聞いてくれ!」

楓ちゃんというのは水谷先生の事だろう、何か……何かってなんだろう……

「ちょっと忍、渉が困ってるだろ!」

隣に座っていた慧が話に混ざってきた。

「なんだよ慧、転校生と仲良くしたいって思うのは情報通として当たり前だろー」

「情報通……?言っておくが学生警察についてあまり詳しい事は話せないぞ?」

「あぁいや、そうじゃねぇ。渉、確かに俺は情報通だ。女の子のスリーサイズすら網羅するくらいの情報通だ」

「…………えぇと、まさか配属初日から取り締まる事になるとは思わなかったんだが」

「渉、忍について取り締まろうと思ったらキリがないからやめたほうがいい……少し問題はあるけど悪い奴じゃないから笑って済ませてやってくれないか?」

慧が呆れながら言う。きっとこの2人は悪友のような関係なのだろう、少し羨ましい。

「とにかくだ!俺は純粋に渉と仲良くしたい、せっかくの高校生活だ友達は多いほうがいいだろう?」

そういうと忍は笑顔を見せる、探るまでもなく本心から言っているのだろう。そう思わせる笑顔だった。

「まっ、そんなわけだ。明日からまたよろしく頼むぜ!これは転校祝いってことで!」

忍はそういうと俺に紙切れを一枚渡してきた。

「なんだこれ……」

「あー……いつものか、気にしなくていいよ。まったく忍は……学生警察相手によくやろうと思うなぁ」

紙を広げるとそこに書いてあったのは。

『成宮遥 88・56・90』

「なぁ……慧」

「何かな?」

「俺、最初の仕事あいつの取り締まりになるかもしれない」

「やめてあげてほしいな……アレでもいいやつなんだ……」

「なになに?なんの話?」

俺が呆れながら慧と話していると成宮さんが戻ってきた。俺は慌てて紙切れを握り潰す。

「い、いや何でもない。忍が変なやつだなって話をしていただけだ」

「あはは!神崎君おもしろいもんね!」

笑顔でケラケラと笑う成宮さんの胸に目がいく。

(88……か……いや、何考えてるんだ!)

俺は邪念を振り払うように首を振ってから窓の外を眺める。少し強めの風に桜の木が大きく揺れていた。

「新しい1年……か、どんな事になるのやら。楽しみではあるけれど……ね」

春、新しい季節。出会いの季節。一抹の不安と、一握りの期待。様々な思いが入り混じってはいるものの、この時の俺はこの先が楽しみで仕方がなかった。



少しずつ温めていたものを形にして見しました。設定も緩く後付けで増えていくかもしれません、加えてクオリティも保証できません。またリアルが忙しくなる可能性もあり完結するかどうかも危ういですが気長に待っていていただけるとたすかります。

タイトルは一応仮なので変わるかもしれません。

現在までの登場人物については二話の前に入れるか、二話の後に入れるかを悩んでいます。

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