近衛兵×王子 3
毎日毎日変わらない日々。
「つまんないわね……」
ドレスを着つけてくれる侍女にも聞こえるよう零せば「平和が一番ですよ」とコルセットを締め上げられた。
「いたた、ちょっとキツいんですけれど……」
「緩めではなんの意味もありません。折角お呼ばれされたのですから、少しはおめかししてくださいな」
「一応婚約者のところに行くのだから、無駄に着飾る必要はないんじゃないかしら」
そう。今日はゼクノアから私情のパーティにお呼ばれしているのだ。
この国、リンゴーク国とゼクノアの国、トーカイ国との境に、ゼクノアが別荘を建てたという。こちらとの関係をさらに強固なものにして、逃さないつもりなんだろう。
ま、私は逃げるつもりは毛頭ない。というより、ゼクノア自身が乗り気ではないのだから、この婚約も別荘も、そのうち無駄なものになるのではないか。
「ルナセレア様、逆でございます。婚約者である貴女がきちんとしなければ、ゼクノア殿下の品位も下がってしまうのですよ」
「はぁ、わかりました」
言われたことが理解出来ないわけじゃない。
婚約者である以上、私はゼクノアの、ひいてはトーカイ国の縁者になるのだから、下手な振る舞いは印象に悪い。ゴリラがバレた日には自国の品位すら下げかねないし。
「護衛は? もしかしてフォガス様だけ?」
「えぇ、今日は私情のパーティですからね。こちらからも、あちらからも、必要最低限の護衛しか出さないようです」
「そう」
ならばなおさら都合がいい。こちらからはフォガス一人、つまりあちらも一人か、多くて二人ほどの護衛と、付き人がいるくらいか。そいつらの目を盗んで、隙あればゼクノアとフォガスを二人きりに。
「ふふ。楽しみだわ」
ということで、侍女一人とフォガスを連れて、私は別荘への道を、馬車に揺られていた。
片道馬車で二時間の道のり。無言で揺られ続けるには、多少長い道のりだ。
「ねぇ、フォガス様。貴方はご結婚なさらないの?」
あまりにも暇すぎてつい聞いてしまった。
フォガスだけでなく、隣に座る侍女の顔も引きつったのが手に取るようにわかる。
「……するつもりはありません」
「でも縁談がないわけではないんでしょう?」
名のある貴族で、剣の腕もあって、一応第二王女の近衛兵を単身努めているのだ。貴族のご令嬢からすれば、喉から手が出るほど欲しい良物件のはず。縁談が来ないわけがない。
「はぁ……、興味がないんですよ」
「それはあれですか、つまり女性には興味がなく、本命は男性だということですか!? それとも本命がいると捉えて間違いありませんか!?」
「……」
フォガスの冷たい視線で我に返る。つい前のめりになってしまった自分を制して「すみません」と誤魔化すように微笑んだ。
隣の侍女は変わらず引いてるけど、フォガスは私の言葉なんて気にも止めていないようで、浅くため息をついてから窓の外へと視線をずらした。
「……王女が結婚したら、俺もしますよ」
それはあれ!? 私がゼクノアと夫婦になったらゼクノアのことを諦められるから、早くゼクノアと夫婦になれってこと!?
ところが残念。私はゼクノアと結婚するつもりはないし、ゼクノアも婚約破棄したがってるんだな、これが。
だからフォガス。貴方にもチャンスは多いにあるのですよ。とは流石に言えないので。
「主の幸せを優先するだなんて。いい近衛兵を持って私は幸せです。でもフォガス様、どうか自身の幸せも願ってくださいな」
と優しい笑みを向けて、近衛兵思いの王女の皮を被った。隣の侍女からは「王女……」と感激された。