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いいや、わからない――The Raven

作者: イプシロン


  あれは夢か現実なのか

  明かりの消えた部屋で

  眠れぬ夜に(うな)されては

  独り寒さに震えて見た

  鮮明な光景が瞼に蘇る


  大理石のアテーナーの彫像

  青銅のオーディーンの彫像

  頭に一羽ずつの(カラス)が留まり

  じっとこちらを見つめてた

  嘴を閉じ、沈黙したままに


  昔読んだ北欧神話の古い本、その

  思い出が香気のように湧き上がり

  烏はフギンとムニンだと直感した

  思考(フギン)記憶(ムニン)、どっちがどっちと

  見分けることはできなかったが


  ――そうじゃない

  上にアテーナーとムニン

  下にオーディーンとフギン

  いいや、燻ぶる煙が思考で

  燃える薪の炎は記憶なんだ


  思考が記憶を引き出したのか?

  靄が渦巻き、頭は朦朧とし

  恐怖と戦慄に身震いする

  充血した赤い視線を感じる

  いいや、思考は明晰なのだ


  夢だったのか、あれは?

  現実だったのか、あれは?

  見分けられたのか? 二羽の烏を?

  言えるわけがない? 確信をもって?

  わからない……


  「どっちがどっちかなんて

  なぜわかるんだ?」

  突然、黒い鳥は囁いた

  「こっちがフギンで?

  あっちがムニンか?」


  「思考(フギン)記憶(ムニン)というけれど

  お前が勝手に決めただけ」

  また、黒い烏は囁いた

  「今のはどっちだ?

  思考か? 記憶か?」


  自信なんて欠片もなく叫んだ

  「いいや、これが思考だ!」

  烏はびくりともせず沈黙し

  意味深に瞬きを繰り返した

  「――あてにならないね」


  そうだ、わからない……

  思考が記憶で? 記憶が思考で?

  いいや、私がお前で? お前が私で?

  そうだ、わからない……

  夢か現実か? わからない……


  「じゃあ、どうすれば!?」

  闇に木霊する声なき声で叫んだ

  「わからないまま生きろとでも?」

  そのとき烏は、羽音とともに飛び立った

  なぜか? わからない……


  伝えるべきを伝えたのか?

  フギンはそうだったが

  ムニンはそうでなかったのか?

  どっちがどっちと、どうして言える?

  いいや、わからない……


  それで、あのとき彫像の脇にいた

  二匹の狼、あれは貪欲(ゲリ)飢え(フレキ)なのか?

  思考と記憶、どっちがどっちと

  求めてたのは、ゲリか? フレキか?

  あれは一体、思考? 記憶?

  それとも、貪欲? 飢え?

  いいや、もう、わからない……

  わからない……

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