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喋る電柱  作者: 兼平
8/9

「二本目」~電柱と犬~6

学校について教室の自分の席に座ると、電柱との話の内容を思い出していた。

まずは情報収集、電柱はそういっていった。

後は味方を作れと。

そういえば安藤から詳しい話を聞いてみろとも言っていた。

今日安藤はまだ登校していない。後で会った時にそれとなく聞いてみよう。


「情報、情報・・・と」

独り言を言いながら、どうやって情報を集めようかと思いをめぐらす。

新聞なら自宅で父さんがいつも読んでいるものがあるから、自宅に帰って見てみよう。

新聞以外でも普通に両親に相談してみても良いかもしれない。

大人の意見という奴を聞いてみるのも何かヒントになるだろう。

あとは、何かあるかな?

こういうとき名探偵とかならどうするかな、と以前見たドラマや本のシーンを思い出してみる。

警察から情報を入手したり、聞き込み調査をしたりしている場面が思い浮かぶ。

警察に行くのは確かに一番正しい気がする。ただ、子供だとまともに取り合ってくれそうにはない。というか、子供でなくても機密情報とかで、見せてくれないのではないだろうか。

あとは、聞き込み調査か。

聞き込む相手が、安藤以外思いつかない。

今まで被害にあった人達に話を聞いてみたくても、そもそも誰が被害にあっているのかがわからないのだから聞きようが無い。

どうすればよいのだろうか・・・

ここで思考がとまってしまった。

うーん。とうなりながら、腕を組むが良い解決策が見つからない。

まずは安藤から話を聞いてみるか。

そこからだ。


放課後、ホームルームが終わり、教室から我先にと生徒達が出て行く。

安藤も帰り支度を終えてカバンを背負い、扉に向かってた。

その安藤にたいして、僕は横から声を掛けた。

「おう。ちょっといいか?」

その声に気づき、こちらを振り向く安藤。

「何?どうしたの?」

と聞き返してくる。

ただ、その顔には生気があまり感じられなかった。

まだラムの件で気を病んでいるのだろう。昨日の今日だ、無理もない。

クラスの女子には安藤から話をくれたようで、僕への非難の視線はなくなったが、だからといってラムが見つかったわけではない。

「ラム見つかったのか聞きたくてさ」

ラムという言葉に反応したのか、安藤は少し顔を曇らせて、

「昨日も探したけど見つからなかったの。今日もこれから家に帰って探すところ・・・」

と先ほどよりもさらに低いトーンの声で答えを返す。

安藤からラムの攫われた状況について聞こうと思ったのだが、そんな雰囲気ではなかった。心ここにあらずといった様子だ。どうしたものか。

少し考えて僕は思いついた言葉を口に出す。

「そうか。それならさ、俺も手伝うよ。なんか昨日の件もあるし」

「え?でも・・・」

と驚いた様子で口ごもる安藤。

ラムを探すのを手伝えば自然と情報も手に入るはずだし、事件現場を見ることも出来る。

さらにもしかしたら、ラムを見つける事だってできるかもしれない。

これは僕にしてはすばらしいアイデアを思いついたと思う。

「大丈夫だって、一人で探すよりは二人の方が良いって」

と悩んでいる様子の安藤にたいしてどんどん言葉を重ねる。

「そうだけど・・・なんか悪いし・・・」

とまだ結論を出さない安藤にたいして、

「ほらほら、考えている暇があったら探しに行こうぜ。時間がもったいないって」

といいながら安藤の後ろへと回り、カバンごと安藤を押していく。

「ちょっと、やめて。自分で歩くから、やめて。わかったわ、一緒にラムを探すのを手伝って」

こうして、少し強引ながら許可を得て、僕は安藤と一緒にラムを探すことになった。


安藤の自宅は二階建ての一軒家で、大きくも小さくもないよくある造りをしていた。

壁は白色で、屋根は青より少し暗い色、紺色っていったっけ。

家の周りは僕の身長と同じくらいの高さのブロック塀で囲まれている。

家のとブロック塀の間には庭もあるようだった。

そして、庭には家と同じ色の犬小屋がぽつんと立っている。

ただ、その犬小屋の主の姿は残念ながら、不在のようだった。

「もしかしたら、帰ってきてるかもって思ったんだけど。やっぱり、いなかった」

と自宅についてから真っ先に犬小屋にやってきた安藤は、ぽつりと言葉を漏らした。

じっと犬小屋を見つめる安藤。

「いつもなら、私が学校から帰ってくると、たぶん音で気づくんだね。おかえりって言っているみたいにラムが鳴くんだ。でも、一昨日はそれが無かった・・・もっと早く気づいていれば・・・」

