俺の立ち位置
「カラ、久しぶり」
「平良……か」
「元気かぁ」
「あぁぁ」
「俺、自営で大工をしてるねん。仕事に困ってたら俺の会社で雇ったるで」
「大丈夫やで。俺正社員で働いとるし」
俺はこの集まりに平良が居たことに驚いた。新太郎が不良のボスとしたら平良はオタクグループのボスだ。2人が仲良くしゃべっているところなど見たことがない。平良は自作の漫画やアニメキャラの絵を書いてオタク仲間としかつるんでいない。しかし、オタクグループにも属せない底辺の俺に、何度も声をかけてくれたのが平良だ。俺は喋るのが苦手なので、ほとんど「うん」「あぁぁ」としか返事をすることしかできなかったが、それでも何度も自作の漫画や絵を見せて声をかけてくれていた。平良は今も変わらずに俺のことを気にかけて、仕事の話をしたのだろう。
※ 平良 犬猫 身長175㎝ 体重は100㎏ まるまると太った体型。
「そうなんや。でも、仕事に困ったら連絡くれや」
平良は心の通った性格だ。1度、新太郎に漫画を燃やされて、新太郎とケンカをした数少ない人間だ。新太郎とケンカするということは、新太郎の取り巻き全てを敵に回すこととなる。学校の王でもある新太郎とケンカをすることは、学校の全ての不良を敵に回すこととなる。みんなそれをわかっているから新太郎には逆らわずに媚びを売って仲間になる。平良は真直ぐな男だ。自分の一番大事にしている漫画を燃やされて、黙って見過ごすことなどできない。平良は新太郎に殴りかかりケンカをしたが、反撃にあい意識を失うまで殴られて救急車で運ばれた。
新太郎は敗者をいたぶることはしない。自分に歯向かってきた相手を蹂躙した後は、興味を失ったおもちゃのようにケンカをしたことさえ忘れてしまう。だが新太郎の意志とは反して、新太郎の取り巻きからはイジメのターゲットになる。取り巻きは勘違いをしている小者が多い。その代表格が柊だ。柊は新太郎に歯向かった平良をイジメようと試みるが、腕力の強い平良とガリヒョロの柊では相手にはならない。柊は返り討ちにあってボコボコにされたので、新太郎に泣きついたが相手にされなかった。
「新太郎、その酒美味しいのか」
「めっちゃ、うまいで」
「そんなら、俺も飲んでみるわ」
新太郎と平良が仲良く話している姿に、俺は夢でも見ているかのように感じた。あのケンカの後、2人が仲良くなった気配など全くなかった。おそらく卒業後に仲良くなったのだろう。
「ほんまうまいわ。カラも飲んでみろよ」
「あぁぁ」
平良は俺のグラスが空となったのに気づいて注文してくれた。
「カラ、ほんま大丈夫か」
「俺は絶対にカラは来ないと思ってたわ」
俺が誰とも会話することなく1人で飲んでいたら、へらへらとニヤつき顔で声をかけられた。次に俺へ声をかけてきたのは河鹿と宇久井だ。俺はクラスではぼっちであったが、いつもぼっちだったわけでもない。根暗な俺は自分から声をかけることはない。そんな俺に対して、平良と同様に河鹿と宇久井も俺へ声をかけてくれる数少ないクラスメートだ。柊は俺を見下した態度で声をかけるので嫌いだったが、河鹿と宇久井は対等に接してくれた。俺にもう少し積極性があれば、この二人とは友達になれたのかもしれない。
※ 河鹿 心 普通の体系 身長172㎝ 宇久井 良神 細身の体系 身長169㎝。
「別に問題ないわ」
「ほんまけ、カラは新ちゃんからいじめられていたから、すぐに逃げ帰ると思ってたわ」
「俺も」
2人は動物園の珍獣を見ているかのようにニタニタと見下し笑みを浮かべる。
俺は新太郎にいじめられていた。しかしそれは俺だけでなくお前達も同様にいじめられていたはずだ。だがそれは俺だけの主観であったのかもしれない。他のヤツラは新太郎から暴力をふるわれてもいじめではなくいじりだと認識し、おれだけはいじめと認識されていた。
それは俺以外のクラスメートの総意であったのだろう。クラスメートは、俺が新太郎からいじめられている愚かなおもちゃだと認識して、いじめられている様をニタニタと笑っていたのだ。俺はその真実を今理解してしまった。良いヤツだと思ってた河鹿と宇久井は、柊と同類だったのだ。
「……」
俺は何を期待してこの場に来たのだろうか。俺の立ち位置は7年前と変わらない……そして俺の性格も変わらない。