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無題  作者: 清水
プロローグ
2/2

1章 不変

1章です


「ありがとうあごさいました。」

街の一角にある異質な雰囲気を漂わせる少年院。意志の鉄の門に軽く頭を下げて私はその場所を後にした。

少年法で守られていた私は12の時に父を刺殺しはしたものの、家庭内環境や性的暴行を刺せられていたことにより、実刑6年という期間で釈放された。

本当のことを言えば父を殺したあのあと死んでしまいたかった。けれど死ねなかった。一度自分の首に突き立てた包丁は震えていて、少し切り傷を付けた辺りで私は自首をした。まだ生きたいと拒んでいたのだ。心はもうとっくに死んでいたのに、身体と同調して息を吹き返すように都合よく生きたいとなどと我儘を押しとうしてきた。

これからどうするべきなのかも分からない。初めて歩いた赤子のように平衡感覚すら失っていた。

そんな状態で約1時間さまよい続け、大きな街に出た。街灯がキラキラとひかり、無数に居る人と立ち並ぶビルに嫌気が差した。

「お姉さんかわいいね!これから暇?ご飯でもどう?」

まただ。またここでも色目を使われて、都合のいいように使われて捨てらるのだろう。

もうどうでも良かった。

「そうね。わからないならもういっそ…」

「お、遅れてごめん!待った?行こっか!」

「っ…んだよ彼氏持ちかよ。」

一瞬の出来事で錯乱していた。この人はなにを言っているんだろうか。なぜ私を助けたんだろう。そんな考えが私の脳内に循環していた。好意なのか偽善者なのか、自惚れているのかはどうでもよかった。

「ありがとうございました。助けて頂いて。」

思ってもないことを口にした。こうすればすんなり帰ってもらえると思ったから。

「い、いえ。それより大丈夫でしたか?」

「はい、おかげさまで。」

「良かった、では僕はこれで。」

「あの、お時間あればカフェでも行きませんか?お礼がしたいので。」

私は何を言っているのだろう。少年院時代に稼いだ約3万円という少ないお金を無駄にしたかったのか、ただの気まぐれなのかはわからない。でもこの人に使うのが正しい。そんな気がした。


自分からお礼がしたいと言ってしまったが、六年間歩いていなかった街並みは、まるで別の世界にに居るような感覚だったので、私助けてくれた男性が行きつけの店だと言う、街外れの年季のあるカフェに案内してもらった。

「アイスコーヒーを1つ。」

「僕はホットコーヒーで。」

注文を終え席に着くと沈黙がしばらく続いた。何か言いたげに男性の口元がモゾモゾと動いている。ふーと一息をつき

「まずは自己紹介からですかね。僕の名前は遥斗。土田遥斗です。今は大学三年生で、今日は学校の帰りだったんですよ」

大学生か、私にはきっと縁のない話だろう。

「私の名前は黒瀬椿です。今は無職です。」

タイミングを見計らっていたかのように注文したコーヒーがテーブルに置かれた。

「椿さんと言うんですね。素敵な名前です。」

「そうでしょうか。あまり自分の名前にそういった感情をもった事がないので分かりません。」

「そうですか?凄くいい名前だと思いますよ!」

無責任な言葉だ。私の事なんて知らないくせに。

「うぇっ…」

ブラックコーヒーの苦さと酸味に思わず声が出た。

「大丈夫ですか?お水注文します?」

「大丈夫です。最近は水とお茶しか飲んでいなかったので、少しびっくりしただけですから」

あまりにも不味い。とてもでは無いが人間が飲む飲み物ではない。これを飲む人の気が知れなかった。

「こうすると飲めますよ」

そう言うと彼は手元の砂糖をティースプーンで5杯ほど入れた後、コップにミルクを一回しさせ意気揚々と飲み始めた。

「飲んでみますか?」

気乗りはしなかったが渋々飲んでみた。

「飲めますね。」

甘かった。6年間甘味を味わうことがなかった衝撃か、口角が少し上がっていた。

「美味しそうに飲んでくれて嬉しいです。」

子どもを見るように微笑む彼を見て悪い気はしなかったが、同時に少し恥ずかしかった。

「その髪綺麗ですね、染めてるんですか?目もカラコンですかね?凄く似合ってると思います。」

「いえ、これは自前です。アルビノってご存知ですか?局所的ですけれど、生まれつき目も髪もこの色なんです。」

正直に言えば褒められていい気はしなかった。私は憎んできた。これのせいで何度も不幸なったのだから。

「そうなんですね!でもすごく綺麗です。」

まただ。身に覚えのないこの感覚はなんだろう。少し暖かいそれでいて、包み込んでくれる。そんな感覚だ。

「良ければLINE交換しませんか?またあなたとこういう風に話したいので。」

彼の顔は少し赤面していて、そわそわとして落ち着きがなかった。そんな彼の表情から勇気を出して伝えてくれたことを感じ取れたのだが

「ごめんなさい私連絡手段を持ってないんです。なので、今日が最後かもしれません。」

「なるほど、そうなんですね。」

彼には申し訳ないが、私とは今後関わってほしくない。

「それなら暇な時ここに来てください。僕実はここでバイトしてるんです。それ以外もほぼほぼ毎日居るので。もし良かったらですけど。」

「分かりました。時間がある時またお伺いします。」

その会話の後私はまた街に戻った。


不思議な体験だった。一瞬の出来事だったが、余韻がいつまでも消えない。人の暖かさとはこんなにもいいものなのだろうか。

「って…気を付けろよ。趣味の悪い髪色しやがって」

ぶつかった人からの罵声だった。足を滑らせて転んでしまった僕に注目が集まっていた。通り際に烏合の衆が私を物珍しそうに見ていた。

囁く声、嘲笑の数々、私を目の敵にする人も居た。

少しは変われると思っていた。変わりたいと思っていた。なんだ、変わってない。変われない。ここに私は必要なかった。そう再認識した。

読んでいただいてありがとうございました。

感想レビュー等よろしくお願いします。

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