“I, said the Fly.” -1-
カワセミはカナリアにとっては兄のような存在である。孤児院で一緒だったのだ。
彼はその孤児院の主人であるフットと共に義賊をしている。フットは義賊スパロウとして世間に知れ渡っている存在であった。
「ようこそ、我が家へ」
そう言ってフットは暖かく迎え入れてくれた。
と言っても途 中からはツミ、ウソ、アオサギの 3 人は目隠しをされながら連行されるように歩いた。カワセミ曰くそれが決まりらしい。
目隠しが外されるとそこは義賊スパロウとしてのフットの隠れ家だった。
「まさかこんなすぐに会えるとはね」
フットは情けなさそうに困った顔で笑って、カナリアの頭を撫でた。
「元気だったか?」
カナリアは元気よく頷いた。そうか、とフットも嬉しそうに答える。
しかしアオサギとツミはフットを不審そうに見た。彼らはフットが義賊スパロウということは知らない。
「どういうことだ。あなたはミスター・ロビンだろう、なぜこんな森の奥に住んでいるんだ」
「俺はもうロビン姓ではないが?」
茶化すような答えに、ツミは機嫌を悪くしたらしい。ツミは鼻を鳴らした。ロビンというのはフットの元妻のことである。彼女の方が有名なため、彼はミスター・ロビンと呼ばれるようになったのだ。それにしてもツミとフット、この 2 人、背格好や雰囲気、年齢も近いようだが全くと言っていいほど相性が合わないのかもしれない。そんなことをカナリアは思った。
ウソは訳あってフットの正体を知っていたが、それは言わずに、ただ苦笑いしているだけだった。
「しかし、そこの薬屋、本当に黙っててくれたんだな」
「約束ですから」
ウソがそう言うと、ツミとアオサギはウソを睨んだ。彼はそれを気づかないふりをしている。
「…そらそないと、なんで助けたんや?」
すっかり落ち着いたアオサギはいつもの方言が戻っていた。
「わては、あんたたちをよう知らん。特にフットはん、あんたや」
「俺はよくよく知っている、あなたたちを」
フットは冷静に一同に椅子を勧め、一緒に警察署から逃げてきた若い刑事に茶を淹れさせた。どうやら彼はウィルという名前らしい。ウィルが不器用に茶を運んできたところを見計らって、フットは話を続けた。
「本当に感謝している。俺がカナリアと一緒にいたことは知っているだろう? つまるところ、カナリアを保護してくれたお礼ということだ。俺にとってコイツは大切な家族なんだ」
そう言って彼はカナリアの背中を軽く叩いた。
そしてフットは自分たちは連続殺人事件の犯人を捕まえようとしていることを告げ、協力を持ちかけた。
自分は顔を知られているからあまり外へはいけないが、自分の仲間はこの連続殺人事件の犯人を捕まえる手伝いが出来ること。自分たちは人々に安心して暮らしてほしいと思っているから全面的に協力しようと思っていること。そして自分たちのコミュニティは広く、様々な場所に情報網があるため、犯人を捕まえやすいだろうということ。しかし、フットは自分が義賊スパロウということは口にしなかった。
そこでツミが疑問を口にした。
「しかし、本当にそれだけなのか? カナリアを助けたから、人々を救いたいからという理由だけか?」
「疑り深いお方だ。確かに俺にとっての利点もある。実は、根も葉もないうわさがあるのさ。妻との間に子どもが出来なかっただけでなく妻までもを失って我を失ったミスター・ロビン、とうとう連続殺人を犯してしまったんじゃないか…なんていうね」
だから外へ行けないと言ったんだ、と最後に付け加える。
ツミは半ば嫌々ではあったが、協力を受け入れることにし、その場を去ることに決めた。