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近衛兵×王子 2

 近衛兵、フォガス・ルヴァサイド。

 婚約者、ゼクノア・へプシー・シウファロス(もう様をつけるのはやめた)。


 この二人を眺め、妄想に浸るのが私のここ五年ほどの楽しみだったというのに。

 まさか両片思いだったなんて(絶対違うけどたぶんそう)。

 つい最近、ゼクノアからフォガスが好きだと打ち明けられてから、私は一層二人を観察して楽しんでいた。


 といったところで、しょっちゅう二人が会えるわけでもなければ、私抜きで逢瀬出来る関係でもない。フォガスは真面目だ。私の近衛兵である以上、私から離れないし。


「どうすれば進展するのかしら」


 独り言を漏らしながら、剣の稽古の用意をする。

 父様も母様も、もちろん侍女も含めて、私が剣を握ることを良く思っている人間はいない。それでも私が剣を握るのは、教養以外の何かを身につけるため。

 第二王女といえば聞こえはいいけど、兄様が二人と姉さまが一人いる。天変地異でも起こらない限り、私は(とつ)がされるのは決まっている。だから私は剣を取ることを選んだ。

 身体を動かすのも好きだったし。


「さ、フォガス様。今日こそ本気で打ち合いましょう」


 訓練で使う模擬剣を右手に構え、隅に突っ立ったままのフォガスへと剣先を向ける。早くしろと言わんばかりに少し揺らせば、彼は面倒くさそうにため息をついた。


「いや。何度も言っておりますが、俺は」

「問答無用ですっ」


 地面を蹴り、中段に構えた剣先を、迷いなくフォガスの胸元へと突き出した。フォガスはそれを高く飛び上がりかわしてみせると、空中で身体を捻って、難なく私の背後へと降り立った。


「こ、の……っ」


 腰を使って上半身を捻り、その反動のまま剣を後ろへと薙ぎ払う。フォガスはそれを屈んでかわし、柄を握る私の腕を掴んだ。


「ッ……」

「振りが大きく、隙がデカい。王女はもう少し、その早さを生かした身体の使い方を覚えたほうがいいかと」

「もう! またそうやって……」


 文句のひとつでも言ってやろうとして、パチパチと乾いた手の叩く音が訓練場に響いた。そちらを見れば、今日は来る予定のないゼクノアが佇んで手を叩いている。


「ゼクノア様!? 今日はこちらにいらっしゃる予定ではなかったと記憶しているのですが……」


 慌てて駆け寄れば、ゼクノアは「いきなり申し訳ありません」と深々と頭を下げた。私は模擬剣を腰に差してからゼクノアを制した。


「近くまで寄ったので、少しお顔を見ていこうかと思いまして」


 そう微笑んだゼクノアの視線の先には、もちろん私、ではなくフォガスがいる。フォガスもフォガスで、それに気づいているのか知らないけど、私には見せないような優しい眼差しを向けている。

 この二人やっぱりそうなの!? つか、え、これってもしや。


「エアキス!?」

「エア……?」

「なんでもありませんわ、ゼクノア様」


 危ない危ない。

 私は深呼吸を何度か繰り返して「そういうことだったのですね」と同じように微笑んだ。


「それにしても、ルナセレア殿の剣技は素晴らしいですね。フォガス殿に教えを?」

「あ、いえ、これはフォガス様のお師匠様からです。今は放浪の旅に出ているのですが、昔は、この国の専属指南役だったのですよ」

「あぁ、それで今はフォガス殿に習っているのですね」

「はい」


 お師匠様はフォガスに一応頼んではくれたけど、フォガスはそれを快諾はしなかった。でもまだ相手をしてくれて、アドバイスもくれるのだからマシかもしれない。

 それはそれとして、折角二人が会えたのだ。ここで帰すのは勿体ない。


「そうだわ、ゼクノア様。もしまだお時間があるのでしたら、ゼクノア様もフォガス様に教わってはいかがでしょう」

「え、僕が、ですか?」


 遅れてこっちに来たフォガスが、明らかに嫌そうに顔をしかめた。けれどここで折れるわけにいかない。


「ね、いいでしょう? フォガス様!」

「……はぁ」


 深々とため息をついたぞ、こいつ。一応私は主なのに。主になんて態度だ。減給してやるんだからな!

 そう考える私を他所に、フォガスはゼクノアを一瞥して、


「そもそも、持つ必要がないでしょう」


(もっと)もな意見を言ってきた。

 そうだけど。確かにそうかもしれないけど! けれどそうじゃない。私は口を挟もうと「でも」とフォガスに食い気味に迫ったけれど、それは次の言葉で成りを潜めた。


「俺は、殿下のそのままの手が好きですよ」

「フォガス、殿……」


 どういうこと!?

 これはあれか? 『俺が守るからゼクノアは剣を持つ必要がない』ってことか? それともやっぱり細くて華奢なほうがいいってこと!?


「どっちにしろ、いい……。尊い……」


 両手を合わせて二人を堪能していると、フォガスが「それでも」とゼクノアの右手を取った。


「もし本当に剣を握るおつもりなら、殿下は身体が柔らかいので、その柔軟性を生かしたやり方が合っているかと。力はそこのゴリラ主が有り余っておりますので」

「ちょっと、口の利き方には気をつけてくださいまし」

「……御意」


 一応は主なので、諌めてはおく。

 にしても、とゼクノアを見れば、やっぱり耳まで真っ赤にして俯いてるし。フォガスは握った手を指先で弄んでいるし。しかも嬉しそう。好き(この光景が)。


「や、やっぱり僕、今日はこれで失礼いたしますね。王女、また」

「え? えぇ、また」


 ゼクノアは振り払うようにフォガスの手を解いて、そそくさと行ってしまった。せめてお見送りを、と思ったけど、予想以上に帰るのが早くて出来なかった。

 そこで今湧いてきた疑問を、フォガスにぶつけてみる。


「ねぇ、フォガス様。ゼクノア様が柔らかいって、なんで知ってるんですの?」

「……早く剣を構えてください」

「話題反らすの下手か!?」


 どうやらこの二人、何かあるらしい。

 もっともっと暴いて、しっかり応援しないと!

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