“Who saw her die?” -2-
そうこうしているうちに、いつの間にかオナガは席を立ち、リラックスティーを淹れている。
「ウソの持っているものより、こっちの方が身体にはいいと思うわ」
冗談でオナガはそう言うと、全員のカップになみなみとティーを注いだ。
湯気と共に、柔らかいが爽やかな香りが広がる。
「これは、ローズマリーとラベンダー、ですか?」
「そう、やっぱりウソには何が入っているか判るのね」
楽しそうに 2 人の会話が始まる。どうやら漢方を扱っているウソと、ハーブが得意なオナガは気が合うようだった。
カナリアはティーをゆっくり、一口ずつ、味わうようにして飲み込んだ。スッと心が軽くなるような気がする。その隣ではトウテンコウがティーを口に含み、カワウが心地よさそうな顔で香り楽しんでいた。ツミとシロサギは情報を選別することに徹することにしたようだ。黙々と 2 人は記事に線を引いて、メモしていく。
そうして、どれくらいの時が過ぎたのだろうか。
外は日が暮れかけている。
「コック・ジュニア」
今までペン先を走らせていたツミが、急に声を出した。コック・ジュニアというのはトウテンコウのことである。
「なんだ」
「ウソを君の家に泊めることはできないかな」
「なぜ?」
トウテンコウの対応はいつもこんな感じだ。誰に対してもツンケンとした態度、そして上から見下すような貴族の気性。いつかツミと対立するのではないかとカナリアはハラハラしながら様子を見守っていた。
「カナリアの護衛をするためだ。私よりも強いしな」
それを聞いてトウテンコウはウソの方を向いた。家庭教師である彼は、ひょろ長く、とても強いとは思えない。
「どうかしましたか、コウ?」
きょとんとしてウソがトウテンコウを見る。それを確認してから、トウテンコウは再びツミを見た。
長身で、体格も程々にあるツミ。強いかと言われたら分からないが、一般的な戦闘能力はあるだろう。ウソはそれよりも強いとは思えなかった。そして思わず出てしまった言葉。
「本当か?」
ツミは大笑いして、一言「安心しろ」とだけ言った。
相変わらずウソはきょとんとしたままだった。
帰り道、ウソを新たに加え夕闇を一行は歩いていた。そんな暗い雰囲気に耐えかねたのか、唐突にカワウが声を出す。
「そうだ、今日アオサギがいなかったけど、どうしたんだ?」
「ああ、彼なら」
ウソはそう言って少し間をおいて微笑んだ。
「いわゆるガールフレンドの家に行っていました」
ガールフレンド、という単語をトウテンコウとカワウは同時に繰り返した。
「 1 人か、複数か?」
いぶかしげに言うのはトウテンコウだ。アオサギが前に最大 12 股をかけていたという話を小耳にはさんだことがある。普段は変な方言を使っているが、見た目だけは確かにカッコいいかもしれないからモテるのだろう。ちなみにその後日、悲惨な目に合ったとも聞いた。しかしまさかまた彼女を作ったとは。そう考えているトウテンコウの横で、カワウは何やらニヤニヤしている。相手を冷やかす情報が増えて嬉しいのだろう。
「今日は 1 日帰らないらしいですが、彼は 1 人のガールフレンドに会いに行っているそうです」
「ウソ先生が 1 人って強調することは、やっぱり何人か…」
そこまで言ってカワウはまたニヤニヤと笑う。慌ててウソはそれを否定したが、カワウは聞いちゃいなかった。
カナリアは特に詮索せず、そんな会話を横で聞いていた。それだけで十分安心できた。