夢
「はぁ!」
俺は目を開けると見慣れた木目の天井と円形の天井照明が目に映る。
「あれは夢だったのか……」
途中まではリアルな夢だった。しかし、新太郎たちが帰った後はドラマもしくは漫画のような展開だった。どれほど酔っ払っていても柊たちが酔った女性を拉致してレイプをするなんてありえない。しかも、被害女性は甘南備で、襲ったはずの柊たちが倒れ込んでいた。さらに、甘南備は俺に好意をよせているかのような発言をして、最後にはキスをしてくれた。
「はぁ~。夢なら俺からもっと攻めればよかったわ」
夢での甘南備の姿は魅力的で甘美な姿だった。その姿は妄想依存症の俺が望む理想の女性像であった。
「あの巨乳を思いっきり揉みたかったわ~」
妄想依存者の一番の喜びは、思い描いた妄想が夢の中で実現した時だ。俺の妄想が現実で実現することはないが夢なら実現可能だ。人には言えない話だが、俺は妄想が夢で実現するために、眠る時は必ず妄想することにしている。その直向きな努力の甲斐が実って、夢の中で妄想が実現し尚且つ夢であることを理解できた時は、日ごろの鬱憤を晴らすかのように、夢の中で犯罪行為の限りを尽くす。夢の中の俺は無敵の王だ。しかし、今回は夢であることに気付かなかったので、いつもの小心者の俺のままで何もできなかった。今はその事に後悔をしている。
「もう一度寝ようかな」
一度目が覚めて途切れた夢も、二度寝すれば続きを見られる時もある。俺は甘南備のエロい体を存分に楽しもうと二度寝を試みるが、目が冴えてしまったので再び眠ることはできなかった。
「はぁ~、もう寝られへんわ」
俺は時計の針を見てからため息をつき、天井に向かって大声で愚痴る。現在の時刻は午前10時だ。両親は共働きで父親は8時に母親は8時30分には家を出ている。俺は小心者だ。両親がいない時間帯であることを確認してから大声を出したのだ。
憂さ晴らしで大声を上げた俺だったが、鬱憤が晴れることはなく、くだらない後悔の念が心を曇らせる。
「腹減ってきたし、飯でも食うか」
俺は高校を卒業して3流大学に進学した。俺は運動神経もなければ頭も良くない。しかし、人並みに勉強をすれば3流大学なら進学は可能だ。俺は親が望む世の中のレールからはみ出すことなく無事に大学に進学して無事に卒業することができた。だが、人生とは残酷だ。世の中のレールは大学までしか敷かれていない。大学生の就職活動は学校では学ばない残酷な現実を突きつけられる。小中高大で学んだ勉強などは全くの無意味だ。就活で求められるのは世間術だ。根暗で小心者である俺が就活で成功する未来はない……いや、スタートラインに立つ度胸すら持ち合わせていなかった。まともに人と話すことのできない俺は、就職説明会の段階で挫折した。しかし、大学まで通わしてもらっておきながら、就職したくないとは親には言えない。必ず就職はしなければいけないが、大学を通じての就職活動は俺には精神的に無理がある。そこで俺はスマホや広告で募集している誰でも採用する安易な方法に手を染めることとなる。もちろん安易な就活をした結果は目に見えていた。誰でも採用する会社など超絶ブラック企業であることに間違いはない。募集内容では土日祝日は休みと明記しているが、休めるのは日曜日だけ。残業は月に20時間未満と明記されていたが、1日5時間残業があり、残業代が支払われるのは20時間までで、それ以上働いても残業代は支払われない。先輩社員の気性も荒く罵倒が飛び交う陰湿な職場だった。すぐに辞めたかったが、辞めると言える根性がなくずるずると働き続けた。でも、不器用で飲み込みの悪い才能が幸いして、ミスが多すぎるという理由で、使用期間の3か月が経過した後、クビになった。