5.
革命祭は予定通り、今年も盛大に行われているらしい。朝刊に記された爆弾魔からの犯行予告なんて、誰も気にしていないようだ。
ま、僕も朝刊なんて読んでないし、さっきまでそんな話知らなかったし、どうせ死ぬこともないし、警備隊の皮を被った悪魔たちに脅されなかったら気にすることもなかったんだけどね。
ベリル家から追い出されたのが今朝方の話だなんて信じられないくらい、今日に色々な出来事が詰まりすぎな気がするよ。もうちょっと日を分けてくれてもいいんじゃない?
とまあ、そんなことを考えながら、僕は通りを歩いている。僕の持つ力の全てをもってすれば、そりゃあ件の帝国を揺るがしかねないシュウ・ヘルゼンだろうと、その愉快犯だろうと、捕まえるのも殺すのも簡単なんだけれど、一般的に難しいとされていることを簡単にやってのけてしまうと、今後の僕の生活に支障を来たしかねないからね。持てるものっていうのにも葛藤があるものなんだよ。っていうことにしておくね。
それはそうと。
「ついてこなくていいんですけど」
僕は足を止め、振り返って言った。隠れ損ねた青い隊服が、建物の陰からはみ出ている。僕は腕を組んでその様子をじっとりと見守ってあげる。建物の陰から顔を出したレインハルトが、視線を泳がせたと思えば、ロナウドに通りへと蹴り出された。
その様子を見ていたらしい通りの女性が、コソコソと耳打ちしている。かっこ悪い姿を晒す彼に僕がすることはただ一つ。冷ややかな目で見下ろすことだ。
いいかい? 僕たちはいつだってかっこつけてなきゃいけないんだ。特に女性の目がある前ではね。まあ、僕はどんな姿だって美しいけどね、当然。
レインハルトはのそのそと立ち上がって、片手を軽く上げた。
「やあ、偶然だね」
「偶然なわけあるかよ」
思わず本音が口をついたけど、仕方ないよね。無理やり細い路地に押し込まれたらしいロナウドが、レインハルトの後ろで何度も頷いている。当のレインハルトは固まった笑顔のまま「ははは」と乾いた笑い声を漏らした。
「それで、どうして僕をつけていたんです?」
「いやだなぁ。つけていたわけじゃないよ」
「せめて隠れるならバレないように気を遣うくらいはしてくださいよ。いつ声をかけようか、僕も困ったんですから」
ロナウドがレインハルトを肘で小突く。レインハルトは一度天を見上げてから、肩をすくめた。
「いつから気づいていたんだい?」
「いつからも何も、別れたときからですが」
「俺たちの尾行、そんなにわかりやすかった?」
「はい」
「即答しないでよ」
彼らとは先ほどの路地裏で、「じゃあそれぞれ情報を集めるということで!」と、別れたはずなんだけどね。僕についてきたいみたいだったから、撒かずに通りまで来たけど、そろそろ一人にしてほしい。僕だってそんなに暇なわけじゃないんだよ。そりゃあ、ベリル家はクビになったけど。
レインハルトがこういう場所で困っている姿は珍しいらしい。向かいの婦人が目を大きく開いてその姿を焼き付けている。その気配にそっと視線を走らせて、レインハルトが提案してくる。
「とりあえず場所を移さない?」
「僕のことは放って帰ってくださって構いませんよ」
「そういうわけにもいかないだろう?」
なんでだよ。そういうわけにいけよ。
と思うけれど、残念ながら彼にそんな僕の思いは伝わらない。そういうものだよね、世の中って。
婦人たちの視線を気にするレインハルトに、僕は深々とため息をついて見せてから、仕方なく再び歩き出す。その後ろを二人がさも当然というようについてくる。本当についてこないでくれていいんだけどね?
