第74話 親友とケンカ【リーニャ視点】
バルドリック・ヴィンクラーが学園を辞めたことを聞いた日、寮に帰ってからミリアに例の件を話した。
「バルドリックともめた? 聞いてないよ!」
「言ってないからね。エミール王子も絡んでいたし……」
「王子も! そんな重要なことをどうして?」
「いや……」
そういえばどうしてだろう?
しいて言うなら、王子の攻略を私にプッシュしてくるミリアに言うと面倒なことになりそうだったからかな。
「あのさ、この際言っておくけど、私はエミール王子を攻略というか、結婚を想定してのアプローチなんてしたいと思ってない。言っちゃ悪いけど、性格的に最悪。婚約者のフェリシアに同情しているくらいなのよ」
ミリアは驚いたような失望したような表情をする。
友人にこんな顔をさせるなんて、と、心が痛みもしたがが、いずれ言わなければならなかったことだ。
ミリアの言うところの「攻略」、すなわち恋愛関係になることをいくら推奨しても、私には全くその気がない。定められた「運命」を言われても、すでにいろいろとゲームと違うことが起きているんじゃないの。
ミリアだって生徒会室でつぶやいていたよね。
シナリオから外れたことばかりだって。
でも、そしたら今度はこう聞いてきた。
「あなたは自分の勝手でパート2のシナリオまで台無しにする気なの?」
パート2?
初耳だわ。
「あなたが王子と結ばれて王宮に出入りするようにならないと、私のパート2も始まらないでしょう」
「だから、私にずっとエミール王子を勧めていたの?」
「…っ! だから、それが運命で……!」
「勝手なのはどっちよ! あなたの都合で、私は好きでもない人と恋愛関係になって結婚しなきゃならないの? 冗談じゃないわ!」
こんなに喧嘩したのは初めて、私の意思まで無視してゲームのシナリオに固執するミリアの考えをどうしたらいいのか?
こんなこと学園内の生徒には言えない。
そもそも『乙女ゲーム』という概念自体、理解してもらうのは難しい。
八方ふさがりだと思いながら廊下を歩いていると、掲示板に目新しい広告が貼ってあったのに気づいた。
『お悩み解決 他人には言えない面倒ごとお話しください。相談は無料、秘密厳守』
住所は学園の生徒がよく買い物やお茶を楽しむために行く繁華街の一角だった。
よろず何でも相談所みたいなところの宣伝?
でも、学園の掲示板の張り出しは生徒会も内容をチェックするのだから、怪しいところじゃないよね。
学園内にも学生の悩み相談を受ける部署があるけど、生徒会もかかわっているので、私の相談には不向き。学園外ならこっそり話だけでも聞いてもらえるかも。
あの口論以来、ミリアとは口をきいていない。ミリアとは同じ寮、同じクラス、同じ生徒会なので、ずっとその状態はさすがにきつい。できるだけ早くこの状態を解消したい。
そして休みの日、ミリアには知らせず私は一人で街へ出た。
繁華街の大通りを少し裏道に入ったところ、『ダイネハーフェン』という看板のある所の扉を開けた。