と嘆くようにつぶやく。

「だとすると、安藤が帰った時にはもうラムはいなくなってたってことだよな」

と僕は安藤に聞く。

「そうだね。たぶんそうだと思う」

「一昨日は誰か家にいなかったの?」

首を横に振る安藤。

「私の家は、お父さんもお母さんも二人とも働いているから。昼間は誰も家にいないの」

「そうか。朝は?学校に行く前はラムがいたかわかる?」

「学校に行く前は絶対にいたって分かる。だって私がごはんをあげにいったんだもん。これは絶対」

なるほど。ということは、一昨日の朝まではラムはこの家にいたということだ。そして、その日の夕方に安藤が帰って来たときには既にいなかったということなので、犯行が行われたのはその間ということになる。

だけど、それだけじゃ犯人を見つけることは出来そうも無い。

「何か帰ってきて変わったこととなかった?あとは近所の人が何かいつもと様子が違うことに気がつかなかったとか。わからない?」

「うーん。ちょっとわからないかな。ラムがいなかったことに驚いちゃって、まずは探さなきゃってことばっかり考えてて。近所の人に何か聞いたりとかはしてないの」

「それならさ、今からちょっと聞きに行ってみない?」

と僕は提案した。

「え?隣の家の人とかってこと?」

「そうそう。もしかしたら普段あまり見ない人が出入りしているのを見たりしてるかも」

「うーん。でも、隣のおばさんは顔を合わせても挨拶をするぐらいで、あんまり話しことないの。大丈夫かな?」

「確かに急に来たりしたら驚くかもね。そうしたら、今からラムを探しにいってみようか。この前はどこを探したの?」

「そうね。一昨日はもう暗かったからあまり探せなかったんだけど、周りを中心に探したわ。あとは近所の公園とか、いつも散歩にいく川沿いの道とか。でもいなかった・・・」

「わかった。そうしたら、まずはもう一度近所とラムと良く行った場所を探してみよう」

僕は安藤と一緒に安藤家の周りを調べることにした。

周辺は住宅街でこれといって特別珍しいものがあるわけでもない。

安藤家の前の道路は車二台がやっとすれ違うことができるほどの幅で、そんなに人通りが多いわけでもない。

学校帰りのこの時間帯でさえこの道を通る車はまばらだった。

昼時ならもっと静かなのではないかと思う。

少しぐらいの物音だったらだれも気づかないだろうし、よっぽど意識していなければ誰か不審者が他の人の家に入っていたかどうかなんて気づかないような気がした。

家の周りをしばらくぐるぐるして探してみるが、ラムの姿は見当たらなかった。

近くに、ラムと散歩でよく行ったという公園があるとのことだったので、安藤と散歩コースを辿りながらその公園へと向かう。

「本当にどこに行ったんだろう。やっぱり犬攫いの仕業なのかな」

「この前も新聞に載っていたから可能性はあるよね。ただ、事実がどうかはわからないけどね。もし、犬攫いのせいだとしたら、何かしたら証拠とか残っていそうなもんだけどね」

「うーん。警察にもきてもらったけど、分からないみたい」

「そうか。でも不思議だよな。ラムって結構でかい犬だろ?普通知らない人が家にきたりすれば、ほえたり、噛み付いたりするんじゃないのか?それって結構危ないんじゃないか」

「でも、確かにそうだね。いつもは知らない人がくると吠えて大変なの。この前も生協の集金にした人が家に近づいたらものすごい音で吠え出してね。大変だったんだ」

「それこそ、近づいたりしたら危ないんじゃないか?」

「家族とか、一度あったり、よく家に来る人だと特にそういうことは無いんだけどね」

「そっか。そうしたら、結構犯人が絞り込めるかもな。良く家に来る人が犯人じゃないのかな?」

「あ、そうかも。でも、確か事件て結構たくさん起きているんでしょ?だとしたらよっぽど顔の広い人でないと、難しくない?ラムも吠えるけど、もっと気の荒い犬を飼っている家だってたくさんあるんだよ」

「う・・・結構いい線いってると思ったんだけど・・・違うのか。残念」

「でも、ショータ君が気づいたことってヒントになると思うよ」

「何で?」

「だって少なくとも、犬の扱いに慣れてないとラムを連れ去ったり出来ないと思うし、そんなたくさんの犬を攫えないと思うもん。きっと犯人は犬を飼ってる人とか、飼った経験がある人の可能性は高いんじゃないかな?」

「おっ。確かに、そう言われれば、やっぱこれナイスアシストだったってこと」

公園に行くまでの何気ない会話だったけど、犯人に一一歩近づいた気がする。

まあ、だからといって、犯人は犬の扱いにうまいから、犬を飼ったことがあるんじゃないかっていう些細なことだけど。

でも前進だ。少なくとも。


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