第56話 首の皮一枚で繋がった婚約
何を言われても生徒会としての決定は覆らない、と、私は話をしめた。
そして、婚約自体は王家とブリステル公爵家の問題なので沈黙を守ることとする。
国王はエミールの若さゆえの未熟さを主張して、これから成長してゆくので気長に見守ってほしいと懇願してきた。
若さというならフェリシアも同い年なんだけどね。
結果としては、国王のしつこい懇願に公爵夫妻は抵抗したが、娘のフェリシアが根負けをして継続を受け入れた形になった。フェリシアって気が優しいというか弱いというか、それは美点でもあるけど心配になってくるな。
「サラ様、私をかばってくれてありがとうございました。サラ様と王太子殿下のようになりたいと思っていたのに、結局こういうことになって、ダメですね、わたしは」
話し合いが終わった後、フェリシアからそう声をかけられた。
「婚約者同士の関係は互いの性格によってそれぞれ違うだろうから、私たちと同じでないからと言って落ち込むことはないよ。そもそもこの事態で悪いのは君の方じゃない。私の仕事の方も今までやってくれてありがとうね」
私はフェリシアにねぎらいの言葉をかける。
「今までずっと自分のやりたいことを我慢していたのだから、休みをもらったと思ってやりたいことをやってみるのもいいんじゃないかい。」
横にいたジークも彼女を励ました。
フェリシアは驚いた顔をして私たち二人を見やり眼に浮かんだ涙をぬぐう。
彼女と別れた後、私とジーク王太子殿下はいっしょに廊下を歩きながら話した。
「君はフェリシア嬢にこれまでのことについての礼も言ったけど、あいつはそれも無しなのか?」
ジークが呆れたように言う。
エミールは王妃とともに退室したが納得できないという表情。
婚約を継続と言っても首の皮一枚でつながっている状態だというのが分かっているのかね、あの親子は。
「それにしても、エミール殿下は生徒会の仲間に向かって、どうしてあそこまでフェリシア嬢をおとしめるような言動をしたのかしら?」
本当にこれだけはさっぱりわからない……。
「王太子殿下もサラ様も極めて優秀なお方ゆえ、そうでない方のお気持ちがわからないのではないでしょうか。もちろん、エミール殿下も優秀な方ですがフェリシア嬢の優秀さは群を抜いています。エミール殿下としては、自分より上の成績を取った婚約者が自分の仕事を肩代わりしていて参加できないとなると体裁が悪いと考えたのではないでしょうか」
私とジークの少し後ろを歩いていた従者トロイアが意見を述べる。
「なんだ、それは! フェリシアが一位を取ったのが悪いみたいだね、もしその推測が当たっていたらちっちぇえ男!」
「彼女に手を抜けなどと言えるわけがないし、そんなことで体裁がどうのと考えるくらいなら、エミールが次こそは上をいくよう頑張ればいいだけだろ!」
私とジーク殿下は口々に答える。
「ああ、やはりお二人はそう考えられるのですね。自分はお二人に比べれば凡庸な輩ですので、そうでないかと推測してしまったわけで……。ケチな性根の家臣のくだらない推測として一笑に付していただいてかまいません」
幼い頃からジークにずっと仕えてくれる従者の意見。
まあまあ、参考になった。
当たっているとしたなら、婚約継続とはなったけどフェリシアにとっては厄介だな。心根は純粋な子みたいだし「悪役令嬢」に仕立て上げられたりしないよう気を付けて見ていかなきゃ。




