“I, said the Fly.” -4-
「まだ疑問点…というよりも、理解できない点があるぞ」
声をあげたのはツミである。彼は一度眼鏡をクイと指で押し上げた。
「カナリアが言うには、犯人は素手で殺したのだろう。なぜ犯人は最初から刃物で犯行を犯さなかった? 遺体を損傷させたくないのか…。犯人の気持ちが理解できん」
「被害者は絞殺だったとよ。上司が言ってた。確かにそのほうが遺体の損傷は無いが、しかし…」
ウィルは一瞬口を止めて、カナリアとカワセミに目をやった。何か気まずいことでもあるのだろうか。少し悩んだ末に彼はまた話し続けた。
「…被害者には暴行の痕が見られた。打撲痕が主だが、その、性的暴行が加えられた様子も見受けられたらしい。おかしいよな、打撲という時点で既に被害者を傷つけている」
「性的暴行ってことは男か?」
ツミが声をあげると、ウィルは頷いた。
「男。医者、外科医か? さらにアオを気絶させるだけの力加減で首を絞められたということは、そうとう武術にも長けている。…絞れてきたぞ」
シロサギはそう言いながらも、自らが作った人物ファイルをペラペラとめくり、ページに栞を挟んでいく。大体 10 人程度に絞られたようだ。全員がそのファイルに注目した。その中からさらに、アオサギとカナリアが自分たちの見た犯人の背格好を元に絞っていく。しかし。
「そんな…、当てはまる人物がいない?」
シロサギは呆然としていた。
「おいシロ、そのファイルに載ってへん人物はどれだけいるんや?」
「いや…でもアオ、お前も知っての通りだが、載ってないのは貧困層だけだ。貧困層で医者なんて…」
「医者で絞るからあかんのや!」
アオサギはそう言って医者という条件を外してファイルを探すが、やはりそれでも当てはまる人物がいない。これは貧困層の犯行だということなのだろうか。もしくは女性が犯人だったのか。しかし女性で医者という立場の者はこの街にはいない。さらに背格好と武術の技術という条件だけでは絞れなかった。
その場にいた全員が万策尽きた状態だった。
カランカラン。そうドアに付けたカウベルが音を立てる。
「いい加減聞き飽きたんでな。手伝ってやる」
声がして、 1 人の少年が入ってきた。
「カラス!」
誰かが叫んだ。カナリアも驚いて目を見開いた。
この少年はどこか不思議な少年で、カナリアも一度だけ部屋に招かれたことがある。だが、その時とはどうも様子が違うようだった。シックなスーツを着込んでいる。
「私がそこのガキになり替わる。囮捜査と洒落込もうではないか」
「お前は、急に現れたと思ったら…!」
「ツミ、貴様は少し黙っていたまえ」
明らかに、カラスの様子は変だった。かなり威圧的である。
不思議そうにカナリアがじっと見つめていると、カラスは睨み返してきた。その眼は実験動物を見るような眼だった。
「ガキ、少しお前の服を借りる。ウソ、私の髪を染める薬を用意しろ。さっさとしたまえ」
カラスはそのままドスン、と部屋の中央に置いてあったテーブルの上に腰を掛けた。
「さあ、早くするんだ。ガキを殺されるわけにはいかない」
「まだそんなことを」
「お前は黙っていろ、ツミ」
この威圧的な少年に、カワセミとウィルは一歩身を引くことにしたらしい。少し離れた位置に立っている。
そうして 1 時間も経った頃には、もうひとりのカナリアがそこに立っていた。




