“I saw him die.” -2-
「いらないんだよ、アンタは!」
少年がカナリアに馬乗りになる。手に力が込められ、首が締まる。思った以上に少年は体格がよく、カナリア1人では反撃できそうになかった。
必死に首を絞める手をどけようとするが、片手で首を抑えたまま、もう片手で少年はカナリアの腕をねじった。嫌な音が体内に響いて、右肩から下が動かなくなる。
やばい。
残ったもう一方の手でも抵抗するが、今度は顔面を殴られる。目の奥に光が散った。
「やめて!」
少女が悲鳴をあげるかのように、叫ぶ。
少年は一度動きを止めた。
「なんで?」
少年はまた笑っていた。
「なんで、やめる?」
「私は…!」
「姉さんは、何?」
少女は再び黙ってしまった。彼女は少年の言いなりになっているように見える。
そのままじゃ、変わらないよ。伝えなきゃ。
カナリアは必死に声を出そうと口を動かす。しかし、喉は言うことを聞かない。
少年はその様子を見てまた真顔になると、もう一発カナリアを殴った。目の前が真っ赤になった。どうやら目の端が切れたようだった。
「うるさいよ、死んじゃえ」
「…もう、やめて」
「死んだって誰も悲しまない、そうさ、誰も」
少年は殴ることをやめて、今度は首にかけた手に力を入れる。首が締まる前に、折れてしまいそうだった。ただひたすらにカナリアはその手を引き離そうとする。しかし、もう意識が飛びそうだった。
死にたくない。死にたくない、まだ。
それでも瞼は言うことを聞かず、重く、開かなくなっていく。
「やめて!」
ふっと、カナリアは今まで感じていた重さが消えたのを感じた。
少女が、少年と一緒にカナリアの隣に転がる。
少年は驚いた顔のまま、動きを止めた。
「あ…、ああ」
少女の手には、メスが握られている。それは深々と少年の腹に刺さっていた。
「…嘘、そんな」
少女は口から言葉を溢す。少女の身体は震えている。
そんな放心状態の少女の手を、少年は何を思ったか、メスごと引き離した。少年の腹が、血に滲んでいく。
「姉さん、痛くない?」
少年は苦しそうに微笑んだ。
「姉さん?」
少年は返事をしない少女を不思議に思っているように見えた。
彼はゆっくりと身体を起こす。血が、さらに勢いを増して滲んだ。
「姉、さん」
そして少年は歩き出す。少女の、血に濡れた両手を少年はそっと握り、そのまま抱きしめた。また深々と、少女の手に握られたメスが少年に突き刺さる。
少女は動けずに、従うだけであった。
「大好きだよ」
少年が瞳を閉じたのが、カナリアにも確認できた。そして、力なく少年は崩れ落ちた。
少女は目を見開いたまま、立ち尽くしていた。




