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喋る電柱  作者: 兼平
9/9

「二本目」~電柱と犬~7

そんな話をしながら公園についてからも探してみたが、結局ラム発見につながるヒントらしきものは見つけることが出来なかった。

しかたなく僕たちは安藤の家に戻る。


「悪い。結局ラム見つけられなかったな。また探すの手伝うからさ」

「ううん。そんなこと無いよ。一緒に探してくれるだけでうれしかった。昨日から一人で探してたけど、すごい悲しいし、寂しいし。話してくれるだけで助かった」

「そ、そうか」

ものすごく照れくさくなった自分がいた。

僕は照れているのを隠すように

「また何か分かったら教えてよ。僕が犯人見つけて、絶対ラム連れ戻してやるからさ」

と矢継ぎ早に安東へ言葉を投げる。


「ん。ありがとう」

そういう安藤の表情が柔らかくて、夕日が差し込む中で輝いているようだった。

僕はまた、ごまかした頬の赤みが増したような気がして、

「それじゃ。また明日、学校で」

とパッというと逃げるようにその場を離れていた。


自宅に着くと部屋にこもって考え事をしていた。

とりあえず今回の事件に関する手がかりらしきものは犬の扱いに慣れているだろうということぐらい。

まだまだ犯人を見つけるのには時間がかかりそうだ。


事件に関する話を電柱としたときに、現場を調べることと他に何をしろと電柱は言っていたっけ。

確か、味方を作れといっていたはずだ。

味方、しかも大人が良いと。

大人の味方といってもそもそも、知り合いの大人が限られている。

両親、祖母、近所の家の人、友達の家の親、担任の原爺、塾の先生ぐらいだ。

とりあえず、近しい人から声をかけていってみよう。

協力してもらえるかどうかはわからないけど、言ってみて損はないだろう。

ということで、まずは夕飯時に両親と祖母に話をしてみようと考えた。


いつもと変わらない夕飯。

長方形のテーブルの一角には父さん、母さんと僕が並んで座ってその向かいにおばあちゃんが座っている。

マーボー豆腐をスプーンで取り分けながら先日あった犬攫いの件について僕は話していた。

「この前、クラスの安藤が飼ってる犬がいなくなったんだ。突然いなくなって、安藤学校で泣き出したりして大変なんだ」

「まあ、そうなの。物騒な世の中よね。本当。そういえば安藤さんからこの前電話があったのもそれと関係あったりするの」

となんとはなしに答えを返す母さん。

「ん。まあそんな感じ」

「そうか、最近噂になっている犬攫いの仕業じゃないか?家は犬を飼ってないから心配ないけど、犬を飼っている家の人は心配だろうな」

父さんも話にのってきた。

「そうなんだよ。結構な家が被害にあっているみたい。このままじゃいけないと思うんだけど、なんとかならないかな」

「なんとかと言ってもな。警察とかには連絡したのかい」

「もちろんしたって。でも犯人は見つからないんだ。ここは誰かが見つけるしかないと思うんだけど」

「誰かって?」

と訝しげに母さんが聞いてくる。

「誰かは誰かだよ。誰もいないんだったら僕が犯人を探す」

「全く何言ってるの?警察に見つけられないのに、あんたが見つけられるわけないでしょ」

「そんなことやってみないとわからない」

「ふう」

むきになる僕に対して、母さんは軽くため息をついて、黙ってしまった。

言ってもムダだと思ったのだろう。

実は最初から母さんにはあまり期待していない、仲間に引き入れるなら、父さんかばあちゃんだろうとは思っていた。

母さんがダメと見るや、僕は父さんに矛先を変えた。

「父さんは何か聞いてない?」

「ちょっとわからないな。せいぜい新聞で情報を見るくらいだな。しかし、あれだ。あまり危険なことはするなよ。どうせ子供が何かしたところで、犯人なんか捕まらないだろうけども、人様に迷惑を掛けたりするんじゃないよ」

「いいよ。別に」

どうせ見つけられないと言われて僕は頭にきてしまい、もう話をする気になれなくなった。

別にいい。最初から期待なんかしていない。

僕の力でなんとか犯人をみつけてやるから。


協力が得られないと思うや僕はふてくされ、猛烈な勢いでご飯を食べ終えると、自分の部屋にそそくさと戻っていった。


ベッドに寝転がりながら考える。

どうも家族からの協力は得られそうにない。

こうなったらダメ元で担任の原爺にはなしてみるしかないか・・・

考えていると突然、コンコンとノックの音がする。

母さんだろうか。僕が「何?」と返事をすると、予想と反しておばあちゃんの声がする。

「しょーた。さっきの話なんだけどね。ちょっといいかい」

さっきは話の途中で頭にきて、ばあちゃんのことをすっかり忘れていた。

ちょっと驚いて、ドアを開けると、寝巻き姿のばあちゃんが立っていた。

「ちょいとさっきの話なんだがね。私が町内会で聞いてあげてもいいよ」

と一言。

さらに

「まあ、子供が一人で何かしたって何にもならないかもしれないけど。ただ、友達のために何かしようっていう気持ちはたいしたもんだよ。私はね、しょうたのそういうところが好きなんだ。そうはいっても、何か知ってるかどうか、近所の人に聞いてあげることくらいしかできないけどね」

と言う。


「そんなことないよ。母さんたちは何にも協力してくれないし、聞いてくれるだけでもすごくうれしいし。ありがとう、ばあちゃん」

と素直にお礼の言葉が出る。

先ほど否定された経験をしたばかりだったので、うれしかった。

「まあ、それだけなんだけどね。明日もがっこうだろう?宿題して早く寝るんだよ。それじゃあね」

「わかった。また何か分かったら教えてね」

ばあちゃんは扉を閉じると階段を降りて、自分の部屋に戻っていった。


よし、これで電柱がいっていたことはちゃんとやったぞ。

あとは、新聞を読んで情報を集めればいい。

まだ犯人が見つかるような手がかりはない。

手がかりは無いけど、確実に前には進んでいると思う。

絶対ラムを見つけてやる。

そう決意を固めると、ベッドに飛び込み、明日の情報収集の方法を考えていると、眠りに落ちていった。

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