えぴそーど1 こうじょうせいさん
ぷるん。
最初に聞こえたのは、やわらかい音だった。
それは水の音でも、鈴の音でもない。できたてのプリンが、ほんの少しだけ揺れたときの音。甘くて、まるくて、どこかのんびりした音だった。
「……なーん?」
きつねぷりんは、ゆっくり目を開けた。
目の前には、白く明るい天井。そこから星形のライトがぶら下がっている。左右には銀色の機械が並び、奥ではベルトコンベアが静かに動いていた。
流れているのは、プリン。
ただのプリンではない。
小さなきつね耳があり、ふわふわのしっぽがあり、ひとつひとつがぷるぷると揺れている。
ここは、きつねぷりん工場だった。
「起きたのだ!」
白衣を着た小さなきつねが、チェック表を抱えて走ってきた。
「生産番号、確認するのだ。名前、しとちゃ。分類、きつねぷりん。年齢、七さい。原材料、カスタード、カラメル、もこもこ、好奇心……」
白衣きつねは、そこでぴたりと止まった。
「ふむ。マイペース値、測定不能」
「それは、だいじょうぶなーん?」
「だいじょうぶなのだ。むしろ、とてもきつねぷりんらしいのだ」
しとちゃは、頭のプリンを少し揺らした。
ぷるん。
カラメルはつやつや。カスタードはふるふる。きつね耳はぴこぴこ。しっぽはもこもこ。
白衣きつねは満足そうにうなずいた。
「完成度、高いのだ」
「完成したなーん?」
「まだなのだ。これから最終検査があるのだ」
「さいしゅうけんさ?」
工場の奥で、カランカランとベルが鳴った。
ベルトコンベアの先にある大きな扉が、ゆっくり開いていく。扉の向こうから、あたたかい光と、草の匂いと、どこか遠くの笑い声が流れ込んできた。
「きつねぷりんは、ただ甘いだけではだめなのだ」
白衣きつねは言った。
「見た人が、ちょっと笑う。話した人が、ちょっと元気になる。転んでも、ぷるんと戻る。それが、きつねぷりんの大事なおしごとなのだ」
しとちゃは、じっと扉の向こうを見つめた。
まだ何があるのかはわからない。
けれど、光の先には、きっと知らない場所がある。知らない誰かがいる。知らない楽しいことが、たくさん待っている。
「行くのだ?」
白衣きつねがたずねた。
しとちゃの耳が、ぴこりと動いた。
「行くなーん」
ぷるん、と頭のプリンが揺れた。
こうして、きつねぷりん工場で生産された小さな存在は、世界へ出荷されることになった。
これは、きつねで、プリンで、もこもこな何かが、たくさんの人と出会っていく物語。
きつねぷりんなのさ。