「どこに行くんだい?」
「どこに行きましょうかねぇ」
「考えなしか」
まあ、彼らとしても、一応協力者ということになった僕のことが心配なんだろう。僕が逃げ出したりしないかとか。僕が逃げ出したところで彼らにとって不利益はないはずなんだけどな……。
僕の返答にロナウドがボソッと呟いたところで、空から花びらが降ってきた。広間で女性たちが振りまいていたものとは違う。薄紫の花弁が僕のキャスケットに降り注ぐ。うわっと後ろから悲鳴があがった。振り返れば、レインハルトとロナウドが花弁の雨に埋もれていた。
晴れ渡った青空は透けるように遠く、そこにキラリと光るものがある。僕がそこに目をやると、逃げるようにそれは隠れてしまった。
大量の花びらからどうにか脱出したらしいロナウドが、頭に花弁を乗せたままレインハルトを救出している。魔法が使えるなら、風を起こして全てを払いとってしまえばいいと思うんだけど、人前でそういうことをするのは警備隊的にダメなのかな。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に見える?」
「よくお似合いですよ」
「うーん、好意的なものとして受け取っておくね」
レインハルトもどうにか花弁の山から脱出した。辺りが薄紫の絨毯を敷いたみたいになっているけれど、これについてはもう、そういう祭りだし、広場もこんな感じだったし、祭りが終わったら帝都の民たちによって大掃除されるだろうから、気にしなくていいだろう。僕もキャスケットを取って、上に乗っていた花弁を払い落とす。
「それにしても、これは一体……?」
近くの宿屋の上を見上げるレインハルトだけど、首を傾げるばかりだ。通りの向こうの婦人なんかはなにがあったのか見えていたかもしれないけれど……彼らに気を取られていたようだね。
「猫がいたんですよ」
「猫?」
「そう、猫」
ロナウドの近くに転がっている籠を指さして、僕は言った。それは広場で女性たちが持っていたものとよく似ている。どうしてそれがこんな場所にあるのか、とか、どこから落ちてきたのか、とか、そういうことはツッコんじゃいけないよ。世の中には知らなくていいことなんて、山ほどあるんだからね。
レインハルトは案外納得したらしい顔を浮かべている。むしろ、疑念をあらわにしているのはロナウドのほうだ。
って言っても、僕にその疑念をぶつけられても困るんだけどね。別に僕が何かしたわけでもないし。
「降ってきたのが花だけでよかったよ」
レインハルトが言う。でも、もし花弁以外が降ってきていたら、その反応速度でどうするつもりだったんだろう。本当に君たち警備隊なんだよね? と言いたいのは僕だけだろうか。
とはいえ、うっかり屋根の上から猫の鳴き声なんかが聞こえないうちにここを去ったほうがよさそうだ。僕は猫も好きだけれど、可愛がっているのは犬だからね。
僕が歩き出せば、やっぱりヒナのように二人がついてくる。なんだか視線を感じるから、そろそろ僕のことは放って他の任務に向かってくれていいんだけどね?
