薔薇の木に百合の花咲く
※注意!
この話はTS(女→男)×TS(女×男)です。
前世で女性(しかも腐女子)同士が恋愛する話です。
必然的にオタクトークも入ります。
以上が苦手な方は引き返すことをおすすめします。
いつもいつも、夢に見るのは血塗れの親友。
助けたくて、助けられなくて、泣き叫び何も出来ない哀れな女。
それは俺だ。
現世とは違う、前世の記憶。
今の剣と魔法に魔物溢れる世界とは違う、科学の進んだ異世界の記憶。
俺、アレックス・ソービは俗に言う転生者って奴だ。
しかも前世は女で、現世は男っていうかなりマニアックな位置にいる。
だけど、俺はこの状況を恨んじゃいない。
これは死の間際に願った思いを叶えてくれるものだったからだ。
俺は、現世でも大切な親友を、目の前で助けられなかった。
親友は変な女に刺されそうになった俺をかばって、自分が刺されちまった。
そのあと、情けなくも恐怖とショックで動けなかった俺は、泣きながら笑う変な女に滅多刺しにされて死んじまったんだ。
助けられたのに、助からなかった馬鹿な俺。
馬鹿な話もオタクな話も何でも出来た、冷たくなった親友。
女同士なのに、恋愛的な意味でも大好きだった愛しいあいつ。
だから俺は薄れる意識の中で誓ったんだ。
今度生まれ変われるなら、親友を守れる男になろうって。
そう、誓ったんだが……―――
「……お前まで男になってどうすんだよぉ……」
「えっ?」
目覚めてすぐに見えたのはいそいそとベッドに入り込もうとする前世でも現世でも親友なあいつ。
今の名前はユーリス・リリン。
線は細いが立派な男だ。
大切なことなのでもう一度言う、残念ながら男だ。
神様ちくしょう。
「ってか、ベッド入ってくんなよ、せめーんだよ」
「えー、いいじゃん。昔はよく一緒に寝てただろう?」
「いつの話だよ……」
「ほんの五年くらいの話だよ」
ユーリスはけろりとした顔で抵抗する俺なぞ無視しベッドに入ってくる。
ぎしりと軋む寝台にちょっとどきりとしてしまう。
どうせ俺だって健全な青少年だよ!
くそぅ、こいつの顔が間近にあってドキドキしてしまう。
前世だって女同士ってハンデがあったんだ。現世も男同士に対する葛藤なんて一切ないね!
「なぁ、アレックス」
「……なんだよ」
「いざ自分達がユーリスとアレックスになるとどっちが受け攻め担当するか迷わない?」
「ぶっふぉああっ!」
真剣な顔で言われて噴くしかなかった。
「な、ななな、お前何言ってんだ!」
「えー、だって考えてみなよ。折角あんなに腐ったトークをかましたアニメの主役とライバルになれたんだからさー」
確かに転生したこの世界はおかしいほど熱中したあのアニメの世界で、俺達はその主人公とライバルキャラだけどさ!
でも中身! 中身俺達じゃん!
いや、言わせて貰えばどんとこいっつーかアレックス×ユーリスでむしろお願いしたい所だけどね!
ユーリスは俺の嫁!
「僕はユーリス×アレックスもありかなって」
「お前何言ってんの!」
前世だとアレユー派だったろお前……って、違う!
「なぁ、親友。アレユーだろうがユーアレだろうが中身俺達だぞ」
そこんとこ、わかってんのか。
「わかってるよ」
ユーリスは前世から変わらない、少し困ったような顔で笑う。
「僕がね、男で生まれたのは今度こそ君を守るためなんだよ」
ユーリスの告白に、俺の心臓がどくんと跳ねた。
「お前、何で」
「あったんだ、意識。君が事切れるまで」
それは知りたくなかった事実だった。
こいつの決死の行動を無駄にしたことを知られたくなんてなかった。
「ご、ごめ」
「ああ、謝らないで。むしろ謝るべきは僕なんだ」
「え?」
うつむきかけた俺をユーリスの言葉が止める。
ユーリスは眉を下げて痛そうな顔をしていた。
「あの女の子は僕の関係者。君は僕に巻き込まれただけなんだ」
「なん、で」
「簡単に言うと痴情のもつれって奴なのかな。彼女は僕が好きだったんだけど、僕は君が好きだったから断ったんだよ。そうしたら逆恨みであんなことに」
「ちょっとまて」
待ってくれ、理解が追いつかない。
情報過多で俺の頭は大混乱だ。
とりあえず一つ、大事なことだけ確認しよう。
「お前が俺のこと、好き?」
「え? まずそこなの?」
「答えろ、俺には一番重要なことだ」
「うん、アレックスのこと前世からそういう意味で好きだよ」
………………。
「全部、許す」
そう言って俺はユーリスを強く抱き締めてキスをした。
当然ユーリスは慌てるが、離してなどやるものか。
あれだけ俺が臆病風に吹かれて言い出せなかったことをこいつはあっさり言ったのだ。これくらいはしてやらないと気が済まない。
「ぷはっ、ちょ、アレックス?」
「俺も、おんなじだ。お前のこと前世から好きなんだ。俺が男になったのも、今度こそお前を守りたかったからなんだ」
「アレックス……」
唇を離すと赤い顔をしたユーリスへ告白する。
しまらないが、俺達だから仕方ない。
そっとユーリスの手が俺の頬を包む。
「僕ら随分遠回りしちゃったねぇ」
「ああ、全くだ」
こつん、と額を合わせる。
すぐ傍の体温が心地よくて、俺達はもう一度唇を触れ合わせる。
この日以来、俺は前世の夢を見なくなった。
「……あ、結局受け攻めどうする?」
「だからしまらねぇな、おい!」
お読み頂きありがとうございました。