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“With my little eye.” -3-

 


 フットは静かに自分のナイフの手入れをしている。

「それで」

 目の前にいるカワセミとカナリアにフットは問いかけた。

「なんで連れてきたんだ?」

「いや…だってカナリアが」

「別にカナリアの判断が間違っているわけではなく。カワセミ、お前どうしてそんな目立つ格好のまま帰ってきたんだ。ここは隠れ家だぞ、万が一誰かに付けられていたらどうする」

 シャキ、シャキ、とナイフの研ぐ音が部屋に響いた。女は縛られたまま、隣に大人しく座っている。

 カワセミは気まずそうに無言だった。

「…カナリア、お前はその女性についていてくれ。カワセミ、お前は手入れを手伝え」

 どこか棘のある言葉でフットは言い放つと、女を縛っていた縄を切り、2人を部屋から追い出す。


 女はただ茫然としていた。カナリアもただ黙るしかなかった。

 これほど声が出ない事をもどかしいと思ったことはない。少しでも話しかけられれば、何かのきっかけが生まれるかもしれないのに。


 カナリアはこの女は何を考えているのかが気になった。

 フットが何のためらいもなく縄を切ったことに対して驚いただろうか。それともカワセミが自分を担いであの場から逃げたことに驚いているのか。それとも、これまでの事を思い出しているのか。女の表情からは何も分からなかった。ただ、瞳だけが虚ろに光を跳ね返しているだけだった。


 ――何を考えているの。

 カナリアが見つめると、女は瞳だけを動かしてカナリアを見る。この女は本当に生きているのか、そんな気持ちすらも頭によぎる。

 とにかく、とカナリアはどこか適当な小屋に入った。中は誰もいなかったが、必要最低限の家具と生活用品はそろっている。


 カナリアはシャワーを指さして、女に合図した。

 ――浴びたら?

 女は血糊でべたべたしている。

 意図が通じたのか、女はコクンと頷くと、シャワールームへと入っていった。

 ――よかった、一応生活能力はあるみたい。

 シャワーの水音が部屋に響く。

 怖くないと言えば嘘だ。いつ襲われるかも分からない。現にカナリアに化けていたカラスは襲われた。それでもどうにも理解できない点が気になってしまって、カナリアは女に付き添った。殺されそうになっても近くにフットやカワセミがいるという事が支えになっていたのも事実である。


 シャワーを浴びた女は、ますます幼く見えた。女というよりも少女というほうが適格かもしれない。そう見えた。

「ありがとう」

 少女は消え入るような声だった。元々小さな声なのか、それとも怯えているのかは分からない。ただ両方が理由になっている可能性が高いとカナリアは感じた。

 カナリアは首を振った。そもそもここは自分の家ではないわけだし。


 それにしても名前がわからないと不自由だ。

 カナリアはペンと羊皮紙を取り出した。

 “名前は?”

 すらすらと書いて、少女にそれを見せる。しかし、少女は困った顔をした。

「…読めないの」


 読めない。


 ということは、貧困層である可能性が高い。

 この国は階級が分かれており、貧困層と富裕層が目立って多い。トウテンコウやツミは富裕層に当たるが、カナリアやカワセミは貧困層で育った。それでもカナリアが字を読めるのは、フットが教えてくれたからである。彼は孤児院を経営していたときに、孤児たち全員に文字を教えてくれた。

 だから文字を読めないという人が、本当に文字を読めないのだということはよくわかる。富裕層ではこれを信じない人も多い。


 どうすればよいのか、悩んだ末にカナリアは自分の名前を伝えることに一生懸命になっていた。

 自分を指さして、ひたすら口を動かして「カ・ナ・リ・ア」と何度も言った。しかし少女は不思議そうにカナリアを見つめるだけだった。


 ――ああもう、なんでわかんないかな。

 苛々しながら、さらに大きく口を上げた瞬間。

「ふふ…面白い」

 少女は小さく笑った。カナリアは初めて少女が笑ったところを見たが、可愛いと思った。


 しかし、カナリアが動きを止めると少女は再び真顔に戻ってじっとカナリアを見るだけになってしまう。とても感情に乏しいのかもしれない。そんな予感がした。


 

 口を動かすのもそろそろ疲れてきたころ、部屋に来客があった。

「何やってんだよ、カナリア」

 カワセミが笑いをこらえるようにそう言ってドアを開ける。

 こっちは一生懸命にやってんのに、笑うことはないじゃないか。

 カナリアは頬をふくらましたが、さらにそれは逆効果だったらしい。カワセミはとうとう吹き出し、それにつられて少女までもがクスクス笑いだした。


“ちょっと、カワセミは声が出るんだからボクの名前、彼女に言ってよ!”

「あ、ああ、そういうことか…いやでも顔が…」

 頭を一発叩かれて、カワセミはやっと大人しくカナリアの名前を少女に伝えた。少女は名前を覚えようと何度も呟く。


「カナリア…カナリア…」

「そう、カナリア。俺はカワセミ」

「カワセミ、カワセミ?」

「そう。で、アンタの名前は?」

 しかし、少女は首をかしげる。そして再び、カナリアとカワセミの名前を呟くだけだった。



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