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Phantom World〜力を得た者たちのレクイエム〜  作者: 薪ストーブ
無色 空①

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13/22

待ち合わせ時間

 俺がBar Heaven(バーヘヴン)に着いたのは18時だ。約束の時間まで後1時間もあるのだが、家で待っていても緊張で心が押しつぶされそうだったので、かなり早めに家を出てしまった。



 「スーパーで時間つぶそか」



 Bar Heaven(バーヘヴン)のある長尾駅は、こじんまりとした駅なので、時間をつぶすカフェなどない。あるのはコンビニとスーパーくらいだ。コンビニで長居はできないのでスーパーへ寄ることにした。



 「くそ!まだこんな時間か……」




 俺は小声で愚痴る。スーパーの商品を見て時間をつぶそうと試みるが緊張で全く集中できない。早く待ち合わせの時間になって欲しいという願望が俺の体内時計を狂わせる。俺は何度もスマホの時計を確認するが、時は俺を嘲り笑うかのようにゆっくりと時を刻んでいた。



 「まだ6時15分かよ」



 もう20回以上はスマホの時計を確認している。スーパーの店内も20往復はしただろう。何も買わずにブツブツと独り言を呟いている俺は、いつ通報されてもおかしくはない。時の進みが遅いことに苛立ちを感じて人相も険しくなっている。俺は自分の不審者ぶりに気付いたので、一旦スーパーを出ることにした。



 「駅の近くに居たら早く来てるのがバレるし、散歩でもするか」



 19時で待ち合わせをしてるので、5分前に到着するのがベターだと俺は思っている。待ち合わせ時間丁度に到着したり、遅れて来るのは良くないだろう。しかし、15分以上前から待っているのも気恥ずかしい。それは俺に下心があるので、その下心を甘南備に悟られると考えてしまうからである。もうスーパーで時間をつぶすのは難しくなったので、南側の住宅街の方へ散歩をして時間をつぶすことにした。


 スーパーから出ると日が暮れて街灯が点灯していた。長尾駅から南側の住宅街へ向かう道は、田んぼに囲まれた閑静な道だ。電車通勤の帰り道として人は横行するのだが、今の時間はすれ違う人もなく俺1人の専用道路になっている。今、俺は長尾駅の北側の住宅街に住んでいるが、10年前は南側の住宅街に住んでいたので、懐かしさを感じる雰囲気に少し俺は哀愁を感じていた。



 「あんま、かわらんなぁ~」



 5年ほど前に長尾駅はリニューアルして綺麗な駅に様変わりした。もちろん、長尾駅だけでなく周辺も多く様変わりしたが、北側の地域だけは、10年前とほとんど変わることのなくのんびりとした景色が残されている。それはまるでタイムマシーンで過去に戻ったかのように十年一日のごとくだろう。

 懐かしい景色を見て感傷に耽っていると時間は加速する。ハッと気づいた時にはスマホの時計は18時40分になっていた。



 「やば、急がなあかんわ」



 俺は懐かしくなって、以前住んでいた自宅の辺りまで来ていた。ここから長尾駅までは徒歩25分、このままでは遅刻するのは確実だ。



 「走れば、ギリセーフやな」



 俺の周りには誰も居ないが、慌てた素振りを見せたくなかったので鷹揚(おうよう)な態度で呟く。しかし、内心は心臓がバクバクと音を立てていた。薄暗い街灯が地面を照らす中、俺は白い息を吐きながら長尾駅へ走って向かう。走りながら長尾駅に向かう中、握りしめたスマホの時計を幾度も確認する。



 「大丈夫や、大丈夫や。時間までに間に合うわ」



 普段から走ることのない俺は、かなり息を切らして体力も底をつきかけていた。スマホの時計は18時50分、10分も走るなんて高校のマラソン以来の走りである。しかし、走ったのでギリギリ間に合いそうである。



 「なんか臭くないか。来た時はこんな匂いせえへんかったぞ」



 急にゴミの腐敗臭のような匂いが鼻を突く。あまりの匂いに胃の滞留物が逆流して、食道を駆け上がり咽頭まで到達する。俺はグッと口を閉じて吐き気を抑え込む。そして、吐き気を止めるために鼻を両手で覆って汚臭を遮断した。



 「これから大事なイベントやのに……なんやねんこの匂い」



 意気揚々した気分が一転して意気阻喪となる。



 「鼻をつまんで一気に駆け抜けよか」



 10分も走ったので体力は低下している。しかし、この汚臭から逃げるためには全力で走るのが正解だ。俺は本気の走りの封印を解くことにした。



 「なんやあれは……」



 俺が猛ダッシュをしようとした時、行く手を塞ぐように1人の人間が道路の真ん中で仁王立ちしていた。暗くて男性もしくは女性かは定かではないが、道路の真ん中で人間が立っている姿はあまりにも不思議な光景だ。俺の直感が告げる。あの人間には絶対に関わってはいけないと……。しかし、あからさまに逃げると相手を刺激する可能性がある。かといって、ビクビクと怯えている姿を晒すことは相手を喜ばせることになる。ここはあくまでも平静を装って素通りするのが一番だ。俺は不審者を挑発もしくは慢侮(まんぶ)されないように、神色自若(しんしょくじじゃく)として動じない姿をみせつけながら、不審者の横を通り過ぎる。



 「カ……ラ……。カ……ラ……」

 「え?」



 鼻がもげるほどのゴミの腐敗臭と一緒に、頭の中をかき回されそうな歪な声が俺の動きを止めた。

 


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