暴虐女王になった悪役令嬢の話
天にまします我らが女神様、どうか、私を罵倒する民を導き給え。
「「「「殺せ!殺せ!殺せ!」」」」
「この女が贅沢三昧をしたのね!」
「俺らが苦しいのはこの女のせいだ!」
・・・違うの。違う。声が出ないノドを潰された。今、処刑台の上にいる。斬首刑だわ。
私はアグネスタ・ハインベル、公爵家の娘、お父様とお母様、お兄様、弟、妹は皆、処刑されたわ。
王国の腐敗を全て背負わされて・・・処刑される。
ノドを潰されたが、拷問はされなかった。
それは私の綺麗な肌を維持し贅沢なドレスを着せ。宝石を身につけさせて、贅沢女と印象づけるためだわ。
それに比べて、殿下の真実の愛の相手という男爵令嬢は茶色が基調の質素なドレスを着て民の前に出ているわ。いつもはピンク色の贅沢なドレスを身につけているのに、
殿下は私への婚約者予算どころか国費を男爵令嬢につぎ込んだわ。私は注意をしたのをいじめと言われたわ。
カン!カン!カン!
「静粛に王太子殿下のお言葉である!」
「皆の者聞け!元公爵令嬢アグネスタは、国費を浪費し国を傾けた!この女の白い肌を見ろ。毎日、牛乳で湯浴みをしていた。ああ~、ミルクがあればどれだけの子が助かったか。
この男爵令嬢マリアの諫言も聞かずあまつさえ暗殺をしようとした。よって、婚約破棄を宣言し斬首にするものとする!」
「「「「オオオオオオオーーーーー」」」
嘘よ。牛乳で湯浴みなんてマリアがやっていることよ。殿下はマリアの腰に手を回しデタラメな執行文を読んだわ。
私は首切り台に頭を乗せられ、処刑人が剣を振りかぶる。
「アグネスタ、目を閉じられよ」
処刑人が言うわ。でも、言葉が発せない。
でも、それでいいわ。
群衆の前列に私の領地の人達がいる。
無言で手を合わせ私の冥福を祈っているのね。
「執行!」
刀が振り下ろされた。ああ、これで女神様の御許にいけるわ。家族と再会出来るわ。
・・・・・・
しばらくたっても、何も聞こえないわ。処刑台の床が見えるわ。首が落ちていない。
ザワザワザワザワ~!
「何だ。あの女!」
「ヒィ、不気味ね」
「どこから現れた!」
目の前に足下が見える。裸足、女の足だわ。
「個体アグネスタ言葉を発せよ!」
女の声が聞こえた。令嬢、マダム?不思議と年齢が分からない。私は「声が出ないのに・・」
声が出た。
「成物!アグネスタを拘束する器具よ。役目は終わった!」
カラン!
首かせや手錠が自然と外された。
立ち上がって見ると、女がいた。黒くて若干縮れ毛、碧眼、顔立ちは・・・分からない。王国人?西方人、それとも、港で見た事のある東洋人も想起させられる。
処刑人は動かない。いや、震えて動けないようだ。
「貴方様はどなたですか?」
「呼びかけたではないか?女神だ」
「女神様が降臨・・・・」
「お前は面白い。この極限状態でも民を導けと私に命令をした」
「命令だなんて・・」
「ええい。兵よ!取り押さえろ。いや、アグネスタごと殺せ!」
「「「御意!」」」
王太子の号令で矢が飛んでくる。しかし、女は意に介さない。
「成物!矢は主人の元に帰れ!」
・・・矢が戻っていくわ。射手に・・・突き刺さる。
女は話を続ける。
「でだ。時間と空間はつながっている。どうする?」
意味が分からない。
「質問を変える。お前は何をしたい?」
「国を良くしたいです」
「ほお、面白い。大抵、仕返し。復讐というものぞ」
女は両手を広げて、
【止揚!】
と叫んだ。分かる。何か魔法をかけたのだわ。
女は、
「50年後、また来る」
とピカッと光って消えた。
それから、私は女王になったわ。なるまでの間の記憶がない。
王宮で文武百官の前で宣言する。
「殺せ!殺せ!殺せ!」
「「「御意!」」」
「ヒィ、あれは間違いだった!」
「やり直そう。マリアは処刑する!」
王族を始め。腐敗にかかわった大貴族を粛清した。
領地は没収、国家の物にした。
殺したりなくなったので次は地方だ。
「地方では盗賊が跋扈し、地方領主の中でも勝手に関所を設けて通行料を取っている輩がおります」
「殺せ!」
「「「御意!」」」
国軍を使い。大粛清をした。
「隣国に逃げた王族が兵を挙げました!」
「殺せ!王族の生き死には問わない。懸賞金をかけよ!」
「しかし、兵が足りません!」
「なら、国庫を開ける。前の王族がため込んだ財宝が沢山あるわね」
「しかし、代々受け継がれた秘宝が多数あります」
「ほお、物が国を守ってくれるのか?」
「これは、失言でした!」
何故か民はこぞって、募兵に応じ。敵国は退散し、騎士が王族の首を取ってきた。
「褒美を取らす!何が欲しい」
「そ・・・それは」
「何じゃ。妾の命か?妾は暴虐女王と民草は言うでのう。良いぞ」
「お戯れを、じ、実は、陛下をお慕いしております!おそばに侍らせて下さい!」
はあ、物好きだ。
王配など誰でも良い。この騎士を王配にした。
「陛下、先の戦いで、寡婦が多く出ております」
「ほお、なら、妾はドレスをあつらえる。お針子として雇え」
「御意!」
いつか、こんな暴虐を続けたら、身の破滅を迎えるだろう。
王族を虐殺したのだ。私も殺されても文句は言えない。
だから、好きに生きよう。
「陛下、大変でございます。我国の商隊が隣国にラチされました!スパイ容疑です。生地の製法を盗みに来たのではないのかと疑われました」
「兵を出せ!生意気だわ。それは私のドレスの生地を買いつけるための商隊でしょう?」
「交渉はなさらないのですか?」
「なさらないわ」
隣国は兵を動かしたら簡単にワビを入れた。
何故?
