淫魔
「初めは危機的状況に陥った時、防衛反応として力に目覚めるの。か~くんは柊君に襲われ時、身を守るために力が発動したんだよね」
「そうやな」
「力に目覚めたら、次からは心で念じることで、自在に力を発動できるようになるわ。でも、力を自在に使いこなすには、自分の力の特性をきちんと理解することも大事ね。特にか~くんの力は、7王に匹敵する力があると思うの」
たしかに時を操作する系の力は、ドラマやアニメでは、主役級やラスボス級のキャラが使う力である。雑魚キャラで時を操作するキャラは皆無であろう。
「7王ってなんだ」
傲岸も同じようなことを言っていた。
「不遜君がいうには、この世界を統べる強大な賜物を授かった7人のことを指すみたい。不遜君は7王の1人で傲慢の賜物を持っているわ」
「俺達の力とは全然違うのか」
「うん。か~くんの賜物はすごくレアなんだけど、7王の賜物は全くの別物なの。7王の賜物には眷属化と名付けという2つの権能が備わっているのよ」
「眷属化と名付け」
「うん。おそらく柊君は、暴食の王に眷属化されて泥人間になったと思うの」
確かに道路には柊の死体はなく泥だけが残っていた。
「傲岸は俺を泥人間にするつもりか……」
傲岸が下僕になれと言った言葉の真意は、泥人間にしてやると言う意味だったのか?
「違うわ。7王はそれぞれ独自の方法で眷属化をするの。それに、賜物を授かった人間は眷属にできないの。でも、そのかわりに名付けをするのよ」
「名付けされたらどうなるのだ」
「賜物の力が増すのよ。私の眠りを誘う力は、不遜君に淫魔と名付けられたことで射程範囲が広くなり、効果も強くなったの。名付けをしていない時は、半径1m範囲の相手にしか睡眠効果がないうえに、即効性がなくてウトウトと眠気を誘う程度の力しかなかったのよ」
確かに半径1mの範囲で即効性がなければ、あまり意味はないだろう。ウトウトした程度の眠気しかなければ、男性から襲われた時に、逃げる時間を少し稼げる程度で、撃退をするのは難しい。しかし、即効性があれば話は違う。昨日のように柊に襲われても身を守ることができる。
「悪い点は?」
物事は表裏一体だ。良い面があれば必ず悪い面もあるはずだ。そんなに世の中甘くはない。
「眷属化は王には逆らうことができない奴隷になるけど、名付けの場合は自分の賜物の効果が王に対しては無効化になるくらいかな」
「そうなのか」
「うん。か~くんは不遜君に名付けをしてもらわないの」
「……」
傲岸に名付けをしてもらえば、俺の力はより強大な力になり得るだろう。しかし、傲岸には俺の力が通用しなくなる。
「迷っているのね」
「あぁ」
甘南備にとっては、名付けをしてもらうということは、仲間になるという解釈になるだろう。しかし、俺は知っている。先ほどの傲岸の態度からして、対等な仲間ではなく、王と奴隷のような天と地の差がある扱いになるのは明確だ。
「不遜君は20歳の誕生日の日に賜物の力に目覚めてからは、賜物のことをずっと調べているの。この2年間で多くの人と会い、多くの場所に行ってるわ。私も協力できる範囲で協力しているの。か~くんも一緒に賜物のことを調べようよ」
「……」
甘南備と仲間になるのは嬉しいことだが、傲岸が王として君臨している場所には行きたくはない。しかし、生殺与奪の権利は傲岸が持っている。
「そうようね、少し考えたいよね。強引に誘うようなマネをしてごめんね」
「……」
甘南備は何も悪くはない。でも本当の俺の気持ちは言えない。
「不遜君には少し待ってくれるように言っとくね」
「あぁ」
傲岸は欲しい物を全て手にしてきた男だ。長くは待たないだろう。
「少し話がずれたよね。か~くんは力の使い方を知りたいのよね」
「あぁ」
「さっきも説明したけど力を使うには心で念じるの。私の淫魔は体から甘い香りを発して、その香りに睡眠効果があるの。だから、心で念じれば体から甘い香りが舞うの」
「今も甘い香りがするんやけど力を使ってるのか」
「これは香水よ。でも、普段から淫魔と似た香りの香水をつけていることで、カモフラージュをしているの。これは不遜君からのアドバイスね」
「そうか」
傲岸からのアドバイスと聞いただけでイライラしてしまう。
「インちゃん、出ておいで」
と甘南備が呟くと、甘南備の肩の辺りに10㎝ほどの揚羽蝶のような綺麗な黒い羽根を持つセクシーな妖精のような生き物が現れた。
「な……なんやそれ」
「可愛いでしょ」
甘南備は愛くるしく笑った。