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喋る電柱  作者: 兼平
3/9

「二本目」~電柱と犬~1

掃除を終えてやることもないのでそのまま学校にいった。教室につくといつもよりも早く来たため登校している生徒も5人に満たなかった。当たり前だ。意味もなく学校に早く来たってやることなんてないのだから。

席に着くと珍しく早く登校した物珍しさからか、おはようの挨拶と一緒になんで早いのか聞いてくるのが何人かいたが正直に答えられるわけも無く、なんとなく曖昧な返事をしていた。

その中に安藤百合子の姿もあった。

「どうしたの。珍しく早いねショータ君」

「なんか早く起きちゃったからさ。そっちこそいつもこんなに早いんだ。やっぱり優等生は違うね」

「あ、何その言い方。なんか嫌」

安藤はいつもテストが90点以上、しかもそのほとんどが100点という超優等生だ。

普段から宿題も忘れるような落ちこぼれの僕とは大違い。

ただ、勉強が出来るからといって、僕らがふざけていたずらしたりするのを見つけても、先生にちくったりする学級委員長タイプとは違うため、男子からもいい奴と思われていたりする。

「私は環境委員だから、学校で飼っているウサギの世話をしなきゃならないの」

「そうだっけ。お疲れ様」

「結構大変だけど私動物好きだからさ。家でも犬飼ってるから世話とか慣れているしね。すっごいかわいいんだよ。ラムっていうの、大きくって、毛なんか白くてふわふわで、ぬいぐるみみたいなんだ」

「ふーん」

そういわれてもリアクションに困るなと思いながら適当に相づちを打っていると、

「それじゃ私そろそろウサギの餌あげにいかなきゃだから。そう言えば今日の宿題、漢字の書き取りだけどやったの?」

「え、そうだっけ」

まずい。電柱のことで頭がいっぱいで宿題のこと完璧に忘れてた。

今から始めれば30分はあるから間に合うはず。

「その顔は忘れたって顔ね。この前の授業の終わりに習った漢字を5回ずつだよ。それじゃね」

そういって彼女は軽く手を振りながらウサギ小屋がある校庭に向かっていった。

「さんきゅ。マジで助かったよ」

その背中に向けて声をかけると、それに合わせて安藤が手をひらひらとさせるのが見えた。


ここからはダッシュで宿題を終わらせなければいけない。

宿題忘れも二日連続となるとどんな仕打ちが待っているかわからない。

意を決して国語のノートを取り出すと、ひたすら漢字を書き写し始めた。


無事、朝の時間までに宿題を間に合わせた僕は、ほっと胸を撫で下ろしていた。

今日もいつもと変わらない一日がはじまるんだなと考えるが、いや待て、と思い返す。

そういえば学校はいつもと変わらないかもしれないけど、徹底的に変わったものがあった。

そうだ、喋る電柱の件があったんだった。

朝の強引な約束というか脅迫によって、週二回の電柱掃除をしなければいけなくなったのを思い出す。

めんどくさいなと思う。

さぼったら呪われるし、最悪だ。

というかあの電柱って一体なんなんだろう。

あれかな。長年使われたものには魂が宿るってやつかな。

前に婆ちゃんが言ってた気がする。大切に使われたものには命が宿ってツクモガミになるとかどうとか。

ただ、あれって電柱だしな。

電柱って大切に使われるとかないだろ。

あいつも言ってたけど、犬に小便を掛けられるのが関の山だよな。

本当になんなんだろう。

やっぱいたずらとかかな。

近所の人がいたずらされている電柱を不憫に思って、小学生を脅して掃除をさせているとか。

いやいや、そんな猛烈に暇な人間なんていないだろう。

でも最近は働かない人間が増えているというし、いないとは言い切れないんじゃないかな。でもスピーカーみたいなものは無かったよな。

それじゃあ悪霊?

