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三題噺もどき4

時間

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくはちじゅうよん。

 




「――っく」

 パソコンのキーボードから手を離し、軽く伸びをする。

 猫背のままで固まっていた体は、節々が小さく悲鳴を上げた。

 凝り固まっていた筋肉がほんの少しほぐされ、心なし体が軽くなった。

 気持ち程度なので、実際はたいして変わってないかもしれないが。

「――」

 目の前で煌々と光っているパソコンの画面には、時期外れなすみれの群生の写真が写っていた。すみれって確か春頃だったような……今の時期に咲いているのだろうか。あぁでも五月頃にはまだ咲いているから、案外その辺に生えているかもしれない。

 すみれの群生の写真というのも珍しく思う。あれって、その辺に割と勝手に咲いているイメージがあるから、わざわざ群生地を探して撮ろうと思えそうにない。

「――、」

 ようやく体の力を抜き、脱力する。

 その瞬間、仕事に集中している間は気にならなかった部屋の寒さに、身が震える。

 外は雨が降っているのか、窓を叩く音が小さく聞こえる。

 そのせいではないだろうが、雪でも降っているのかと錯覚しそうなほどに部屋の中が寒い。

「……」

 まぁ、確かに雨が降っていないタイミングを狙って散歩に出たときは、かなり寒かったからなぁ。いつのまにか冬でも来たのかと思った。

 今日はどうやら一日中気温の低い日だったらしいが、それにしても寒い。

「……」

 毎日毎日、暑かったり寒かったり、晴れたり曇ったり雨が降ったり、忙しい天気だなぁ。

 いい加減落ち着いて欲しいものだが、自然のことではどうにもできない。これでそのうち台風なんかも来るような時期になると、尚の事忙しくなる。

「……」

 それはそれとして。

 今は一体何時だろうか、大抵決まったような時間にこうして集中が切れるようになっているが……まぁ、そうだよな。さすがに毎日完璧に同じ時間というわけではないが、時計を見ればそれなりの時間になっている。

 そろそろ、休憩の時間だった。

「……」

 すこし耳を澄ませてみれば、リビングの方からこちらへと廊下を歩く足音が聞こえてくる。

 小さく軋む音もするが、わざとかと思うくらいに、らしくない大きさで足音を鳴らしながら歩いてくる。

 基本的に、物音を立てずに、静かにすることが当たり前の生活を叩きこまれていた以前では考えられないほどだ。音を立てるとうるさいと叩かれたからな。

「……」

「―ご主人」

 だとしても、部屋のノックをすることは覚えて欲しかったがな。足音を立てる事よりも先に覚えることがあっただろうに。

 今回は部屋に向かっていることに気づいたからいいものの、いつも以上に集中して気づかない時だってあるわけで。そういう時にこうしてノックなしで開けられると、困るわけでもないが……まぁ、困るわけではないからいいのか。言っても聞かないのだからどうしようもない。

「休憩にしましょう」

「あぁ……」

 今日は普段通りのテンションである。

 エプロンも比較的シンプルなモノ。後ろ手にボタンで止められているので、揺れる尻尾は見えない。残念。アレはアレで可愛らしいし分かりやすくていいのだけど。

「……何か失礼なことを考えていませんか」

「いや、まったく」

 失礼ではないだろう。可愛いと思っただけだ。

 当の本人はあまり可愛いと言われるのは気に入らないらしいが、青年の姿に成ると可愛らしさは半減するな。猫の時は倍増する。蝙蝠の姿も可愛いと思う。寝るときにしか見られないが。

「……なんですか?」

「なんでもないよ」

 ちなみに今は、こちらが通常だっただろうかと思う程に見慣れた、小柄な少年の姿をしている。視界の中に全身が、頭の先から足の先まで入ってくれる。私が幼い頃は青年の姿で居たのだけど、もうここ何百年はこの姿が基本だな。

「今日は何を作ったんだ?」

 その、少年は、私の従者で、今年に入ってから、やけにお菓子作りにこだわっている。大ハマりしている。私としては、毎日おいしいお菓子を食べられるのでありがたい限りなのだけど、よくこんなに作れるなぁと感心してしまう。

「今日はりんごジャムを使ったスコーンです」

「ほぉ……」

 また、おいしそうなものを作ったわけだ。というか、スコーンって家でも作れるものなんだな。知らなかった。

 今日も、心地のいい休憩になりそうだ。




「ん、うまいな」

「多少パサパサしますけどね」

「このジャムも丁度いい塩梅だ」

「それはよかったです」









 お題:雪・すみれ・りんご

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