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第64話 しょせんチワワ【リーニャ視点】

 私は精一杯にらみつけたが、体格的にはライオンに挑むチワワ。


 バルドリックは逆らわれると思ってなかったのだろう。

 顔がみるみる赤く厳しくなった。

 王子も今まで自分が頼めば、誰もが快く引き受けてくれるのが当たり前だったのだろう。

 驚きと失望を隠せないような表情をした。


「なんだ、王子に対してその態度は!」


 バルドリックが私の腕をつかみ怒鳴りつけた。


「きゃーっ! 暴力を振るわないでください!」


 これ以上相手の思うとおりにさせていたら、それこそ人気のないところに連れていかれて脅され要求をのまされるかもしれない。

 そんな危険を感じた私はわざと大声を上げた。


 すると、今まで私たちを遠巻きに見て通り過ぎていただけの学生たちが足を止めてこちらを見始めまる。


 これにバルドリックは少し慌てて、おい、と、私を小声で咎めようとした。

 しかし、この二人の態度には腹に据えかねており私はすでに臨界点を超えていた。


「王子殿下と騎士団長のご子息ともあろう方々が、自分の利益のために無実かもしれない女性をおとしめるなんて心底失望いたしました! そもそも、王子殿下がフェリシアを生徒会室であれだけ非難されていたのも不信感一杯だったんです。察するに、成績一位のフェリシアに王宮での仕事を助けてもらい、二位の自分が生徒会の仕事をしてるんじゃ恰好がつかないから事実無根の悪口を吹聴していたわけですか? この男のクズ! いや、人間としてもクズ!」


 あ~あ、言っちゃった。

 皆の注目を浴びた状況で今までのもやもや思い切りぶちまけちゃったよ。


「この、王子に対して不敬だぞ!」


 バルドリックが手をふり上げる。

 殴られるパターンかな、これって……。


「そこまでだ!」


 誰かが後ろからバルドリックに近づき、彼の腕をつかんで制止をした。


 フォーゲル先生。

 バルドリックよりはるかに細身なのに、彼の腕をつかんで制止させるとは。


「いくら性別による区別はないと言っても、体格のいい君が女生徒に暴力を振るおうなんてほめられたふるまいじゃないね」


 フォーゲル先生はバルドリックの腕をつかんでいる手に力をこめ言った。

 バルドリックは痛みに顔をしかめ、しばらくそれが続いた後、先生は彼の腕を放した。


「しかし、この女生徒は王子に不敬な発言を!」


 バルドリックは傷んだ腕をさすりながら言い訳する。


「『不敬』? 学園では身分による上下はないから『不敬』という概念も通用しない。だが発言内容は精査してもよい。この女生徒は王子に何を言ったのかな?」 


 フェ―ゲル先生の質問に王子とバルドリックは気まずそうに口ごもる。


「いえ、もういいです」


 エミール王子が言う。


「いいのかい? もし君の名誉にかかわることを女生徒が言ったなら、今皆の見ている前でそれを話して大勢の判断を仰ぎ、彼女が間違っていたならそれを取り消させることもできるが?」


 フォーゲル先生がうながすが、王子は黙ったまま、バルドリックとともに立ち去ろうとした。


「待ちたまえ、だったらこの女生徒の言葉に対する遺恨はないと誓えるのだな。後々彼女に危害を加えるような真似はしないと君たちは約束できるのだな?」


 先生が釘を刺す。

 エミールもバルドリックも小さくうなづいて去っていった。


 ただ、ここまで派手にもめてしまったらこの先の生徒会での活動が思いやられる。

 

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