あの電柱にぶつかって亡くなった人の霊が自縛霊になって、電柱にとり憑いているんだろうか。

考えているとぞっとしてきた。

でもその可能性が高いよな。

呪うとか言ってたし。

はあ、変なのに見込まれちゃったよ。元はといえば自分が悪いんだけど、本当についてないよ、最悪だ。

そんなことを考えていると一時間目の始まりを告げるベルが鳴るのが聞こえてきた。


午前中の授業の終わりを告げるベルが鳴り給食の時間がやってきた。

今日の給食は、中華スープに、ご飯、豆腐のハンバーグと酢の物。

良くも悪くも無い。

ただし、酢の物に入っているリンゴはいただけない。

酢豚にパイナップル反対派の僕としては果物をおかずに使うのは許せない。

まあ食べるけど。


このクラスでは給食を食べるときは机を動かしても良いことになっているため、近くの男子といつも一緒に食べている。

今日もダイキとトモヤと一緒だ。


「ショータ、後で牛乳一気飲み勝負しようぜ。だから最後まで飲んだらいかん。飲んでも飲まれるなってやつだ」

「じゃあ僕がジャッジするよ」

ダイキが牛乳一気飲み勝負を提案するとトモヤが審判候補に名乗りを上げていた。

「ふふ、ばかだな。牛乳一気飲みでこの僕に勝てるとでも思ったのかい?このディフェンディングチャンピオン様にさ」

「言うじゃないかショウタ。でもな記録とは常に破られるためにあるのさ。早く飯を食べて、勝負を始めようじゃないか」

「望むところだよ。まあ既に結果は見えてるけど」

今までの戦績からいけば10戦8勝で僕の勝ち。はっきり言ってダイキなど相手にならない。

また悔しがる顔でもみてやるか、とほくそ笑みながら中華スープを胃の中に流し込んでいると、ふとトモヤが話しかけてくる。

「そういえば知ってる?最近この近所ではやってる泥棒の話」

「泥棒?」

「そう、泥棒。うちのお父さんも心配だなって昨日の夜に言ってたんだ。隣町もあわせると結構な被害が出てるみたいだよ」

「ふ~ん。初めて聞いた」

泥棒がはやっているとは初耳だ。

「それでね。その泥棒なんだけど、お金とか宝石とかは盗まないんだって」

「じゃあ何を盗むんだよ。まさか下着とか?」

「それも違うんだ。その泥棒は犬を盗んでいくんだって」

「犬?犬泥棒ってことか」

いや犬泥棒というよりは、犬攫いだな。

「でも犬なんか吠えるし、泥棒なんて大変なんじゃん?」

「いやそれがね。犬のご飯に睡眠薬を入れて食べさせるんだってよ。で、眠った犬をさらっちゃうって訳。飼い主もまさか家に盗みに入られることはあっても、その家を守る番犬がさらわれていくとは思っていなかったみたい」

「なるほどね。まあ僕の家は犬飼ってないから関係ないけどね」

生まれてから今まで、犬どころか猫も飼ったことがない。せいぜい縁日で取ってきた金魚を金魚蜂で飼っているくらいだ。

「そんな寂しいこと言うんだね。僕んちは犬飼っているから心配だよ」

そう言えばトモヤの家には白い毛色の大きな犬がいたのを思い出す。

ジュウゾウという大層な名前の犬だったっけ。

まあ、ジュウゾウが攫われたりしたらそれは一大事だろう。

心配ではあるけど、だからと言って僕に何ができるわけでもないし。

「まあ大丈夫だろ。警察がきっと捕まえてくれるって」

と無難な答えを返す。

「そうかな。結構事件が起きているけど、まだ犯人が捕まってないってことは結構本格的なのかも。やっぱ心配だよ」

「まあ、考えていてもしょうがないし、とりあえずジュウゾウから目はなさないようにしとくぐらいしかできないんじゃん」

「あ、それ良いね。早速今日からジュウゾウを見張ってみるよ」

適当な僕の答えに喜々として答えるトモヤ。

一日中見てるなんて無理だろうという言葉をかけようとしたがやっぱりやめた。

そもそも番犬を見守っていたらなんのためにいる番犬だろうか。

だからといって、無駄に不安を煽ったところで、結果はそんなに変わらない。

運がよければ助かるし、運が悪ければジュウゾウは攫われちゃうんだろう。

でも見張っていれば多少はましだろうから。

「頑張れよ」

と一言声をかける。

「うん。ありがとう。頑張ってみるよ。そうと決まったら今日は早めに帰って・・・」

その後一人言を続けるトモヤからダイキに視線を移すと、すでにほとんどの給食の皿が空になっていることに気づく。

「ショータ何やってんだよ。早く一気飲み勝負して、校庭行こうぜ。早めに行かないと他のクラスの奴らに場所取られちまうよ。ほらほら早く食えって」

ダイキに急かされて、急いで豆腐ハンバーグを口の中に詰め込んでいく。

「分かったよ。待ってろ、速攻で食べてやるから」

そういって残りの給食を食べることに夢中になっているうちに、犬泥棒のことはすっかりと頭の隅に押しやられていってしまった。


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