「それで、どこへ向かっているんだい?」
「特に目的地っていう目的地はないですよ」
「そのわりに足取りがしっかりしていると思うけど」
「行くあてがないわけではありませんから」
「宿でも取っているのか?」
「あいにく僕の全財産は3ジェニーなもので、これじゃ宿も見つかりませんよ」
僕がこれだけ頑張って話を全部流そうとしているんだから、そろそろ諦めて欲しいんだけどな。
同じような話を繰り返しながら、僕たちは見覚えのある道を通っていく。
「何か心当たりでもあるのかい?」
「いいえ、全く」
行きたいところはあるけど、彼らがついてきている状態では行けないしなぁ。
花屋、本屋、雑貨屋、パン屋。どこも祭りにでているのか、扉を閉ざしている店々の前を通り、そろそろ目的地に近づいてきたところで僕は足を止めた。
「どこまでついてくる気です?」
「君が行き先を教えてくれないからさ」
「僕のせいにしないでくださいよ」
「大切な協力者を野放しにはできないよ」
「監視したいならそう言えばいいんですよ」
「言葉が悪いなぁ」
事実だろうに。
とはいえ僕もお金は欲しいから、蔑ろにするわけにもいかない。そも、彼らをこんな道の往来で蔑ろになんかしたら、僕たちに話しかけることもせずじっとりと視線を送ってくれる彼女たちに何を思われるかわかったものじゃないからね。
しかしながら、僕にも僕でやらなきゃいけないことがある。彼らの手伝いをするっていうなら、当てがないというわけではない。わざわざ魔法を使ってやる道理はないけど、もうちょっとマシな手段なら使ってあげないこともない。それがまともかと問われると答えに窮するけど。
「詳しいことは明日にしようかなって」
「俺たちとしては今すぐにでも不安要素は排除して、楽しい祭りに徹したいところなんだけど」
「僕は祭りなんてどうでもいいですからね」
あの革命が祭りになっているだなんて、知ったのも2年前の話だし、僕がこの祭りを楽しむことなんてきっと今後ないだろう。だって、喜ばしいとは思えない。
祭りがあろうとなかろうと、僕の時間の流れは変わらない。特別じゃないってだけだ。誰かにとっての特別が、誰かにとって当たり前だなんてことは、当然のことでしょう?
その爆弾魔とやらが何を狙っているのかは知らないけど、それがこの国をぶっ壊すことを目的としているというのなら、もしかしたら僕も応援してしまうかもしれない。もちろん、罪なき婦人たちが危険な目に遭うと言うのなら全力で止めるけどね。
僕の態度を見て、ロナウドが言った。
「随分目をかけるな」
「そりゃだって」
だって、なんだろう。それ以上口を開こうとしないレインハルトに、ロナウドは肩にポンと手を置いて続ける。
「わかるぞ。こいつ、俺の妹にそっくりだからな」
「いや、そういうことじゃないんだけ」
「妹!? 妹さんがいるの!?」
「うわ食いつきすっご」
これは話が変わってきたね。レインハルトが何か言ったような気がしたけど気にしない気にしない。
僕はね、世の中の全ての女性の味方を謳っているんだ。妹さんがいるというなら挨拶しないと。弟さんだったら、「へえ」で流せたんだけれどね。
「会いたいか?」
「会いたいに決まってますよ!」
僕は全力で頷く。ちょっと首がもげるんじゃないかと不安がよぎったけれど、気にしたら負けっていうよね⭐︎
流石のロナウドもその勢いに引いたような顔を見せるけれど、気にしないことにしようね。ねっ!
「君、流石に怖いよ」
「今いいところなんです、話しかけないでください」
「ひどい」
視界の隅で赤い髪の男が話に入りたそうにしているけれど、僕は華麗に無視を決める。曰く、情報の選別ができるというのは大事な能力らしい。さすが僕の脳。
ややあって、ロナウドが仕方なさそうに首を縦に振った。僕は両拳を天高く突き上げる。素晴らしい、空が輝いているよ。夕暮れ時だけど。
