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Phantom World〜力を得た者たちのレクイエム〜  作者: 薪ストーブ
無色 空①

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17/22

反抗

 傲岸(ごうがん)は、ジキルとハイドのような人間だ。そして多くの人はジキルの面しか知らない。俺はハイドの面を知っている数少ない人物になるのだろう。傲岸は正義感が強く誰にでも優しい好青年というのが先生たちの評価であり、先生の推薦で生徒会長に選ばれたほど人望が厚い。唯一の欠点は女癖が悪いくらいだが、超イケメン、文武両道、好青年の3拍子揃った傲岸が3股交際をしても、許されるくらい女生徒からの人気も高い。学校1位のアイドル的人気の天真(てんしん)も傲岸の彼女の1人であったが、今も付き合っているのかは定かではない。言っておくが女癖の悪さが傲岸のハイドの面ではない。英雄色を好むという言葉があるように傲岸の女癖の悪さは欠点という軽い言葉で許されてしまう。

 実は傲岸にはみんなが知しらない裏の顔がある。俺は新太郎をサディスティックな性格だと説明したが、傲岸こそが本当のサディスティックな男である。俺にあんな酷い仕打ちをしたのにかかわらず、今も平然と優しそうな笑みを浮かべることができる傲岸は、ジキルとハイドと言えるだろう。



 「……」



 傲岸に何でも相談にのると言われたが、本来俺はコイツとは口も聞きたくないのだ。



 「カラは変わらないな。揚羽(あげは)、知っていることを教えてくれないか」



 傲岸は初対面の女性でも、相手を呼ぶときは苗字ではなく名前で呼ぶ。相手への距離感を近くしたいのならば苗字ではなく名前で呼んだほうが距離感は近くなる。俺も無色(むじき)と呼ばれるよりも(そら)と呼ばれた方が親近感を感じてしまう。しかし、心の狭い俺は甘南備を揚羽と呼ばれたことに嫉妬心を抱いていた。



 「わかったわ。か~くん、私が説明するね」

 「あぁ」



 俺は不機嫌な態度のまま頷いた。甘南備はなぜ俺が不機嫌なのか理解できないため、少し困惑した表情で傲岸に説明し出した。

 

 傲岸と甘南備が話を始めて10分が経過した。



 「カラは賜物(カリスマ)に目覚めたようだな」

 「うん」


 「力的にはレアな賜物(カリスマ)だし、カラも仲間に入れる必要があるな」

 「うん」


 「俺はカラと2人でじっくりと話しをしたい。揚羽と(らん)は席を外してくれ」

 「うん」

 「わかったよん」



 甘南備と天真は1階のバーへ行き、俺は傲岸と二人っきりになってしまった。



 「お前、揚羽のことが好きやろ」



 傲岸の顔つきがハイドに変わる。先ほどまでのジキルのさわやかな笑みは消え、俺を見下す悪魔の目で俺を見る。



 「……」



 俺は怯えて何も言えない。



 「お前、わかりやすいねん。俺が甘南備のことを揚羽と呼んだ時から、明らかに不機嫌になったやろ」

 「……」


 「揚羽も整形して綺麗になったし、好きになるのはわかるわ。でも、アイツはやめとけ。お前のような真面目な人間には分不相応や。それよりも、俺以外の手が付いてない欄のほうがええぞ。なんなら俺がセッティングしたろか」

 「……」



 俺は甘南備が綺麗になったから好きになったのではない。中学の時に、明るい笑顔で声をかけてくれた心優しい甘南備が好きなのだ。確かに今の綺麗になった甘南備も素敵だが、昔の可愛くない甘南備でも好きという気持ちは変わらない。



 「なんや、爛より揚羽の方がいいんか?」



 傲岸は沈黙イコール否定と捉えるがそれは正解だ。俺は天真よりも甘南備のほうが好きだ。



 「そんなことはどうでもええわ。さっき言っていた賜物(カリスマ)のことを教えろ」



 俺は勇気を出して声を発したのではない。これ以上甘南備のことを聞かれるのが嫌だから別の話へ逃げたのだ。



 「たしかに、女の話は後回しでもええわ。それでは本題に入ろうか。賜物(カリスマ)とは、人知を超越した特殊な能力のことや。本来人間は、様々な特殊な能力を有していたけれど、残酷な争いごとが後を絶たないため、神が人間の脳にリミッターを付けて、特殊な力を使えなくしてん。まだ詳しい理由は捜査中やけど、俺たちはリミッターが解除されて特殊な能力が使えるようになってん。リミッターをカットされた人間は20歳の誕生日を越えた時、同性もしくは異性との性的興奮を感じたことをきっかけに賜物(カリスマ)の力が発動するねん。お前の場合は揚羽とキスをしたことで賜物(カリスマ)が発動したんやろ」

 「キ……ス……」



 俺と甘南備がキスをしたことは、夢や幻ではなく現実であることが証明された。



 「キスで興奮するとは童貞のお前らしいな。ガハハハハハハハ」

 「……」



 俺は嘲るように笑う傲岸を拳を握りしめながら黙って見る。



 「悪い、面白過ぎて話がずれたわ。とりあえず、おめでとう!お前は俺達と同じ土俵に立ったと言えるやろ」

 「お前達もあの不思議な力が使えるのか」


 「当然や。自分だけ特別だと思うなよ」

 「……」


 「話を続けるわ。賜物(カリスマ)は人知を越えた特殊な力だが、世界の秩序をひっくり返せるほどの大きな力ではない。しかし、お前の力はほんまおもろいで。使い方次第では7王と肩を並べる力となるはずや。カラ、俺の仲間になれ。お前が仲間に入ってくれるんやったら、1回くらい揚羽とやらせたるで」

 「ふ……ふざけるな!お……お前の仲間など入らんわ」



 甘南備を性的奴隷として扱っているような発言が、俺を拘束する恐怖の鎖を断ち切った。初めて俺は傲岸に怒りをぶつける。



 「ガハハハハハ。お前、忘れてるやろ。揚羽のことでキレたふりをして反抗したが、お前は俺に逆らえる立場じゃないやろ。あの時の動画はまだ持ってるねんぞ。もう一度言うわ。あの動画を拡散させて欲しくないのなら、俺の下僕になれ」

 「……」



 俺は過去の恐怖を鮮明に思い出し、膝から崩れ落ちて倒れ込んで意識を失った。



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