修学旅行
「不遜君、何があったの」
「なんで戻って来てん」
甘南備が顔色を真っ青にしてバーから戻って来た。
「2階から大きな音がしたから心配して戻って来たのよ」
「そうか。カラが急に倒れてん。目を覚ましたらさっきの件の返事をくれって伝えとってや。俺は別の店に顔出してくるわ」
傲岸は、気を失った俺を甘南備に託して事務所から出て行った。
中学3年生の時に修学旅行で東京へ行った。修学旅行2日目は、自主的に計画して行動することが目的となる自由行動の日なので、班ごとで自由に東京を散策する日となる。しかし実際は、班ごとに分かれて行動する者などいなくて、仲の良い友達同士で行動することとなる。もちろん、俺は友達がいない。案の定一人ぼっちの俺に、平良が一緒に秋葉原へ行かないかと誘ってくれるが丁重にお断りした。俺は1人で見知らぬ東京の町を歩くのが怖いので、直ぐにホテルへ戻ることにした。
ホテルの部屋は班ごとに分かれていて4人部屋になる。班はくじ引きで決めたので自由行動が成立しないのは当然だった。俺は誰もいない自分の部屋へ戻る為にホテルのフロントへ行くと、カギは別の生徒が使用していると言われた。俺の班で1人ぼっちになるヤツなど想像もつかないが、忘れ物でもしてホテルへ取りに帰って来たのだと思い俺は部屋へ向かった。
『ガチャ』
扉には鍵がかかっていなかったので、俺は無言のまま部屋へ入る。すると俺はすぐに異変を感じた。
「あぁ~あぁ~あぁ~」
奥の部屋からエロ動画で聞いたことのある女性の艶めかしい声が聞こえる。俺はすぐに息を殺して静寂を保つ。
「羅須、気持ちええやろ」
「うん。もっと舐めて」
部屋の中から聞こえてきた声で、部屋の中にいるのは傲岸とクラスメートの戸色 羅須で間違いないと確信した。俺はくじ引きで傲岸と同じ班になった。傲岸は自由行動の時間を利用して戸色と部屋でHをしていたのである。幸いにも俺が部屋に戻って来たことに2人は気付いてはいない。このまま逃げ去るのが正解だと俺の脳は判断したが、俺の股間がそれを否定した。
俺が自慰行為を覚えたのは中学1年生の時だ。多くの人は友達から教えてもらうのかもしれないが、友達のいない俺はテレビとネットが情報源となる。残念ながらテレビでは自慰行為の方法を教えてくれないが、ネットにはいろんな情報で満ち溢れていた。女性の体を見て興奮することを知ってしまった俺は、ネットで多くのエロ画像や動画を見て愉悦に浸っていた。俺達の世代は幸か不幸かはわからないが、 知りたいことをネットで検索すれば簡単に知ることができる。俺はエロ動画を見て自慰行為のやり方を知り極上の快楽を知ってしまった。快楽は麻薬と一緒で中毒性がある。一度覚えてしまったら二度とやめることなどできないだろう。自慰行為を覚えてから俺は皆勤賞が貰えるほど毎日自慰行為をしている。そんな快楽に溺れた俺が、動画でなく本当の女性の喘ぎ声を聞いて無視することなんて不可能だ。もしも願いが叶うのならば、動画や画像ではない本当の女性の裸を見たいという衝動が駆り立てられるのは必然でもあった。
「あぁ~あぁ~あぁ~」
クラスメートの女子の喘ぎ声は、どんなエロ動画よりも生々しくて興奮する。俺の欲望は自分でも制御できなくなるくらいに大きく成長していく。脳は扉をひらいてこっそりと出て行くように指示を出すが、心に住まう欲望が喘ぎ声のする部屋の扉へ向かわせる。気付くと俺は、部屋の扉に耳を当てながらパンツの中に手を入れていた。
『ガチャ』
無慈悲にも部屋の扉が開いた。
「お前……何しとんねん」
「あ……ああ」
扉を開けたのは傲岸だ。俺はビックリして声が出ない。
「……お前、羅須の喘ぎ声を聞いてシコってたんか。ガハハハハハハ」
傲岸は腹を抱えて笑い出す。
「不遜君、どうしたの」
「ガハハハハ、カラが羅須の喘ぎ声を聞いてシコってるねん。笑えるやろ」
「いやぁ〜、カラがいたの。気持ち悪いから早く出て行ってもらってよ」
戸色は悲鳴をあげて嫌悪感を抱いた。
「ここは俺達の部屋や。カラに出て行ってもらうのはちょっと違うやろ」
「誰もいないって言うから、私はこの部屋に来たのよ。カラが居たら来なかったわ」
「カラがぼっちになるのはわかっていたが、まさかホテルに戻って来るとは想定外やってん。あ!俺、おもろいこと思い付いたわ。羅須、こっちへ来てカラのおかずになってくれや。その様子を動画で撮影したらおもろいやろ」
「いやよ」
「裸で来いとは言わん。下着姿でええわ。これはおもろい動画が撮れるで」
「下着姿でもいやよ」
「……そっかぁ。嫌なら仕方ないわ」
傲岸は戸色に諦めたように伝えるが、不適な笑みを浮かべて、俺の耳元に顔を近づけ小声で話しかける。
「カラ、部屋に入れや。お前も羅須の裸を見たいんやろ」
「……」
俺は黙って首を横に振る。すると傲岸は俺のみぞおちを狙って蹴りを入れる。傲岸は小学生の時から空手を習っている有段者である。傲岸の蹴りは綺麗に俺のみぞおちに入って、呼吸が困難になり悶え苦しむ。
「入れや」
傲岸の顔つきが一変した。いつもの陽気なイケメンの顔が、背筋が凍るほどの冷酷な顔に変わり、再度俺のみぞおちに蹴りを入れる。
「うぉぉぉ~~」
傲岸の蹴りは俺の胃を刺激して、俺は朝食で食べた食事を全て吐き出した。




