第68話 押し付けられた婚約【シュザンナ視点】
物心ついてすぐに私はヴィンクラー家の三男バルドリックと婚約をさせられた。
母は私が幼いころに亡くなり、カペル家の子どもは長女である私だけ。
ゆえに私は婿養子を取って家を継がねばならぬ立場だった。
その相手として、父の学生時代からの親友ヴィンクラーの息子の中から、私と同い年のバルドリックが選ばれたのだ。
お互いに子供が出来たら結婚させようなんて約束、物語ではありがちだけど、幸せなのは約束している親たちだけだわ。
初顔合わせの時に思ったのは身体の大きな子だな、と、いうことだった。
年の割に発育の良い子が子供同士の付き合いの中で大きな顔をすることはありがちなこと。相手を威嚇しさえすれば思い通りにできるのが習い性となっていた彼は、私に対しても同じような態度で接してきた。
私はその態度に恐怖を覚え、彼と結婚するのは無理、と、父に何度か訴えたことがある。
「少々ヤンチャが過ぎるが、男はあれくらいの方が頼もしいぞ」
父は私の頼みを軽くいなすだけだった。
「まだ子供なので、女の子の扱いに不器用なところがあるのです。長い目で見てやってください」
バルドリックの両親もそう言って息子のバルドリックをかばっていた。
少々ヤンチャ?
女の子の扱いに不器用?
腹が立ったと言って突き飛ばされたことも何度かあるのに?
十代半ば頃からはお互いの意思や考えがはっきりしてくるけど、彼は私が違う意見を言うと、それだけで生意気だというし、理路整然と説明しても、それで自分が言葉につまると大声を出してくる。
私自身もすっかり洗脳されていた。
自分の言葉を否定されたり脅されたりする、それが当たり前である環境。
それが当たり前でないと気付いたのは。二歳年上の従姉のアデリーとハイディの家に泊まりに行きおしゃべりをし、のびのびとした解放感を感じたから。
そして入学後は、彼女たちが役員を務めている生徒会に私も参加させていただけるようになり、今まで以上に一緒におしゃべりする機会が増え、ますますバルドリックの態度に疑問を持つようになった。
サラ会長やペルティナのようにはっきりと自分の意見を言うことのできる女子を、バルドリックは私にだけ「でしゃばり」「ずうずうしい」と、非難し、あんなふうになるな、と、言う。
「本人に直接言う根性はないわけね」
「図体でかい割にはけっこう小心者なのかも」
従姉たちの指摘のおかげで、彼の言動で引っかかっている部分が、具体的に言語化される。
「私たちだけだと、こんなにいろいろおしゃべりできるのに、生徒会室にいるあなたはまるで借りてきた猫のよう」
「正直に言わせてもらえば、あいつに、あなたの本当の可愛らしさや賢さがわかっているとは思えない、そんなやつのものになってしまうなんて、もったいないにもほどがあるわ」
ただ、そんなことを言われても、決定権は私ではなく父にあり、父は私が何を訴えても、バルドリックの横暴で傲慢なところはすべて、まだ年若いが故の未熟さで片付け、私がそれを『大きな心』で見守らないといけない、と、いうことで、済まされてしまうのだ。
シュザンナとバルドリックの婚約解消編は少々長くなる予定です。
飽きずに読んでいただければうれしいです。




