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第82話 試薬の臨床試験じゃないけど……

「そこまでするでしょうか?」


「実際君の杖は壊され犯人はフェリシアだといううわさを流された。杖を壊すことのできた人物は、可能性から考えてミリアだけだ」


 リーニャは顔をこわばらせた。

 信じたくない気持ちはわかるが、不可能なものをすべて取り除き残ったものが、どんなに信じられなくても、それが真実なのだよ。


「私が危惧しているのはミリアの強い思い込み、それともう一つ『ゲームの強制力』だ。それぞれの人間がどれだけゲームとは違う性格と意思を持っていても、別の形で起こるべき事件が起こってしまうというやつさ。実際君の持ち物はフェリシアが壊さなくてもほかの人間(ミリア)に壊された」


「ゲームの強制力のせいでミリアが強くこだわっているってことはあり得ますか?」


 ミリア自身をまだ信じたいという思いがリーニャにはあるのだろう、だがしかし……。


「強制力に人の心を操作できるほどの力あるなら、ミリアではなくまず君がやられているだろう。全くないとは言い切れないから警戒しておくに越したことはないが」


「具体的にはどんな?」


「強制力があると仮定したなら、次に君に起こるであろうトラブルは『制服をずたずたに破かれる』とか『階段から突き落とされる』だろうな」


「どっちも困ります! 怖いです! 制服は無料で支給された一着だけだし、階段落ちなんて下手すりゃ命にかかわります!」


 事の深刻さにリーニャがビビり始める。


 少し脅かしすぎたかもしれないが、可能性がある限り、警戒は必須だ。


「そこで提案なんだが、これを使ってみないか?」


 私はすかさずアトマイザー型の小瓶をリーニャの前に差し出した。


 小瓶の中に入っているのは現在ヴァイスハーフェン家が開発中の魔法薬。

 効果も安全性も問題はないが、まだ実践で使ったことがない。


 私は試しに自分のハンカチにその薬を吹きかけた。


「このハンカチで何かしてみてくれないか?」


 リーニャはけげんな表情をしながら手渡されたハンカチを折りたたんだ。

 彼女が一通り触ったハンカチを私は受け取り、ペンライトのような形の道具から魔力の光を照射する。すると先ほどのリーニャの映像が浮かび上がった。


「物体に残る残留思念を読み解くのを、日本でも『サイコメトリー』と言っていたよね。それを可視化できる薬品なんだ」


「スゴイ……」


「これを制服をはじめ、君の持ち物にふりかけてくれれば、何か良からぬことをされた場合に犯人をすぐ特定できる。効果は一か月ほど持続するからそれで様子を見るっていうのはどうだろう?」


 乙女ゲーム対策というより新しい魔法薬の臨床試験という感が無きにしも非ず。

 こんなんだから、マッドサイエンティスト扱いされるんだな、うん。


 リーニャが了承し話がひと段落した矢先、また受付嬢が部屋に入ってきて私に耳打ちした。


「やれやれ今日は千客万来だな」


 やってきた客を迎えるため私は席を立った。



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