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Phantom World〜力を得た者たちのレクイエム〜  作者: 薪ストーブ
無色 空①
9/22

夢か現実か

 母親は俺がニートでなく就職活動中だと思っているので、台所には朝食が冷蔵庫には昼飯が用意されている。いつまでも就活をしているフリは難しいかもしれないが、バレるまではこのニート生活を続けるつもりだ。

 俺は朝食を食べ終えると自室に戻り、ゲーミングチェアに座ってPCの電源を入れる。俺が朝一ですることは職安のHPを開くことだ。母親は毎日「仕事は見つかったの」と聞いて来る。その問いに対応するため職安のHPを見ることを欠かすことはできない。



 「ここなら人と関わらなくても良いかな」



 俺はニートになりたいわけではない。できることならば働いて1人暮らしを始めたい。実家に居れば衣食住は確保されるが、母親の小言がうるさくて平穏な日々が訪れない。働きたい気持ちはあるが、それ以上に人と関わりたくない気持ちが勝ってしまい、面接に行くことができずに3か月が経過した。



 「でも……面接は嫌やな」



 人と関わりたくない俺にとっては面接は苦痛と恐怖でしかない。かと言って誰でも採用するブラック企業に行くのはもう嫌だ。選り好みできる器でないことは理解しているので、就職できないのは当然だ。俺は日課の職安のHPを眺めることで、就職活動をした気分に浸ってから次の日課へと進む。

 次は録画しているアニメを見ることだ。深夜まで起きてアニメを見ていると、母親の小言がうるさいので、アニメは録画して見ることにしている。親のいない時間帯は何をしていても小言を言われないので、大音量でのびのびとアニメを見ることができる。アニメは特に異世界転生モノが好きだ。自分を変えたい俺にとっては異世界転生は夢物語だ。今の記憶を持ったまま、チートスキルを与えられて人生をやり直せるなんて最高だ。俺も人より優れた力や容姿があれば、気弱で根暗な性格になんてならなかっただろう。もし、誰もが憧れるような能力があれば……もし、誰もが見惚れるような容姿があれば……、俺は明るく活発的な性格になっていただろう。

 俺はアニメを見るためにテレビのリモコンを手に取り電源をオンにした。すると、朝のニュース番組のアナウンサーが原稿を読む声が聞こえた。


 

 「……(ひいらぎ) 金鯱(きんこ)さん(23)の3名全員の死亡が確認されました。警察は詳しい事故の原因を調べています」

 「え……」



 俺は耳を疑った。



 「ひいらぎ……きんこ」



 俺はこの名前を知っている。()()()()()()()なんてアイツしかありえない珍名だ。



 「嘘やろ!あれは夢じゃなかったのか……」



 俺はスマホを手に取り柊金鯱死亡で検索した。



 『〇日午前7時40分ごろ、京都府綴喜郡井手町多賀大峰の山中で、男性3人の乗ったワンボックスカーが山道から転落し、50メートルほど下の中腹の斜面に引っかかった状態で見つかりました。消防や警察が救出作業を進めましたが、枚方市に住む宇久井(うぐい) 良神(りょうしん)さん(23)と河鹿(かじか) 心(こころ)さん(22)と(ひいらぎ) 金鯱(きんこ)さん(23)の3名全員の死亡が確認されました。警察は詳しい事故の原因を調べています』



 京都府綴喜郡井手町多賀大峰の山とは万灯呂山(まんとろやま)で間違いない。柊と河鹿そして宇久井が昨日、ワンボックスカーで万灯呂山に来ていた。でもそれなら俺の夢とは合致しない。万灯呂山展望台には俺と牛院そして……甘南備(かんなび)もいた。どうなっているのだ?あれは夢ではなかったのか?俺の心の中で葛藤が続く。しかし、俺の葛藤をすぐに打破する簡単な方法があった。



 「着信履歴をみればわかるやん」



 こんな簡単なことに気付かないとは俺はなんてバカなのだろう。急いでスマホの着信履歴を確認した。すると、19時10分に知らない番号からの着信があり、19時05分にショートメールが届いていた。俺は恐る恐るショートメールを開く。




 『ひさしぶりカラ!柊や。覚えてるか?長尾駅の近くのヘヴンで飲んでるねん。お前も来いや』



 俺は凍てつく風が背筋に走り血の気が失せて顔が真っ青になる。そして、恐怖が心を喰らいつくして、体中がガクガクと震え出した。昨日の出来事は夢でなく現実だった。


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