もう少しこの余韻に浸りたいところだったけど、レインハルトが「不審者として捕まえようか?」とかなんとか戯言を抜かしたから、僕は落ち着きを取り戻した。
「今から行くか?」
こてん、とロナウドが首を傾げて問う。これが女性の仕草だったら100点満点だったんだけど、不愛想で無表情な僕よりガタイのいい男が僕より高い視線から見下ろしてくるのはちょっと腹の底に沸々と煮えそうなものを感じるよね。僕がチビなわけではないよ、決して。
とても魅力的な提案だけれど、僕は断りを入れる。手土産の一つも無しに訪問なんて許されないし、これからちょっと用事ができそうな気配がする。
具体的には、僕のかわいがっている犬に『待て』のご褒美をあげなきゃいけない。じゃないと拗ねてしまうからね。よくよく手なづけたから、僕というご主人様を忘れるなんてことはないけれど。
レインハルトはまだ何か抗議でもしたそうな目で見つめてくるけれど、ロナウドは簡単に了承してくれた。彼も彼で微妙な顔をしているけれど。まあ、僕が彼の妹さんに会うまではやる気を出さないつもりだっていうのを薄々わかっているんだろう。いいね、聡い子は嫌いじゃないよ。子っていう年齢じゃないけど。
「本当に今日は何もしないつもりかい?」
「そんなに何かしたいんですか?」
「なんか語弊を生みそうな言い方だね。俺は単に、早くこんな捜査なんて終わって欲しいだけだよ」
僕としては本当に、この辺りで別れたいところなんだけど。
尚もついてこようとするレインハルトに、わざと深くため息をついて見せてから、僕はそこからもう少しだけ移動した。
「ここって」
「さっきも来ましたね」
掲げられた看板を見上げるレインハルトと、それについてきたロナウドを放っておいて、僕は店の扉を開く。
所狭しと物が並ぶここは、レインハルトが言う通り、先ほど彼らが聞き込みをしていた骨董品屋だ。カウンターに座って居眠りをしている店主の親父さんは放っておいて、僕は店の品を物色していく。
「何か用があるのか?」
「まあ、用はありますね。探し物というか。女性に会いに行くのに、プレゼントは必要でしょう?」
「いらないと思うが」
くっついてくるレインハルトに答えてやれば、ロナウドがぽつりと溢す。大事なんだよ、こういうのは。ちょっとしたお菓子とかでもいいんだけどね。
プレゼントもそうだけれど、僕には見ておきたい品があった。
前にも言ったけれど、この骨董品屋は、骨董品屋とは名ばかりの、古代聖遺物の集積所だ。
二人には僕が魔法を使えるってことは知られているし、まあ、吹聴するようなことがあれば口封じすればいいだけだから、構わないだろう。
僕はさっき眺めていたドレッサーに近寄って、それに手をかざす。
「何をしているんだい?」
「秘密です」
とはいえ、もしかしたら見えてしまうかもしれない。別に構わないといえば構わないけれど。
何をやっているのか。その答えは簡単だ。アーティファクトを無効化している。
ありがたいことに、僕の魔法はとても便利で、その魔力量についても、普通の魔法使いを凌駕する。そういう星の元に生まれたからね。完璧な僕でごめんね。
そして、諸々の修行とかなんとかとかかんとかとかの末、手に入れた一つの力が、これだ。
もう少しちゃんと言うと、ドレッサーに埋め込まれた魔法石に込められた魔力を吸い出して、結晶化するという力。これ自体はわりと簡単なんだけど、僕の持つ特殊な能力はその先のものだ。
結晶化された魔力は、もとの魔法石と同等の輝きを放つ。僕のことを覗き込んでくるレインハルトがそろそろうざいけど、まあ仕方ない。
ドレッサーの無効化を終え、僕は壁に飾られている、お目当てのものを手に取った。
「先払いということで」
ついてこなくていいと言ったのに、こんなにまで熱心に見つめてくるんだから、これくらいのことはしてくれるよね?
