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Phantom World〜力を得た者たちのレクイエム〜  作者: 薪ストーブ
無色 空①

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22/22

具現

 「それは妖精なのか……」


 

 甘南備がインちゃんと呼ぶ奇怪な生物は、アニメやゲームで見たことのある妖精に姿が似ている。



 「不遜(ふそん)君が言うには、インちゃんは守護霊ガーディアンスピリットよ」

 「守護霊?どういうことやねん」


 「簡単に説明するとインちゃんは、不遜君が名付けをしてくれたことで、賜物(カリスマ)の力が具現化されたものなの。さっき、力を発動するには心で念じると言ったけど、名付けをしてもらえば、インちゃんが状況に応じて力を使ってくれるのよ」

 「そいつが香りをばら撒くのか」


 「そうよ。インちゃんは私の指示も聞いてくれるからとても助かるの」

 「そっかぁ~」



 ゲームで例えるならばオートモードだろう。自分でも操作はできるが、自動モードにも変換可能というわけだ。

 甘南備の説明をまとめるとこうなる。最初に得た賜物(カリスマ)の力は、体から透明の甘い香りの鱗粉が宙を舞って、半径1メートル範囲の対象者に対して睡眠を促す力だ。しかし、王に名付けをしてもらうと力は増す。甘南備の場合は、淫魔と名付けられた守護霊ガーディアンスピリットが、甘南備の指示もしくは守護霊の自由意思で、透明の甘い香りの鱗粉を放つ。射程範囲は守護霊の移動距離になるので、実質射程範囲は無制限になる。また、鱗粉の催眠効果も上昇して、鱗粉を少しでも吸えば即座に眠ってしまう。



 「か~くん、今はできることから試そうね」

 「あぁ」



 甘南備は名付けの便利さを教えて、俺が傲岸の仲間へ入ること促そうとしているのだろうか。それとも、守護霊を使うやり方もあると教えたかったのだろうか。その真意はわからない。



 「か~くん、心の声で力が発動するようにと脳へ話しかけて」

 「あぁ」



 俺は甘南備に言われたとおり心で力が発動するようにと念じる。すると、脳が心臓のようにドクドクと動き出し、目の前の景色が歪んで見えた。そして、激しい頭痛と眩暈、吐き気をもようして、俺は頭を抱え込んで座り込む。



 「か~くん大丈夫」

 「ちょっと気分が悪くなったわ」



 俺は脳震盪のような状態に陥ったようだ。



 「賜物(カリスマ)は、本来人間に備わっている脳の力を最大限に引きだすことによって、特別な力を使えるようになるの。だから、慣れないうちは脳へ負担がかかるの。私の場合は少し眩暈がする程度だったから、問題ないと思ったの。無理をさせてごめんね」

 「大丈夫や」



 まだガンガンに頭は痛いが、弱い姿を甘南備に見せたくないので、俺は立ち上がる。



 「か~くんの力は私と違って大きな力だから、脳への負担が大きいのかもしれないね」

 「あぁ。俺の力は時を遅くする力、これを使いこなせたら無敵やな」



 俺はブサイクで頭も悪く運動神経も悪い。性格は根暗、身長も低い。人と競って勝てることなど何1つなかった。しかし、俺が得た賜物(カリスマ)は、7王に匹敵する力だと傲岸が認めるほどの力だ。俺は人生で初めて人より優れた力を得て嬉しかった。



 「うん。すごい力だと思うわ。でもその力は相手のスピードが遅くなるのではなくて、か~くんの感知能力が向上して、相手が遅く感じるのだと思うの」

 「……逆だったのか」



 賜物(カリスマ)は、本来人間に備わっている脳の力を最大限に引き出す力である。第3者を遅くするのは不可能だというのが甘南備の意見だ。



 「あとね、どれくらい力が継続するのか確認したほうが良いかもね」

 「あぁ」



 (ひいらぎ)の動きがスローになった時間は1分もなかっただろう。でも、1分でも十分に長い時間と言えるだろう。継続時間が長ければ長いほど強さが増すことになる。



 「それと回数制限も確認しないとね」

 「あぁ」



 甘南備と賜物(カリスマ)の力の話をしている間に、気分は少し良くなってきた。



 「もう1回試してみるわ」

 「うん。無理はしないでね」



 甘南備は目を潤ませて俺のことを心配してくれている。そんな姿を見せられると逆に無理をするのが惚れた男の強がりである。俺は先ほどと同じように心の中で力が発動するように念じる。すると、先ほどと同じように、脳が心臓のようにドクドクと動き出し、目の前の景色が歪んで見えた。そして、激しい頭痛と眩暈、吐き気が押し寄せてくる。前回は苦しさに我慢ができずに倒れ込んでしまったが今回は違う。甘南備にカッコいい姿を見せるために、俺は苦しみを我慢して心で力が発動するように念じ続けた。



 「か~くん、無理しちゃだめ」



 俺は甘南備の前でカッコつけるために無理をしてしまい、体を痙攣させながら鼻血を吹き出して、その場に倒れてしまった。




 「起きろ」



 俺は鼓膜が破けるほどの怒鳴り声で目を覚ます。



 「……ここは夢なのか」



 目を覚ますと、そこは辺り一面が真っ白の世界だった。



 「夢じゃ」



 俺の独り言に返答があったので、声の聞こえる方へ視線を向けると、全身が真っ黒の10㎝ほどの顎髭を生やした年老いた亀が居た。夢なら亀が喋ってもおかしくはないだろう。



 「俺はこんなところで呑気に夢を見ている場合じゃないねん。すぐに目を覚まさなあかんねん」



 俺はのんびり夢を見ている場合ではない。それに甘南備も心配しているだろう。



 「ちょっと待つのじゃ。お前さんがワシを呼んだんじゃろ。帰ると後悔するで」



 亀が俺を夢から引き留める。



 「どういう意味や」



 「ワシは賜物(カリスマ)じゃ。そういえばバカなお前でも察しが付くであろう」

 


 「もしかして、この亀が俺の守護霊なのか……」



 俺は驚きを隠せない。


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