君の為に私を捧げる
気付いた時には、私は見知らぬ部屋にいた。
「えっと、これでいいんだね…」
さらに、目の前には、見知らぬ男が膝をついて私をじっと見ていた。
「おはよう。といっても、もう午後だけどね」
苦笑いをしながら、彼は立ち上がった。
そして、小さな私の脇を持って、棚へと座らせる。
「君の名前は…」
「私は、H-3993。AI搭載の電子レンジです」
「うん、じゃあサンだね」
「サン…」
「そう、君の名前はサンちゃん。初めまして。僕の名前は戸賀月戸、君を買った本人だよ」
私は、その時初めて、彼をじっと見た。
狭いワンルームのキッチンの片隅で、私は部屋の全景をいつも見ていた。
すぐ横には、コンロのコンさんがいて、いつも何かに燃えていた。
率直に言えば、熱い男といったかんじだろうか。
私が座っている棚の下には、冷蔵庫のレイちゃんがいる。
冷え症だという彼女は、電気カイロで温まっていた。
その熱は、私のところまで伝わってくるときもあるほどだ。
さらに部屋を見回せば、テレビのテーちゃん、カーペットのカッくん、机のツーくんと個性豊かな面々がそろっていた。
テーちゃんは、なんでも知っていて、即答をモットーとしていた。
カッくんとツーくんは、同じところからもらわれてきた子たちで、とても仲良しだ。
いつも一緒に並んでいる。
「ただいまー」
彼が帰ってくると、私たちは声を潜める。
それまでいかに騒がしくしていても、それを彼の前で晒すことはできない。
そんな決まりだからだ。
「さて、今日の飯でも作るか」
そう言うと、レイちゃんが抱きしめていた冷凍食品を受け取ると、私に渡した。
「温めてくれるかい」
私はコクンと頷いて、冷凍食品を受け取り抱きしめて温めだした。
ギューッを抱きしめていると、一気に温まっていく。
「できました」
「うん、ありがと」
彼がそう言って、私から温まった食品を受け取った。
そして、ツーくんの上に置くと、テーちゃんからいろいろと情報を聞いていた。
カッくんの上に座りながら、ご飯を食べ、情報を見ていた。
それからしばらくの間は、テーちゃんを見ていた。
だけど眠くなってきたようで、彼は布団を敷き始めると眠り始めた。
「…お風呂とかは」
「いいんじゃない」
私が言うと、下からレイちゃんが声をかけてくる。
「私たちは、ここに基本的にずっといることになるけど、彼はあちこち動くからね。疲れたんでしょ」
私が答える。
「まあね」
レイちゃんが答えるけど、とろんとした眠そうな声だ。
「そろそろ私も眠くなっちゃった。おやすみ」
スッと声が途切れると、下から感じる熱がわずかに減っていく。
どうやらスリープモードに入ったようだ。
「お休み」
私はレイちゃんに言ってから、部屋の中を見回す。
全員がすでに眠っているようだ。
「おやすみ」
そこに見えるみんなに私がボソッと言ってから、ゆっくりと眠りに入った。




