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春夏秋冬  作者: UNCLEAR
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来訪者の正体

オレはスーパーに行った。

あいつを部屋へ入れ、布団に寝かせた後、弱り切っていたあいつに何か食べさせるための行動だ。

食欲があるかも分からないあいつにコンビニ弁当を食わすのは流石に気が引ける。

というわけで、数日分の食料と鳥雑炊の材料を買って帰ろうという訳だ。


「我ながら本当にお人好しだ」


頭で分かっていてもついつい言葉に出てしまう。

言葉に出しながらも、体は家へと急いで向かっている。

とことん矛盾した言動と行動に呆れる。

ヘルメットをかぶり、バイクにまたがった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「入るぞ」


部屋の前で中の人物に向けて声を掛ける。

返事はないが、聞こえているはずだろう。


ふすまを引くと、部屋の隅で膝を抱えた少女と目があった。

薄い青色の瞳はじっとオレを睨んでいる。

そりゃそうだ。全く見知らぬ部屋に全く見知らぬ男が入ってきたんだからな。


「あ、あなたは、誰?」


極度の緊張か不安か、そいつは声が出なくなっているようだ。

オレはいつもと同じように、丁寧に返答する。


「人ん家の前でぶっ倒れてたお前を介抱した人だ。名前はアキ。下山(しもやま) (あきら)だ」


「たおれて、いた?私、が?」


「あぁ。すぐそこの玄関の前で気を失ってた」


「な、なんで?私は、家で、寝ていただけなのに・・・」


「名前」


「え?」


「お前の名前だよ。人に名乗らせといて自分は無しってか?」


「ご、ごめん、なさい。わ、私は、ハル。Jap=West=Haru」


「はぁ?」


「これが、CPWへの登録名。本当の名は、桜井(さくらい) (はる)。ハルで、いい」


「CPW?本当の名?」


ずいぶん大層な設定になってきたな。

どこまで続ける気だよ。


「あ、あの、このいろんな物がた、たくさん置かれた空間はなんなの?」


「は?」


オレは周りを見渡した。

貧乏学生らしい質素で無駄な物が一切無いこの部屋を見て言ったセリフとは思えない。


「何言ってんだ。なんもねーじゃねーか」


「あ、あなたはこの物体が見えないの?」


指差した先はエアコン。

春先はまだ冷えるからと暖房をいれて行ったはずのもの。


「エアコンがどうかしたのか?」


「えあ・・・こん?」


「おい、なんの真似だ?タイムスリップごっこなら付き合ってらんねーぞ」


「・・・ここは、どこ?」


なんだこいつ。電波ちゃんなのか?

それともふざけてるだけなのか?


「はぁ?東京だろうがここはよ」


「トウキョウ・・・?東京なの?ここはあの、ひ、人の住めなくなった地なの?」


「・・・意味が分からん。ここは日本だぞ?」


「日本・・・」


そこで黙ってしまった。

こいつのしたい事が見えない。

いっそ強く言った方が良いのか。


「おい、ふざけるのも大概にしろよ。お前みたいな子供の相手してる場合じゃねーんだよオレは」


「こどもじゃない。もう20歳だよ。」


「そうは見えねえがな。お前本当に1992年生まれかよ」


「え・・・?1992年・・・?」


「いや、計算はあってんだろ」


「あ、ありえない。私は2992年に生まれたんだよ」


こいつはあれだ。

関わらない方が良かったやつだ。


「・・・もういい。とりあえず飯は食わしてやるから帰れ。特別にタク代も出してやっから」


「・・・多分、帰れない」


「なんでだよ」


「今は信じてもらえないだろうから・・・いい」


最後の最後まで良くわからん。

とりあえず飯を作ろう。

それで家の番号聞き出して家に電話して終わりだ。


「どこに・・・行くの?」


「飯作るだけだ。ただでさえお前はぶっ倒れてた身なんだ。おとなしく休んでろ」


返事はない。

オレは部屋を出てキッチンへ向かう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



鳥雑炊の入った小さな鍋を持って部屋に入る。

あいつは変わらず部屋の隅から動いてない。


「腹減ってんじゃねえのか?簡単なもんだが、食いたいなら食え」


盆に乗せた鍋とレンゲを布団の近くに置く。

あいつはゆっくりと近づいてきた。


「こ、れは、なに?」


「雑炊だ。食えねえもんは入ってねえよ」


「ゾウスイ・・・」


鍋に近づき仕切りに匂いを嗅いでいる。

そこまで信用ねえのかよ。


ひとしきり臭いを嗅ぎ終わった後、レンゲを手にしてしげしげと観察。

その後、持ちてをぎゅっと握ってご飯をすくう。

一つ一つの行動がどこかぎこちなく、どこか慣れていない感じを思わせてくる。

こいつ、本当に知らねえのか?

演技にしては、手がこみすぎてる。


「あぅっ!!」


上あご火傷してやがる。今度はドジっこか?

せわしなくふーふーと息を吹きかけ、ようやく恐る恐る口に運んだようだ。

ゆっくりと、しっかりと咀嚼。


「・・・美味しい!」


満面の笑み。

なんだ、笑えるんじゃねえか。


そこからはもう目の前の雑炊に必死に食らいついていた。

誰も盗って食うわけないのに、必死にガツガツと食らいついていた。


「終わっちゃった・・・」


名残惜しそうにポツリとつぶやく。

そこまでがっつり食べられるとオレも満更じゃなくなっちまうじゃねーかよ。


「ありがとう。とっても美味しかった!」


さっきまでの警戒心はどこ行ったんだ。

気が緩みまくってんじゃねーか。


「そりゃどーも」


食器を持って一度立ち上がる。


「待って!!」


服を引っ張るな服を。

伸びる伸びる伸びる。


「どこかに行っちゃうの・・・?」


めんどくせぇ。第一このクソ狭い家で寂しくも何ともねえだろうがよ。


「出来れば・・・私の話を聞いて欲しい」


クソ。卵と米粒が固まって取れにくくなるじゃねーか。

しゃーねぇ。最後の言い訳を聞いてやるか。


「わかったよ。だから離せ。聞いてやるから」


その場に腰を降ろす。

くだらない話だったら適当に切り上げさせて家に帰らせるか。




「私は・・・未来からきた。いや・・・未来からこの時代に飛ばされたの」

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