虐待
「あぁぁ~」
「か~くん、大丈夫」
俺は悪夢を見ていた。目を開けると心配そうに俺の顔を覗き込む甘南備の美しい顔があった。
「夢か……」
俺が見た悪夢は中3の時に本当にあった出来事だ。あの時に俺は、クラスメートたちが知らない傲岸の本当の姿を見たのだ。あの後、2度ほど傲岸のサディスティックな悪魔的仕打ちを受けて、その内容も動画に撮られてしまった。あの頃は、俺の人生で一番最悪の時で、自殺を考えるほどの地獄の底に突き落とされた気分だった。しかし、地獄の底から救ってくれたのは、以外にも新太郎であった。
人間とは、圧倒的支配関係を築き上げる時、必ずと言ってよいほどに性的虐待を行う傾向にある。テレビでもたまに報道されているが、俺も傲岸に同じような屈辱的な性的虐待をうけることになる。修学旅行の時の動画を拡散すると脅された俺は、学校の体育館の倉庫に呼び出された。そこには傲岸と茶坊がいた。茶坊とはクラスメートで傲岸の親友だ。茶坊はいつも傲岸と一緒に居て、傲岸のジキルの顔を知っている数少ない人物だ。
俺は修学旅行で自慰行為の動画を撮られてからは、2人の専属のおもちゃになりさがる。新太郎のサンドバックと違ってこの2人は精神的苦痛を与える行為を好む。2人は俺を体育館の倉庫で全裸にして、肛門に鉛筆や消しゴムを入れ悶絶する姿を見て、ニタニタと愉悦の笑みを浮かべていたのだ。たまたま、授業をさぼる為に体育館の倉庫に訪れた新太郎とバッタリと鉢合わせになり、緊迫した雰囲気になった。傲岸と茶房は、「罰ゲームをしてるねん」と言い訳をしたが、「おもろないことするなや」と言って、2人を一瞬でボコボコにした。そして、俺に向かって「こいつらがまた同じようなことしたら俺に言えや」と言って、倉庫のマットで眠りに着いた。それ以降、傲岸たちが俺をおもちゃにすることはなくなった。
傲岸が俺を脅迫した動画は、就学旅行の時の全裸で汚物を拭き取った動画と戸色をおかずにして自慰行為をした動画、それと体育館の倉庫で肛門に鉛筆を入れられた動画だ。どれも他人には見られたくはない屈辱的な動画だ。
中学を卒業してからは、傲岸と会うことはなく、悪夢のような出来事は記憶から消したのに、再び悪夢が俺を支配する。
「悪い夢を見ていたのね」
俺は後頭部に生暖かくて弾力のある心地よい感触を感じていた。もちろん、その正体にはすぐに気付いた。
「あぁ~。ほんまに嫌な夢やわ」
甘南備の膝枕は、悪夢を消し去ってしまうほどに心地よい。傲岸と会って地獄の日々を思い出したが、甘南備の膝枕が代償として用意されていたのなら、傲岸に会ったことは後悔に値しない。
「私の膝枕でよければゆっくりと休んでね」
「あぁ」
俺は素直に返事をする。このまま時が止まってくれたら、どれだけ幸せなことだろうかと考えていた。
「か~くん、ごめんね。本当は来たくなかったのよね」
「そんなことないわ」
俺は本当のことは甘南備には言いたくないし、知られたくもない。
「力のことはわかったの」
「少しだけな。もしかして、甘南備もあの不思議な力を使えるのか」
俺には確認したい事柄は山ほどあった。結局、傲岸からは詳しいことを聞く間もなく、会話は強制的に終了した。
「少しだけね」
「そっかぁ。もしかして、柊たちが倒れていたのは、甘南備の力だったのか」
まずは昨日の不思議な出来事のことを確認することにした。
「そうね。襲われる寸前だったので、やむを得ずみんなには眠ってもらったのよ」
レイプされそうになった相手を眠らせて自分の身を守るのは当然だろう。
「俺が眠ったのもその力のせいなのか」
「違うわ。か~くんは自分の力に目覚めたから気を失ったの」
「そうだったのか……」
もしもあの時、俺が気を失わなければ、童貞を卒業できたのであろうか?
「そうや!あの時……いや、なんでもない」
あの時、なぜ甘南備がキスをしたのか理由を知りたい。俺のことが好きだからキスをしたのだろうか?それとも力を目覚めさせるためにキスをしたのだろうか?是が非とも知りたいが確認する勇気はなかった。
「あの時?」
甘南備は上を向いて俺が何を言いたかったか考えるが気付かない。
「力の使い方を教えてや」
キスの理由も知りたいが聞けるはずがないので話を替える。
もしも、あの不思議な力を自在に操ることができれば、俺の世界は一変するだろう。




