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“I saw him die.” -1-



 そこに立っていた人物は、キャスケット帽子をかぶってポンチョを着ていた。

 背筋がゾクリとした。


「おかえり」


 その人物は、とびっきりの笑顔を見せる。

「おかえり、姉さん」

「…ただいま」

 少女は瓜二つのその少年に向かって答えた。少年は嬉しそうに身体を揺する。少女はただ目線を下に向けた。


 カナリアはただ少女の隣に立っている。動けない。

 少年の後ろには、また“それ”が置いてあった。

「姉さん、助けて。赤ちゃん、助けて」

「……」

「姉さん、赤ちゃん」


 少女は少年の後ろに横たわった死体に目をやった。少女は固く口を結んだ。

「赤ちゃん、助けたら、戻す。赤ちゃん、死んでたら、一緒に戻す。だから、助けて」

 少年はずっと笑顔のまま、そう言う。異様な光景だった。

 少女はそっと死体に向かって歩き出す。近くにあった机からメスを取り出した。


 ――だめだよ!

 カナリアは少女の腕を掴む。少女は不思議そうにカナリアを見た。

「赤ちゃん…が」

 ――赤ちゃんは、もう…。

 カナリアは強く首を振る事しか出来ない。

 少女は諦めたようにうなだれた。

「…カナリア、赤ちゃん、助けたくない」

 そうじゃないけど。そうじゃないけど、また同じことをしたら、また繰り返してしまう。カナリアは必死に首を振った。


 その時、少年はスッと腕を上げてカナリアを指さす。

「カナリア、誰」

 少年はまだ笑っていた。「だあれ、だあれ」と狂ったように繰り返す。

 少女は何かを感じ取ったのか、カナリアを自分の後ろに隠した。少年はそれでもまだ笑って、身体を揺らしていた。


「僕ソイツ知らない」

 声音が変わった。見ると少年はいつの間にか真顔になっている。

 真顔になった少年は、どこか大人びていた。

「姉さん。僕、頑張ってるよ。母さんは裏切った、だから父さんが殺した。女は裏切るからいらないって、父さん言って姉さんを殺そうとした。だから父さんは僕が殺した。がんばったよ、ねえ?」


 少女は黙っていた。


「女の人が信じられないって言ったのは誰? 姉さん。苛められたって言ったのは誰? 姉さん。死体を元の場所に戻してあげてって言ったのは誰? 姉さん。お医者さんに言われた方法で赤ちゃんを助けられるかもしれないって言ったのは誰? 姉さん。分かってるよね、姉さん?」


 少年は淡々と、冷たく言い放ち続けた。


「僕にはもう、姉さんしかいないんだ」

 だから、僕と姉さんの間にソイツはいらない。

 少年は素早く構えると、カナリアに向かって駆け出した。



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