レインハルトは正しく意味を受け取ったらしく、眉をひそめて訊いてくる。
「他人の金で買ったプレゼントでいいのかい?」
「ないよりはいいですよ」
僕が手に取ったのは、ネックレスだ。宝石がいくつもついているから、それなりに値が張るものだろう。とはいえこれも、アーティファクトにしては、つけられている値札は安い方に入る。
魔法石への魔力の付与なんてものが流行った時代に造られたものだから、今の世では見かけないような術式が使われているんだ。だから、現在の技術では模して作ることも難しい程度のものだと思う。
え、僕? そりゃ当然、僕なら同等のものくらい作れるよ。僕はすごいからね。でも、これの完璧な複製品は作れない。僕が素晴らしい存在であり続ける限り、きっと神様が力を貸してくれないだろうから。
レインハルトはそのゼロの数にちょっと渋い顔をしていたけれど、出せない額ではないらしい。さすがお貴族様。
寝こけていた親父さんを叩き起こして、ちゃんとラッピングまでしてもらう。財布の中身を数えるレインハルトが遠い目をしていたような気がするけれど、気にしないことにしようね⭐︎
僕たちが店を出れば、外はすっかり夜の帳が下りていた。夕暮れは綺麗だけれど、すぐに闇に包まれてしまうのが難点だよね。夜は夜で、星々の輝きが美しいから僕は好きだけれど。
そんなことを考えていたからだろうか。屋根の上の方から、にゃあ、と猫の鳴き声がした。
「うっわ」
僕は思わず全身に寒いぼがたったような気がした。また随分と機嫌を損ねた猫の鳴き声だった。
「猫かな?」
呑気に屋根の方を見上げるレインハルトの脳天を叩き割りたいところだったけれど、どうにかその衝動を堪える。
僕は2人に向き直って言った。
「今日はもう遅いですし、僕もやることがありますし、やっぱり詳しいことは明日にしましょう。ロナウドの妹さんに会いにいくのもね」
バチン⭐︎ とウインクまでつけてあげる。僕の美しさと合わせて特盛セットだ。
それに呼応するように、もう一度、屋根の上から、「にゃあ」と声が聞こえてきた。
2人がそれに気を取られている隙に、僕はその場から逃走する。すぐそこの路地裏に入って、魔法を使い、僕も屋根の上まで上がる。衛星の光と星々の輝きに照らされて、僕の髪がキラリと反射する。
上から2人が行ったことを確認してから、僕は呟いた。
「もう出てきて構わないよ」
すぐに闇から、ぬっと現れた大きな猫(仮)が、僕に後ろから抱きついてくる。
「主!」
「くっつかないでよ、暑苦しい」
うちの可愛い犬は、ご主人様の帰りを待っていましたとでも言うように、僕に抱きついて離れない。多分見えない尻尾がぶんぶんと振られているのだろう。かわいいやつめ。
僕の犬こと、テオは、彼らを見下ろして言う。
「あんな奴らを手伝ってやる義理などないというのに」
「そういわないの。かわいいものじゃない。犬みたいで」
「主の犬は俺だけで十分です!」
「それはそうなんだけどさぁ」
薄汚れたマントで身を隠す彼は、正式名称をテオドア・リ・グレイスフォードという。明るい茶髪に、僕とお揃いの翡翠の瞳。伸ばした襟足を一つに縛り、左目に泣きぼくろが一つ。
どこかの誰かさんが街の女性たちからキャーキャー言われるような世界なら、これもまたその手の男だ。
「それで、どうせ話は聞いてたんでしょ?」
「まさか公子様が生きていらっしゃるとは思いませんでした」
「向こうも同じことを思ってるだろうね」
ようやく僕から離れたテオは、花弁に塗れた街を見下ろしている。
僕を絶対と仰ぎ見るこの忠犬は、僕がベリル家を追い出されたところから——なんならその前から、僕のことをどこかから見守っていたに相違ない。そういうことをするやつだ。
シュウ・ヘルゼン。
レインハルトたちから聞いた話を僕も反芻する。その公子は僕のよき遊び相手であり、一応ライバルという関係でもあった。
「きみに弟がいたなんて知らなかったよ」
「弟くらいいますよ。腹違いですけど」
意趣返しのつもりで言ったのだけれど、冷静に返されて困る。
庶子だという話は前々から聞いていたけれど、普段は偽名を使っているし、本名なんて僕も忘れかけていた。
なんとなく、テオの顔を見つめてみる。確かにその顔だちが、レインハルトと似ている。
「随分そっくりだったけど。お父さん似?」
「……そんなに見つめないでください」
今更何を恥ずかしがろうというのか。
とはいえ耳を赤るその反応は可愛らしいので、許してあげよう。
これはぜひ、グレイスフォード卿とも会ってみたい、というのは置いておいて。
「そろそろ行こうか。迎えにきたんだろう?」
「ええ」
夜は更けていく。僕たちはその闇に紛れるように、「ギルド」へと向かった。