第70話 切り捨てる覚悟【シュザンナ視点】
「フェリシアのみならずシュザンナにまで。女生徒たちに対する暴虐な態度、生徒会長と学園長にはしっかり報告させていただきます!」
バルドリックに相対してきっぱりとハイディは告げた。
「おい……」
今度は小さな声でバルドリックは私に言ったが、私は無視した。
バルドリックは小さく舌打ちをしてその場を去っていった。
「ああ、これでまたバルドリックはお父様に私が良からぬことをしたように言いつけるわ」
そう自分の都合の悪いことはしっかりと伏せたうえで……。
ほほに手を当て私はため息をつく。
「いつもあのような感じなのですか?」
フェリシアが理解できないという表情で聞いた。
「そうらしいの、ごめんなさいね、フェリシア。あなたも災難だったわね」
ハイディが言う。
「そうですか。今回のことは申し訳ないけどなかったことにはできないので、帰宅したらすぐ父に報告して、あの方の家にも抗議の意を申し伝えることになると思います」
フェリシアは言う。
「いいわね、ぜひやっちゃって! あのバカ、ごほっ……、いえ、バルドリックはシュザンナにしているひどい態度が、他でも通用すると勘違いしているんじゃないかしら。それで痛い目会えば考えるでしょう。考える頭があればの話だけどね」
ハイディは嬉々として告げた。
フェリシアは軽く笑い、その後、私たちから離れていった。
私は自分さえ我慢すればと思っていた。
どうせ、訴えたところで誰も聞いてくれない、逆に私が悪い、私がワガママを言っている、そんな解釈をされるのですっかりあきらめていた。
でも、そのせいで他の方々にまで迷惑がかかっているのなら、私がこれ以上、彼らに逆らわないのは正しくないのかもしれない。
「今日はうちに来る? バルドリックがそんなことをするのなら、あなたがいやな思いをする可能性もあるし……」
ハイディは提案してくれ、渡りに船とばかりに私は了承した。
その日は従姉たちとともにクラウゼ家に向かい、父には屋敷についてから使いを出し、しばらく帰らない旨を伝えた。
従姉たちの父君のクラウゼ伯爵にも先ほどの件や婚約者の今までの振る舞い、それに対する私の気持ちを話した。クラウゼ伯爵は真剣に耳を傾けてくださり、その後、弟に話をしてくるとカペル家へと向かってくださった。
「まったく、思い込みが強く人の話を理解しないのは相変わらずだ」
帰ってきた伯爵がそうぼやいた。
話がうまく進まなかったことは想像できたが、恐る恐る尋ねてみる。
「ああ、なんていうか、君が嫌がっている可能性というのを全く想像できないみたいなんだ」
伯爵は説明する。
「これはもう動かぬ証拠がいるわね」
「バルドリックの蛮行を第三者の目にも明らかにするってことね」
横で聞いていたアデリーとハイディが言う。
「証拠というけど私がいくら説明しても聞きいれてくれなかったのよ」
私は過去の無念を思い浮かべる。
「だからこそ第三者が見て客観的に判断できる材料が必要なの。最悪、あなたのお父上が理解してくれなくても、客観的な証拠を持ち込めば婚約解消の手段はいくつかあるわ」
「今日のフェリシアへの因縁なんてそれね」
アデリーとハイディが言う。
「ちょっと待つんだ、二人とも。そうなると、シュザンナに対して実の父親ではなく別の誰か、親権を持った存在が必要だ。それで婚約解消を成立させることは可能だが……。うちとしては娘がもう一人増えるだけなので別に構わないが……」
二人の父親のクラウゼ伯爵が言う。
私の覚悟が問われてるみたいだ。