「それは、10万の軍勢ですから・・」
そうか、常備軍はだいたい3万人よね。雇用対策だっけ?
それから、表向きは我国を軽んじる不埒な国は無くなった。
「どうして、今まで我国は軽んじられてきたのか?」
「はい、陛下、それは、いささか我国は文化が遅れているからです」
「ほお、それは何故だ?」
「文化人がいないからです。他国から招聘しますか?」
「いらん。王太子妃教育の時学んだが、優しいことを小難しくする輩ばかりだ。我国で養成する。学校を作れ。安上がりな庶民で良い」
「御意!」
それからも贅沢を続けた。
「ああ、水遊びがしたいわ。運河を作りなさい!」
「御意!」
「回り道はキツいわ。ここに橋を作りなさい」
「御意」
金を使って、使って、税金を使いまくった。
直轄地が多くなり。国費が多くなったが、問題は税金を払わない聖職者たちだ。ムカつくわね。
「聖職者たちから税金を取りなさい」
「・・ですが、法王様と敵対する事になります」
「いいわ。金の糸の法衣をまとい娼館に入り浸る聖職者なんていらないわ」
「御意!」
これは、簡単に事は進まなかった。
法王から檄文が来た。
「分かったわ。法王を捕らえて来なさい・・・いや、私が親征をするわ」
もしかして、あの女が現れるかもしれない。
期待して聖都まで遠征をして法王を捕らえた。
呆れた。奴は金銀にあふれた部屋に隠れていた。
「お前、何故、この金で傭兵を雇わない?」
「法王は女神様に守られているのだ!死後、地獄に堕ちるぞ!」
「なら、今、女神を呼べ。今すぐ地獄に堕とせ。祭壇を用意してやる。生贄の家畜もな。死ぬ気で祈れ」
「ヒィ!そんな無体な」
三日三晩寝かせないで法王に祈らせたが、あの女は現れなかった。
法王は捕らえて、国に持ち帰った。それから聖職者の税金について交渉という名の恫喝をする。
それから、国に大きな騒動は起きなかった。
あの男、ディータの間に子供が三人出来た。
「母上、ご機嫌麗しく!」
「「お母様にご挨拶をします」」
時々、会い。成績を見る。そろそろ成人か。
「足りぬ」
「「「へっ」」」
「足りぬから、次からは妾の職務を分担してやれ」
「「「はい!」」」
そろそろ疲れてきた。
子供達が力をつけて、妾を殺すも良し。
妾は表舞台から姿を消し。デューターとメイド達と過ごすようになった。
そして、あの女が来る50年目、妾はベッドの上にいる。
周りには夫、子供達、孫、臣下に囲まれている。
「ゴホン、グホン」
「母上、やっと『足りぬ』の意味が分かりました。いくら成績優秀でも、一人では何事もなしえません。それで満足をするなと言う事ですね」
「お母様の業務の大変さが分かりましたわ!」
「暴虐女王と他国は言いますが、何故、そのような事をしたのか政務を担当して分かりました」
「陛下、そのか弱い手で、国を立てなした手腕、このデューター惚れました」
やめろ。私は、ベッドの上で死ねる女ではない。
「女王陛下、サイデリックでございます。女神圏一の文化人と言われるまでになりました。これも陛下が奨学金を創設し。平民学校をつくってくれたおかげです。後進が続いております」
やめろ。そんなのではない。・・・・意識が薄れていくわ。お父様、お母様、お兄様、ヘンドリック、ロッテに会えるのかしら・・・
「・・・・女王陛下、崩御でございます」
「「「「ウワワワワワワワーーーーーン」」」」
皆が涙にくれる中、黒髪縮れ毛の女が入って来た。
「陛下が・・・この縮れ毛の女が来たら通せと言っておりました」
皆は道を空ける。聖女の姿である。
その女は手でアグネスタの瞼を閉じ。まるで母親のように話しかけた。
「よく頑張ったわね。偉かったわ」
その女は、ピカッと光りそのまま消えてしまった。
・・・フウ、アグネスタ、慈悲と現実を止揚したら、暴虐になったか。
女神教を攻撃したのは愉快だった。面白い子だった。
私は女神、この姿は、碧眼は白人、縮れ毛は黒人、黒髪は東洋人、顔の形は砂漠の民、肌の色は全種族の色を合わせた色。人族の全ての種族の特徴を合わせた姿だわ。
種族はそれぞれ自分と同じ姿の女神を想像するから、私を女神とは思わない。これが矛盾ね。
今日も楽しませてくれる子を探す。街を見ると、民まで悲しみにくれているわ。
崩御を知らせる鐘が鳴り響いているわね。
カラーン!カラーン!
「女王陛下・・・が崩御だと・・」
「そ、そんな、喪に服す!」
「あたしの親戚は手がつけられない盗賊だった。でも、陛下が討伐してくれて支持したものさ」
「そりゃ、そうさ。治安が良くなって、大貴族の横暴がなくなった」
「運河を作ってくれたおかげで便利になったよ」
「女王陛下の船を見ようと皆集まったな」
アグネスタ女王の死後、民は喪に服そうとしたが、それでは経済がまわらない。
なので、法令で禁止する事態にまでなったと年代記では伝えられている。
最後までお読み頂き有難うございました。