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近衛兵×王子 1

 フォガス・ルヴァサイド。

 幼少時から剣の扱いに長けていた彼は、僅か十歳で王宮闘技大会に優勝した。その手腕と、私と年が近かったことも重なって、すぐに彼は私の近衛兵となった。

 昔から無口ではあった。けれどそれは成長するにつれ、彼の見た目の良さと相まって、彼の人気の高さの一因になっていったのは、間違いないと思う。



※※※



 そんな彼、フォガスとゼクノア様が出会ったのは、私が十三歳、フォガスが十七歳、ゼクノア様が十八歳の頃。


「初めまして、ルナセレア王女。隣国、トーカイ国の第三王子、ゼクノアと申します」

「こちらこそ、御足労頂き感謝します。第二王女のルナセレアです」


 ゼクノア様の第一印象は“ネコ”だなこいつ、だ。

 身長は一六五センチで、なんというか、そう。受けの雰囲気がすごい。

 例えばそれは、二人でお茶をする際、カップを両手で持つところとか、笑う時に少しはにかむところとか、筋肉があまりついていないところとか。挙げればキリがないくらい。


「ゼクノア様は、その、私よりもとても繊細な方、なのですね」


 二人で中庭に咲く花々を眺めながら、そんな他愛ない話を投げかけてみる。ゼクノア様は「お恥ずかしながら……」と目線を下げながら、


「兄たちと違って、あまり体格には恵まれておらず……。なのでせめて座学をと思ったのですが、そちらも二番目の兄のほうが優れておりまして」


と緩めた頬を人差し指で搔いた。

 本人ははっきりと言わなかったけれど、恐らく、トーカイ国で、ゼクノア様は邪魔者扱いされているのだろう。というのも、トーカイ国は、この辺り一帯では一番大きな国で、流通の中心となっている。

 武に秀でた第一王子、知に秀でた第二王子。どちらももたない第三王子。だからこそ私、つまりこの国と縁を繋ぐことで、こちら側にも国力拡大を計っているのだろう。


「ゼクノア様もご苦労なさっているのですね」

「そんなことはございません。ただ、兄二人が僕なんかよりデキがよかっただけのことです」

「あまりご自分を卑下なさらないでくださいませ」


 うーん。この幸薄い感じといい、儚げな雰囲気といい、総受けだな、やっぱり。

 私はゼクノア様の儚げな横顔を眺めながら、ゼクノア様ならトーカイ国でも違った意味で人気がありそうだな、なんて不躾なことを考える。


「騎士から無理やり……、いや純愛物がいいな。そうすると身分違いで国民か? いやいや、それはちょっと立場が離れすぎてるし。王道は騎士×王子だけども、自国の騎士だと面白くないな……」

「あの、ルナセレア王女?」

「へっ?」


 呼ばれて気付いた。どうやら途中から口に出てしまっていたらしい。

 私は誤魔化すようにやんわりと微笑んで「申し訳ございません」と謝罪を述べる。ゼクノア様はおかしそうに笑っただけで、特に追求はしてこなかった。


「ところで王女」

「はい、どうされました?」

「あちらに控えているのは、もしや噂の……」


 ゼクノア様が示したのは、少し離れた場所に待機していたフォガスだ。一応こちらに気を使っているのかは知らないが、私たちから十メートルほど距離を取りつつ、いつでも出れるようにと控えている。


「フォガス様、でしょうか」

「やはりルヴァサイド家の御子息でしたか。噂はこちらにも届いております。なんでも国随一の剣の使い手だとか」

「らしいのですが、私、フォガス様が本気で剣を振るっているのを見たことがないのです」


 嘘ではない。

 実は私、こう見えて剣の腕には自信がある。傍からゴリラ王女と呼ばれているのも伊達じゃない。

 だから以前、フォガスに『仕合をしましょう』と申し出たことがある。彼は無言で、心底嫌そうな顔をした後、特に剣を使うこともなく私の背後を取ってしまった。

 王女の私を傷つけてはいけないのはわかる。だから他の騎士にも聞いたのだ。『フォガス様はお強いの?』と。誰もが口を揃えて言った。『あれはまるで嵐のようだ』と。


「それはとても良いことですよ。争いなんて、ないほうがいいに決まっているのですから」

「そうですよね。私もそう思いますわ」


 ……あ。

 いるじゃん。身分の違う、国も違う、さらに婚約者がいるけど、本心ではお互い想い合っているという美味しい二人が。

 この際、婚約者ポジに私がいるのが一番納得いかないが。


「ねぇ、フォガス様!」


 控えるフォガスに手を振って、こちらへ来るように促した。

 彼は面倒くさそうに、でも主である私に逆らうわけにもいかず、だいぶん気怠そうに歩いてくる。


「……お呼びでしょうか、王女」

「えぇ、呼びましたわ。私の婚約者ならば、貴方にも紹介したほうがいいかと思いまして」

「紹介も何も、ゼクノア様を知らない者などいないでしょう」

「いいじゃない。お互い面識があるほうが絶対いいんですから」


 適当な理由をすらすらと吐きながら、二人並んだ姿を目に焼き付ける。

 うん。身長、容姿、そして二人の年齢と関係性。


「完璧だわ」

「何がですか、我が主」

「結婚への道のりです」


 もちろん本音は、違うのだけど。

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